MotoGPクラス開催中止でMoto2&3のみで開幕
新型コロナウィルス感染拡大の影響で、世界選手権MotoGPロードレースの開幕戦カタールGPは、最高峰のMotoGPクラスが開催中止となり、Moto2&3クラスのみの開催となりました。
あらためて説明すると、開幕戦直前の2/28~3/3に現地テストを行なったのがMoto2&3クラスで、参加チームはそのまま現地に残ったため開催が可能になった、ということ。その1週間前に現地テストを済ませていたMotoGPクラスのメンバーは、いったん帰国→再入国をしても14日検査隔離される国が多かったため、MotoGPクラスのみ開催できなかった、というわけ。
その開幕戦、注目は日本人唯一のMoto2ライダー、長島哲太に集まっていました。長島は2014年にグランプリにフル参戦をスタート。しかし、15~16年にはGPからスペイン選手権に転出、17年にGPに復帰というキャリアを持つ苦労人。
17年には最高位10位、18年には最高位8位、そして3年目の19年には、プチブレイクし、GP初ポールポジション、フロントローも3度獲得。ランキングは14位、最高位は5位ながら、たびたびトップグループを走る地力をつけてきていました。
19年シーズン終了後には、一度は契約続行と言われた所属チームから突然契約解除され、けれどAJOモータースポーツへ移籍。AJOは長島がスぺイン選手権参戦時に所属していたチームで、レッドブルというビッグスポンサーを持つMoto2のトップチーム! これ、どう見ても「ステップアップ」で、どうも前チームが契約解除を発表したのは、AJO移籍が内定していた長島へのいやがらせ、とまでパドックで言われていたようです。
その長島が、シーズンオフから好調を維持し、プレシーズンテストで上位ポジションをキープ。年明けに会ったときには、好調の秘密をこう話してくれていました。
「2020年はバルセロナに住むんです。今までは日本とサーキットを数戦ごとに往復してましたけど、腰を据えて、ね。GPライダーっぽいでしょ(笑)。テストで乗ったマシンは、今年からチームが使うことになったカレックスフレームで、19年に使っていたものと大きな差はないんだけど、すごいいいフィーリングで走れているんです。今年はね、早く表彰台に上がりたいし、優勝目指します――っていうか、チャンピオン獲りたいです」
開幕を控えた最終テストでは、初日5番手/2日目14番手/最終日22番手。それでも自信を持ってウィークに入った長島は、初日FP1で11番手/FP2で4番手タイムをマーク。2日目のFP3で5番手タイムをマークすると、予備予選を突破してQ2に直行し、5列目14番手グリッドを獲得。
「ペースは良かったんですが、タイムアタックに失敗してタイムが伸ばせませんでした。トップから0秒6差なのにすぐ10番手以降に落ちちゃう」と長島。
調子がいいんだか悪いんだか…
決勝日はフリー走行でトップタイムをマークするものの、これはあくまで参考タイム。調子がいいのか悪いのかわからない感じで、長島の開幕戦が始まったのです。とにかく、5列目からいかにスタートを決めて、最初の1~2周でトップグループに入っておかないと、が上位進出のカギですが、長島のスタートはまずまず。オープニングラップを12番手で終わると、期待していたようなジャンプアップは見られず、1台ずつ仕留めていく、というレースとなるのでした。
こういうレースって、序盤にタイヤを使っちゃって、トップグループに追いついたあたりでチェッカー、なんて展開が多いんですが、長島は本当に1周につき1台ずつパスし、徐々に徐々にポジションをアップしていきます。
2周目に11番手、3周目に10番手、5周目に9番手、6周目に8番手まで上昇。このあたりでトップ集団の最後尾あたりに追いついた長島ですが、この後は前にいるライダーがそうそうたるメンバーで、レース前半のようにぽんぽんパッシングするわけにはいきません。それでも3周ほどかけてマルコ・ベッツェッキ(VR46)を仕留めると、また3周ほどかけてシャビ・ビエルゲ(ペトロナススプリンタ)パス。ポジションは5番手、残りは9周!
5~6台によるトップグループは、タテ長になったりダンゴになったりを繰り返し、それでも長島のペースは集団の中でも明らかに速い! 長島はそのままトップ集団にもまれながら一時ポジションを落としますが、きちんと復帰して5番手→4番手→3番手とポジションをアップし、ラスト3周で何度か一瞬トップを走りつつ、ラスト2周でトップに浮上!
それでも回りがついてくるかと思いきや、なんと長島はそのまま2番手以降を引き離し、やや独走。ずっと1秒の中に5~6台がいる集団を抜け出して、2番手との差を0秒5、1秒、1秒5と広げながら、何とそのままフィニッシュ! なんとなんと長島、予選14番手からみんなブッちぎって、13台抜きで優勝してしまいました! この数シーズンでも、まれに見る大逆転劇でした!
序盤からファステストラップを連発し、中盤にタレず、終盤にも速いという、本当に強いライダーの勝ち方でした! 長島、Moto2初表彰台が初優勝です!
Moto2クラスがスタートして10年目、そのMoto2初レースで優勝したのも、日本人ライダーである故・富沢祥也でした。長島と富沢といえば、ポケバイやミニバイク、全日本ロードレースで、まるで兄弟のようにじゃれあってたふたり。祥也が2歳上なんだけれど、どっちが兄なんだか弟なんだか。
亡き祥也が初めて勝ったカタールで、テツが初優勝を遂げました。これも運命。レースをライブ放映していた日テレジータスの解説を務めていた上田昇さんも「あぁ、ショーヤが背中押してくれたんだね」と思わず漏らすほどでした。
「ショーヤが勝ったここカタールで勝てたなんて信じられない。初優勝、これが僕の初表彰台で、信じられない。ショーヤに、家族に、そしてチームとスポンサーのみなさんに感謝します」とレース後の長島。
長島はレッドブルAJOに移籍しただけでなく、KTMの主宰するGPアカデミーにも加入。ってことは、このままいい走りを見せていけば、KTMライダーとしてMotoGPクラスに昇格する可能性が大きいってことです。
Moto3クラスでの日本人ライダーの活躍はまた後ほど!
■開幕戦カタールGP Moto2クラ正式結果
1 長島哲太 レッドブルKTM-AJO 40m00s192
2 ロレンゾ・バルダッサリ フレックスBOX-HP40 +1.347s
3 エネア・バスティアニーニ イタルトランスレーシング +1.428s
4 ジョー・ロバーツ アメリカンレーシング +1.559s
5 レミー・ガードナー ONEXOXストップ&ゴー +1.901s
6 ホルヘ・ナバーロ BetaTOOLSスピードアップ +2.381s
7 マルセル・シュロッター LiquiMolyインタクトGP +4.490s
8 アーロン・カネット アスパーチーム +4.703s
9 シャビ・ビエルゲ ペトロナススプリンタ +7.118s
10 トマス・ルティ LiquiMolyインタクトGP +8.904s
写真/motogp.com 文責/中村浩史