韓国のハードエンデューロレース「SANLIM EXTREME ENDURO(サンリム・エクストリーム・エンデューロ)」に4人の日本人ライダーが出場した。ライダーは全日本ハードエンデューロ選手権の#1山本礼人、# 3原田皓太、#4水上泰佑、#6佐々木文豊。レースを終えたライダーたちは表彰式(アフターパーティ)で韓国人の温かさに触れた
チームジャパンは4人ともDAY2を完走。とはいえ、水上はDAY1をDNF、山本はDAY2にCP1をスルーしており、ペナルティタイムなどがどのように成績に反映されるのかが気になるところ。しかしGPSデータのチェックが終わらなくては成績は確定しない。翌日の午前中に出国を控えていたチームジャパンは急いでユン・ファクトリーに戻り、日本から持ち込んだカスタムパーツを外し、レンタルしたマシンの返却を済ませた。
豪華すぎるアフターパーティ
ユン・ファクトリーから徒歩5分のところに温泉施設があり、レースにエントリーしていたライダーはそこを無料で使用できるようになっていた。汗を流してさっぱりしたチームジャパンは、アフターパーティ会場へ。
日本のレースと違い、ゴール地点では表彰のようなものは一切なく、成績発表や景品の授与などは全てこのアフターパーティで行われる。完全にレースとセットになっていて、これに参加しないライダーはほとんどいない。会場についてみて、その規模の大きさに驚いた。
ビュッフェ形式の食事が並べられ、各チームが固まってテーブルに座り、各々に食事を楽しんでいた。ドリンクも飲み放題だ。日本のハードエンデューロにはこの規模のパーティを行う習慣はなく、戸惑ってしまったが、公道を使うことも含めて、韓国では日本のラリー競技のような規模感でハードエンデューロが遊ばれているのだろう。エントラントの年齢層も高く、若者はかなり少なかったため、かなり富裕層のカルチャーなのだろう。チャンピオンのチェホンは26歳の若手だが、お父さんがレーサーを10台くらい所有していてかなりのセレブだということが判明している。
表彰台の背景に掲げられた特大の垂れ幕には「2022 ROUND2」や日本国旗のイラストが入っており、今大会のためだけに作られたことがわかる。各クラスの1〜3位までにはオリジナリティあふれるトロフィーと、LEATTのヘルメット or ブーツ。そして完走者全員に木製のメダルとMOTULのオイルセットが用意されていた。
いよいよチームジャパンのリザルトが明らかに
4位、山本礼人。5位、佐々木文豊。7位、原田皓太。8位、水上泰佑。山本のCP1をスルーしてしまったペナルティは15分。水上はDAY1の24位から大幅に順位を上げた。しかし、誰もトップ3には入れなかった。
チームジャパンの表彰台登壇はナシ、そう思っていたら、なんと全クラス5位まで表彰台に呼び出され、山本と佐々木が登壇。
そして最後の最後に集合写真撮影。サンリムでは「バカヤロー」という日本語が流行っておりコースディレクターのユンに対して「ユンさんバカヤロー」という言葉がスローガンのように使われていた。レース中もたびたび耳にしていたのだが、ここでもガッツポーズを合わせる掛け声に使われた。さしずめ、今やTwitterでトレンド入りするまでに成長したハッシュタグ「#CGCを許さない」の如く、だ。
さらに各ライダーはレース中に助け合った他国ライダーとも交流を深めており、Instagramや
Facebookでたくさんの友人と繋がった。(韓国、台湾ではTwitterはほとんど使われていない)
山本「これまでの海外レースで一番楽しかった」
原因はあふれんばかりのホスピタリティ
山本礼人
「大会の規模がめちゃくちゃデカくて、あんなパーティ会場で表彰してくれたら、すごく嬉しいですよね。2020年3月の台湾のレースでユンやドゥとは一緒に走っていて、その後もFacebookで連絡を取り合っていたので、友達に会いに来たという感覚で、一緒に走れてすごく嬉しかったです。
ルーマニアクスだとマシンを借りたクロスパワーレーシングにお金を払ってやってもらっていたサポートをオフィシャルが全てやってくれるので、極端な話、ライダー1人で参加しても困らないと思います。レースに集中できる環境が完成されているんです。
日本との一番の違いはやっぱり土質です。とても乾燥していて、カサカサ。硬い土や岩の上に砂が積もっていて、ルーマニアと似ています。だから日本だと絶対に掘れるだけで進まないような押し方をしても前に進むし、登れるんです。
また、僕らは誰1人として韓国語が全くわかりません。お互いにカタコトの英語で『相手の意図を理解しよう』と思って聞くから、あやふやな英語でもわりと通じるんですよね。ちょっと難しい話は翻訳アプリが十分使えますし、今回は嬉しいことに仕事で韓国に滞在している日本人ハードエンデューロライダーの前田さんが木曜日に来てくれて大会ルール説明の補足をしてくれたので、とても助かりました。
これまでの海外レースで一番楽しかったかもしれません。初めての韓国なのに不安になることが一切なかったです。絶対にまた参加したいです」
原田皓太
「あの表彰式は前に出たかったですね……! あんなに豪華だと嬉しいですよ。韓国の人たちの歓迎具合が本当に最高で、僕はアヤトやタイスケさんと違って台湾に行っていないのでアジアのライダーと話すのは初めてだったのですが、すごくよくしてもらいました。今度は日本に呼んで同じように歓迎してあげたいのですが、今の日本ではここまでの環境が整っていないので、今後どうにかしていきたいですね。
今回はIRCタイヤのワンメイクレースだったのでみんなリアタイヤにIRCを履いていたのですが、韓国ではミタスかミシュランが好んで使われるそうです。日本とは全然路面が違うので、グリップのいいタイヤも変わってくるんでしょうね。
レースが始まる前から終わった後まで一貫してライダーファーストでした。すごくケアされてます。CPの休憩時間はタイム管理から給油まで全部スタッフがやってくれて、ライダーは何も考えずに座って水を飲んで食事が摂れる。とても大事にされてる感じがして嬉しいですよね」
水上も「僕は来年から仕事が忙しくなってしまうので今回で海外遠征は最後にするつもりでしたが、このレースは来年も出たいですね。それくらい楽しかった」と振り返った。佐々木に関しては、表彰式で見せたガッツポーズが全てを物語っているだろう。
いくらかかるの?
韓国サンリムエンデューロ参戦
なお、今回の韓国遠征にかかった一人当たりの費用は以下の通り。(※1円=10ウォン換算)
エントリフィー:2万3千円
マシンレンタル:10〜12万円(年式によって異なる)
宿泊費:1万3千円(4泊5日)
レンタカー代金:7万円(レンタカーなしでも参戦は可能)
飛行機代:3〜4万円
合計で20〜30万円前後。これに使ったタイヤ代とレースで壊したパーツ代が追加される。また、GPS機器とマウントが必要なのだが、これは一回購入すればずっと使うことができる。GPS機器は1つ4〜5万円で、2つあればベストだが1つでも十分にレースは可能。ホルダーマウントは2000円程度からある。
スケジュールは
木曜日:韓国入り、マシンセット
金曜日:マシンセット予備日、試走
土曜日:レースDAY1
日曜日:レースDAY2、アフターパーティ
月曜日:帰国
と、5日間。マシンのセットアップをなくしても最短4日間は必要だ。今回は木曜日が11月3日で祝日だったため、金曜日と月曜日に有給を取れれば、一般会社員でも参加可能となっていた。
山本、佐々木、原田によるとSea To Skyは60〜80万円、ルーマニアクスは130万円ほど必要とのこと。それでいて、みんなが口を揃えて「韓国が一番楽しかった」と言う。なお、このSANLIM EXTREME ENDUROは毎年6月と11月の年2回開催となっていて、今回参加した4人のライダーは来年も参加する方向で考えている、とのこと。
DAY2の山本のコメントにもあった通り、今回参加した4人のライダーは、スピードもテクニックも決して韓国のトップライダーに劣っていなかった。韓国ライダーはホームコースだったのに対し、日本人はレンタルマシンに慣れないGPSレース。それでこの成績は十分なのではないだろうか。山本にバイクを貸したクォンが別れ際に「韓国の山に初めて来てこれだけ走れるのは素晴らしい。もし韓国のチャンピオンが日本に行ってもこれだけの成績は出せないだろう。次もう一度来たら今度こそ日本チームで表彰台を独占できるだろう」と言っていた。多少、社交辞令も含まれるだろうが、それくらい実力は伯仲していたと見ていい。
このサンリムこそ予算と休みがあまりなくても参加しやすく、日本人ライダーの実力にも合った、コストパフォーマンスに優れた海外ハードエンデューロと言えるのではないだろうか。ユン・ファクトリーとのパイプも今回の参戦でかなり強固なものになった。現在は休止している九州から釜山までのフェリー航路が復活すれば、トランポやマシンも持っていくことができる。これまでは予算や休暇の都合上なかなか海外レース参戦に踏み切れなかったライダーも、これならば参加できるのではないだろうか。ぜひこの素晴らしいコリアン・ハードエンデューロ・カルチャーに直に触れてみて欲しい。そうすることでロシア、韓国、台湾、カンボジア、そこに日本を加えた極東ハードエンデューロカルチャーはもっともっと育っていくはずだ。