この時期のセパンテストの意味って?
2月に入っていよいよMotoGPのオフィシャルテストがスタートしました。
2019年の最終戦が終わって3カ月、この間ホルヘ・ロレンソの現役引退からヤマハテストライダー就任、マルク&アレックス・マルケスの兄弟ファクトリーチーム結成と、いろいろと事件も起こりましたけど、ようやく2020年シーズンに向かってスタートラインに立った感じですね。
この数年、シーズン開幕までのテストスケジュールも変わってきましたが、このセパンテストっていうのは、前のシーズン終了直後のテスト(2019年でいうバレンシア→ヘレステストですね)に持ち込んだ新シーズン用のニューマシンを、最初の手直しをして、ライダーがチェックする――そんなテストです。
というのも、現在のMotoGPっていうのは、シーズン中のマシンの開発、アップデートができにくいレギュレーションになっているから、この数回のウィンターテストが重要なのですね。
ご存知のように、まだMotoGP未勝利のKTMとアプリリアにはハンディキャップが与えられてますけど、ホンダ/ヤマハ/スズキ/ドゥカティは、シーズン中にエンジン開発ができません。
つまり、シーズンイン前に1年間使うエンジン仕様を決めておいて、それを1年間使わなきゃいけない、と。あちゃー、エンジン仕様ミスったなぁ、って思っても後の祭りで、シーズン中はエンジン以外、つまり電子制御や吸排気系、フレーム構成で修正していかなきゃならないわけですね。
ここ数年のシーズンの流れとしては、シーズンの全レースが終わって、直後にバレンシア→ヘレスでテスト、そこからテスト禁止期間に入ります。もちろん、シーズン中のオフィシャルテストもありますが、これも回数が制限されていて、正ライダーが走行できるテストはシーズン中に5月のヘレス、6月のカタルニア、8月のブルノとミサノの4回のみ。そこで、各ファクトリーはシーズン中の対策パーツや新シーズンへのニューマシンやニュースペックパーツを投入するわけです。だいたいブルノあたりで新シーズンへのマシンがプロトタイプとして持ち込まれることが多いみたいです。
そして年が明けてこのセパンテストがあり、前回のヘレスに持ち込まれたニューマシン候補を再確認し、2月終わりのカタールテストで最終確認、3月8日の開幕を迎えるわけです。
セパンの3日間テスト結果から見えるのは…
で、そのセパンテスト。3日間を通しておおむね天候にも恵まれて、各チーム、各ライダーともものすごい質のテストをこなしたようです。
3日間を通しての総合順位は
①クアルタラロ ②クラッチロウ ③リンス ④バニャイア ⑤ロッシ ⑥ペトルッチ ⑦ポル・エスパルガロ ⑧ミラー ⑨ペドロサ ⑩アレイシ・エスパルガロ
がトップ10。この中では、唯一ミルだけがベストタイムを2日目に出して、他は最終日にベストタイムを出していますね。
3日間を通しての最多周回は、最後の30分ほど雨に降られた最終日のビニャーレス、なんと83周! 3日間合わせての最多周回もビニャーレスで、3日間合計201周! 主要ライダーで200周を超えたのはビニャーレスだけで、ビニャーレスはこのセパンテストでは毎年のように最多周回数の常連です。
「マーベリックには、ライディングに迷ったらとにかく走り込め、って言うんだ」とは、前ヤマハYZR-M1プロジェクトリーダー氏。少しのセッティングの狂いも、自分の走りでカバーするタイプのライダーなんだそうです。
次いでミラーの199周、クラルタラロの181周、モルビデリの180周。もちろん、周回数が多いからナンダ、って言われればそれまでですが、この時期のテストでは乗りこんで乗りこんで、タイムを出して、って作業の中で、周回数が多いライダーはライダーの調子がいいし、マシンもいいフィーリングだ、って見てもいいと思います。
ただし、このタイムでマシンとライダーの調子を判断するのは早計です。
同じタイムが出ていても、それがどんなタイミングでの周だったのか、1回ピットアウトして何周したときのタイムなのか、さらに気温が高いときのタイムなのかどうか、路面コンディションはどうだったのか、誰かのドラフトについてスピードを出したのかなどなど--。
「テストって、実はタイムを出そうと思ったらソフトタイヤを履いて出ていけばいいんだけど、最終日にソフトタイヤを履かなかったのは僕とマーベリック、そいれにドビツィオーゾくらいかな。少なくとも僕は、3日間のテストでタイム出しを重要視せずに、テスト項目を消化して、走りまくっていたんだ」とは、スズキECSTARのジョアン・ミル。
実はスズキの計らいで、リンス&ミルのセパンテスト後のインタビューをさせてもらったので、その模様は明日にでもお伝えしますね。
以下、3日間のタイムシートです。
MotoGP オフィシャルテスト1
Day01
1 ファビオ・クアルタラロ /ペトロナスヤマハSRT /1:58.945
2 フランコ・モルビデリ /ペトロナスヤマハSRT /+0.051s
3 アレックス・リンス /TeamスズキECSTAR /+0.250s
4 カル・クラッチロウ /LCRホンダCASTROL /+0.289s
5 ジャック・ミラー /プラマック・レーシング /+0.291s
6 マーベリック・ビニャーレス/ モンスターエナジーヤマハMotoGP /+0.422s
7 アレイシ・エスパルガロ /アプリリアレーシンググレシーニ /+0.482S
8 ポル・エスパルガロ /レッドブルKTMファクトリーレーシング/+0.591s
9 ジョアン・ミル /TeamスズキECSTAR/ +0.623s
10 バレンティーノ・ロッシ /モンスターエナジーヤマハMotoGP /+0.624s
初日はクアルタラロ-モルビデリのヤマハサテライトチーム勢が1-2フィニッシュ。ふたりは19年型/20年型マシンを混ぜながらの走行で、モルビデリは19年型に見えるマシンで走行を重ねていましたね。最多周回はモルビデリで、文字通り精力的に走りこんで、タイムも出して、という初日となりました。初日はマシンに大きな変更がないライダー、テスト項目の少ないライダーが上位タイムを出す傾向がありますね
Day02
1 ファビオ・クアルタラロ/ ペトロナスヤマハSRT /1:58.572
2 ジャック・ミラー /プラマック・レーシング /+0.069s
3 ダニ・ペドロサ /KTMテストライダー /+0.090s
4 ジョアン・ミル /TeamスズキECSTAR /+0.159s
5 フランコ・モルビデリ /ペトロナスヤマハSRT /+0.259s
6 マーベリック・ビニャーレス /モンスターエナジーヤマハMotoGP /+0.321s
7 アレックス・リンス /TeamスズキECSTAR /+0.406s
8 ポル・エスパルガロ /レッドブルKTMファクトリーレーシング /+0.417s
9 マルク・マルケス/ レプソルホンダチーム /+0.525s
10 バレンティーノ・ロッシ /モンスターエナジーヤマハMotoGP /+0.544s
2日目のサプライズは3番手のペドロサ! テストライダーがレギュラーより速いという「ストーナー現象」が起こってしまいました。ちなみにセパンが得意なペドロサのタイムは58秒662で、これはレプソルホンダ時代の現役最後のマレーシアGP、ドライセッションのFP4のタイムを超えちゃっています! 右肩手術からの復帰中のマルク・マルケスが初日12番手から9番手に上がってきてます。
Day03
1 ファビオ・クアルタラロ /ペトロナスヤマハSRT /1:58.572
2 カル・クラッチロウ /LCRホンダCASTROL /+0.082s
3 アレックス・リンス /TeamスズキECSTAR /+0.101s
4 フランチェスコ・バニャイア /プラマック・レーシング /+0.153s
5 バレンティーノ・ロッシ /モンスターエナジーヤマハMotoGP /+0.192s
6 ダニロ・ペトルッチ /ドゥカティチーム /+0.257s
7 ポル・エスパルガロ /レッドブルKTMファクトリーレーシング /+0.261s
8 ジャック・ミラー /プラマック・レーシング /+0.267s
9 アレイシ・エスパルガロ /アプリリアレーシンググレシーニ /+0.345S
10 ジョアン・ミル /TeamスズキECSTAR /+0.387s
最終日は、なんとトップ10が0秒3差内に入ってしまうという超接近戦! ファクトリーチーム順で言うと、スズキ:リンス→ヤマハ:ロッシ→ドゥカティ:ペトルッチ→KTM:ポル・エスパルガロ→アプリリア:アレイシ・エスパルガロ、それにトップのクアルタラロも2番手のクラッチロウもファクトリースペックのマシンですから、6人のファクトリーマシンライダーが0秒345内にひしめいてしまっています。昨年までのホンダ/ヤマハ/スズキ/ドゥカティに続いて、KTMとアプリリアもベースタイムを大幅アップさせてきましたね!
写真/motogp.com 文責/中村浩史