文:宮﨑健太郎(ロレンス編集部)
※この記事はウェブサイト「ロレンス」で2024年3月15日に公開されたものを一部編集し転載しています。
3月14日のクラス新設発表の前に、反対の声を上げる
MXGP開幕戦から約1週間後、3月14日にMXGPのプロモーターであるインフロント モト レーシング(以下インフロント)は、2026年よりMXEP=エレクトリック サポート クラスをスタートさせることを発表しました。
MXEPは各国を転戦するMXGPのサポートイベントとして、欧州6ラウンドで電動車オンリーのレースを行う・・・というのがその趣旨ですが、インフロントはFIM(国際モーターサイクリズム連盟)やMSMA(製造者協会)と協力し、MXEPを確立された選手権にすることを考えているようです。
インフロントの発表の前・・・3月13日に電動モトクロッサーを製造販売するスターク が、MXEP案への反対を表明したわけですが、すでにインフロントがMXEP新設を考えているのは界隈では公然の秘密でしたので、発表前の反対表明という珍事となったわけです。
MXEP構想に対する、スターク フューチャーの反対声明
スターク フューチャーのMXEPに対する反対声明は、以下のとおりです。
「スターク フューチャーは、技術的な進歩を促進するという目標は認めつつも、分離は解決策にはならないと考えています。その代わりに、統合はすべての側面が成功するチャンスだと考えています。最高レベルのレースで新技術を採用することで、スターク フューチャーはレースをより魅力的なものにすると同時に、あらゆる面で最強の技術向上を促進することを構想している」
またスターク フューチャーのCEO兼創業者のアントン ワスは、当初は独立クラスだったトライアルEを、後にトライアルGP各クラスと「融合」させたことを引き合いに出し、反対案の正しさの補強を試みています。
「スターク フューチャーのCEO兼創設者として、私は電動バイクを別のクラスに分離することは、モトクロスにおける真の競争の本質を損なうものだと確信しています。私たちの使命は、障壁を取り除き、内燃エンジンと対等な立場で電動技術の可能性を紹介することです。モトクロスは革新と限界への挑戦によって繁栄するものであり、分離はより包括的でダイナミックなスポーツに向けた私たちの集団的進歩を妨げるだけです。世界トライアル選手権は、内燃エンジン車に電動車を含めるという素晴らしい取り組みを行ってきた。そしてこの(電動)プラットフォームが競争力を持つとき、内燃エンジンに匹敵する存在となることを示したのだ」
今のところ、電動モトクロッサーの残した輝かしい業績といえば、この論争の当事者であるスターク フューチャーが英国アリーナクロス選手権を制覇したこと。そして2016年の「レッドブル ストレート リズム」で、ジョシュ ヒルが今は亡きアルタ モーターズのマシンを駆って歴史的勝利を記録したことくらいでしょう。
ひとりのモータースポーツファンの視点からは、ICE搭載車と電動車がガチ勝負することは、参加メーカーの増加にも繋がるし、スターク フューチャーの主張どおり技術の進化を促す効果も期待できて、メリットが多いように思えます。なぜインフロントは、分離案を打ち出したのでしょうか?
MSMAメンバーたちの、思惑がどんなものか気になりますね・・・?
下種の勘繰りをすると、インフロントの発表のなかにも登場したMSMAの構成メンバーたちの思惑がどこにあるのか、非常に気になってしまいます。MSMAはMotoGPに参戦するホンダ、ヤマハ、ドゥカティ、KTM(ピーラー モビリティ グループ)、そしてアプリリアで構成されていますが、そのうちホンダ、ヤマハ、KTMは長年モトクロスのファクトリー活動や市販モトクロッサー製造販売を行っています。
そしてドゥカティは最近デスモ450MXというモトクロッサーを開発中ですが、その視野には将来の市販モトクロッサー製造販売もすでに入っているでしょう。いずれのメーカーも将来に備え2輪EVの開発には取り組んではいますが、できればこの先も可能な限り長く、ICEを搭載する市販モトクロッサーの製造販売を続けたいとも考えているはずです。
1990年代からモトクロスの世界は、段階的に2ストロークから4ストロークへ移行しましたが、これからいきなり電動に移行しちゃうのはまだ準備が整っていないので勘弁してほしい・・・というのが、多くのメジャーメーカーの本音かもしれません? MSMAとは関係のない企業・・・例えば現在実戦に参加しつつICE搭載モトクロッサーを開発しているトライアンフも、多分勘弁してくれと思うのではないでしょうか。
その観点からすると、新興電動勢のスターク フューチャーとしては、ICE搭載車と良い勝負を披露することができればそれは格好の宣伝材料になりますので、MXEP構想に大反対するのは当然の態度といえます。新興勢は身軽さも企業としての強みですから、電動モトクロッサー黎明期の今、活躍できるだけ活躍したいと考えることでしょう。
もっとも将来に電動車同士で全面戦争となれば、資本力で圧倒的に劣るスターク フューチャーには勝ち目はないでしょう(おそらく?)。今後MSMAがインフロントのMXEP構想を推し進める側に回るのだとしたら、それは今の時点ではビジネスを考慮し、ICE搭載車と電動車を積極的には混走させたくない・・・という政治的判断が優先されたと見ることができるのかもしれません。
先に記したとおり、これはあくまで下種の勘繰りですので、実際のところはどうなのかわかりません。2026年のMXEPスタートまではまだ時間がありますが、はたして各メーカーが2026年までの期間、どのような態度をとるのか注目して観察したいですね。
文:宮﨑健太郎(ロレンス編集部)