39.7度まで体温があがったレースウィーク
下田のようなタイトルを狙うライダーにとって、レースにおけるスピードや強さはもちろん大事だが、ポイント争いから脱落しないために怪我をしないこと、体調管理を万全にすることも大事な勝利への要素。とはいうものの、あらがえない体調不良もある。第2戦のハングタウンではジェット・ローレンスが発熱をともなう体調不良に襲われた。それでも総合優勝を奪い取っていくあたりがタイトルホルダーの強さだが、このサンダーバレーで発熱に苦しんだのは下田である。
ハングタウンが終わって2日後の月曜日から体調を崩し、最高時には39.7度まで体温が上昇。下田は発熱で体力が奪われていく最悪のレースウィークを過ごしていた。今年のAMAプロモトクロスではコロナへの対策はほとんどされておらず、マスクをしているライダー・スタッフはほぼ皆無である。選手にたいしての出場規制もなく体調不良のライダーでも自己責任でレースを走ることができる。
だが、よりによって第3戦サンダーバレーは1700mを越える標高で、マシンにもライダーにも過酷なレーストラックとして知られている。また、開幕から続く2戦は涼しく快適な環境だったが、このサンダーバレーのあるコロラドは32度の酷暑に見舞われた。悪条件が重なるこのレースをいかに乗り切るか。第3戦の核心はレース前から始まっていた。
冷静そのもの、下田の強い精神力がレースに生きる
「当日の体温は38.5度でした。その日なんとか走りきれるように、と薬を何種類も飲んでいて、レース時には36度後半くらいまで落ち着いていたと思います。気温は高いし、エラい(辛い)し、フィニッシュできればいい、くらいに思っていました。体調不良で集中力を欠けばクラッシュもあったかもしれません。とにかく今回は、ポイントを大きく落とさないレースにしたいと思っていました」
下田のメンタルはアマチュア時代から強靱だった。ロレッタリンで骨にヒビが入るような転倒をしていても次のレースに間に合わせ、それこそポイントを大きく落とさないように上位で走りきる。サンダーバレーのモト1は、不調なスタートで10番手での立ち上がりだったが、少しずつ順位を上げて7位。モト2では5番手のスタートで、中盤にリーバイ・キッチンから執拗なパッシングを受け数周こらえたものの、6位へダウン。そのままフィニッシュとなり、総合は5位。最悪の状況をこの順位で終えられたことは、下田にとってもまずまずの結果だった。
「サンダーバレーはアベレージスピードが高いコースなので、差が付きづらいです。ワダチは深いのですがレーストラックは荒れておらず、そこまで難しくはなかったですね。ただ標高が高くて酸素濃度が薄いせいでインジェクションでもバイクが走らないんです。だからレース全体を通してそこまで順位変動が無かったのかもしれません。
今回はプッシュすることが全然できなかったので、できるだけ前に出ておいてその位置をキープする戦略をとりました。それと、とにかくペースを落とさずにベストラインをトレースする走りに徹底しています。リーバイに背後に迫られたときも淡々と自分のラインを走り続けていますね。ブロックラインを使ってもいいんですけど、ブロックラインを使うことでタイムロスしてしまうのが嫌なんですよ。
自分的には総合でトップ5に入れたので、結構よかったかなと思います」
このインタビューをしている現地時間6月13日にも下田の体調は回復していないが、週末には第4戦ハイポイントが迫る。いまは体調を整えることに専念し、再びトップを狙えるところまでもっていく。下田にとっての苦難が続く。