攻めているのは実はスタイルじゃなくパフォーマンス
秋を迎える頃になると次の年のイヤーモデルを発表するハーレーダビッドソン。基本的には毎年オールラインアップを更新していく中で、その年の”目玉”と言えるモデルやシリーズがあり、ハーレーダビッドソンの魅力を知っている人にとっては、それが楽しみなのであるが、今年はさすがに驚いた。ビッグツインモデルでも軽快でスポーティな走りを楽しめるツインショックのダイナファミリーがなくなり、日本でも人気のローライダーなどを代表とするFXD系モデルはソフテイルファミリーになっていたからだ。
ソフテイルファミリーは、ファットボーイやヘリテイジなどがラインアップされているまさにハーレーダビッドソンらしいスタイルを持ったモデル群。その特徴としては、ぱっと見、リアサスペンションがないリジッド化されたように見えること。もちろん、サスペンションはちゃんとついているので、現代的な乗り味の上に、古き良き時代のスタイルを表現しているモデルがソフテイルなのだ。
ということは、ダイナシリーズとはスタイルの考え方が根本的に違う。「見える2本サスがカッコイイ!」というダイナと、「サスペンションがないように見えるのがカッコイイ!」というソフテイル。これは本来なら真っ向勝負!となるわけだが、今回のモデルチェンジで、昨年ツーリングファミリーに搭載したハイスペックの新型ビッグツインエンジン「ミルウォーキーエイト」をダイナ&ソフテイルファミリーに搭載するにあたり、これまでとはステージの違うスポーティな走りを可能にする新設計のソフテイルフレーム+モノサスを採用したことで、スポーティな走りがウリでもあったダイナをソフテイルに統合することにしたのである。つまり、消極的シリーズの統合ではなく、積極的進化のためのNEWソフテイルシリーズ誕生ということだ。
積極的な姿勢というのは、そのモデルたちを見るとよく分かる。
シリーズが統合したことで、ラインアップは洗練されて、個性のあるモデルたちが顔を揃える。どのモデルも明らかに先進的で明確な進化を遂げ、魅力的になった。モデル数は10→8へと絞られたはずなのに、以前よりも目移りしてしまうのは、そのせいだ。今回参加した、スペインで開催されたメディア向け試乗会では、ファットボブ、ストリートボブ、ブレイクアウト、ヘリテイジクラシックと、ダイナ生まれのソフテイルを2モデル、ソフテイル生まれのソフテイルをそれぞれ2モデル、計4モデルを選定してくれていたので、個人的には迷いがなくなって助かった。初めに乗ったのはファットボブ。昨年までの面影は全くなく、時代を飛び越えるように大胆に生まれ変わった。デザインの引きの良さもさることながら、その装備もパフォーマンスも特別だ。
シリーズ唯一の倒立サスに前後16インチ。フロントブレーキはダブルディスクで、ツンっと上がったサイレンサーを装備。その佇まいは明らかにスポーティさを強調している。ハンドルはフラットでワイド。跨いだ瞬間に、典型的なアメリカンスタイルの乗り物ではないと分かるポジションで、乗り手を走るぞ!という気にさせる。発着場をスタートし、本格的にワインディングに入った時、ファットボブはその個性を爆発させた。
SPECIFICATION
全 長:2340㎜
全 幅:960㎜
ホイールベース:1615㎜
シート高:710㎜
車両重量:車両重量
エンジン形式:V型2気筒 Milwaukee-Eight107(114)
総排気量:1745(1868)㏄
ボア×ストローク:100㎜×111.1㎜(102㎜×114.3㎜)
最大トルク:15.8㎏-m/3000rpm
燃料タンク容量:13.6L
レーク角/トレール:28°/132㎜
変速機形式:6速リターン
ブレーキ形式 前:ダブルディスク 後:シングルディスク
タイヤサイズ 前:150/80-16 後:180/70B16
従来のソフテイルファミリーもリニューアル
前後サスペンションの挙動はとても把握しやすく、身のこなしは素直。剛性の上がった新型ソフテイルフレームは、これまでのどっしりとした安定性を強調するものとは違い、ライダーと一体感を生んでくれる。更に、新採用したモノショックは、これまでの存在を消すようなサスペンションとは違い、しっかりとアピールして乗り手を受け止めてくれる。おかげでタイトなコーナーでも、ハイスピードなコーナーでも安心して開けられるのだ。ブレーキのタッチも柔らかく素直。欲しいところで欲しいだけの制動力を与えてくれる。コーナーリング手前で荷重をかけ、迷うことなくすんなりと曲がっていけるのは、まさにスポーツバイクの面白さ。どう走れば良いかを車体が知っているのだ。
スペインのワインディングは、タイトなコーナーやハイスピードコーナーが組み合わさってハードでもあったが、このような場所をしっかりと走りこんで初めて、ファットボブの持つキャラクターや楽しさを知ることができるとも感じた。ちなみに、今回試乗したのは排気量が1868㏄の『ミルウォーキーエイト114』エンジン搭載モデルであったので、面白さが足されていることを加えておく。
他の3モデルもしっかりと個性が出ていて面白い。ヘリテイジクラシックは、ソフテイルファミリーの中では装備が充実したツアラー要素の強い車体。当然、車重も上がるが、その重さを感じさせないのがこのモデル。ファットボブがワインディングをスポーツするのとは違い、ゆったりと滑らかに駆け抜けていく。他のモデルでは上手く走れないと感じる人でも、ヘリテイジのアダルトな安定感に思わず身を寄せてしまう人も多いことだろう。もちろん、高速でのウインドプロテクション能力の高さは秀でている。
240㎜の超ワイドなリアタイヤ、低く長いドラッグスタイルに縦型のヘッドライトなど、ブレイクアウトは最もフォトジェニックな1台。他のモデルと比べればコーナーリングよりも直線派ではあるが、走っている姿に目を奪われたのもブレイクアウトだった。ユーザーにそういう部分をくすぐってくるのも、ハーレーダビッドソンの魅力のひとつだ。
そして、個人的に所有欲が湧いたのはストリートボブ。毎日気軽に乗れるタイプだが、その日常はいつも特別だと思わせてくれるスタイルをストリートボブは持っている。今回のソフテイル化で、昨年までのモデルとは乗り心地も大きく変わって、日常使いでのちょっとした突き上げのストレスも確実になくなった。さらに、新型ソフテイル全般に言えることだが、バランサーをデュアル化して一次振動を50%に抑えて、ハーレーらしい鼓動感だけを際立たせているから、立ち上がりに開けた時の面白さが際立っているのだ。
これまであったシリーズを大きく進化させていく発想や勇気、それらを具現化するべく生み出された新しいソフテイルシリーズ。ハーレーダビッドソンへの敬意や興味は、人それぞれだろうが、まずは偏見を持たずに乗る機会を持ってみるといい。きっと、ハーレーダビッドソンが表現する、〝自由〟を感じ取ることができるはずだ。
PHOTO:HARLEY-DAVIDSON