アライヘルメットサイン会にお邪魔してきました
「けがはもう大丈夫です! 今はテストが待ち遠しくてしょうがない」
そう言ってくれたのは、日本人唯一のMotoGPライダー、中上貴晶。
多忙なシーズンオフ、ウエアブランドのIXONに続いて、アライヘルメット主催のトークショー&サイン会で、久々に日本のファンと直接あえたイベントでした。ここでは、昔っからの親しみを込めた「タカ」と呼ばせてもらいますね。
1日でライコランド東京東雲店→ナップス新横浜店をハシゴする強行軍だったけれど、なんだかタカは楽しそう。送迎を断って自分でクルマを運転しての会場入り。休日に千葉の自宅から東京を横断しての横浜行き、渋滞もあるし、決して楽ではないんだけれど、それすら楽しそう。
「日本GPの時に帰国するのとはわけが違いますからね。やっぱりシーズンオフに帰ってくるのは、すごくリラックスできます。家族と過ごす時間だったり、イヌと遊んだり、日本食を食べに行ったり、甥っ子とか姪っ子と遊んだりね。楽しみにしてるゴハンは、お寿司が多いかな。あとは叔父がやっている房総のカフェに顔出したりしています」
このシーズンオフは、いつものように日本の関係者やサポートしてくれている企業へのあいさつ回りや、姫路や門真でのIXONトークショー、そしてこのアライヘルメットトークショー&サイン会。
「日本GPの時は、やっぱりウィーク中はずっとぴりぴり張ってるから、レース本番も控えてるってこともあって、ファンのみなさんとゆっくり触れあえませんもんね。あれ、僕たちライダーもすごく残念なんですよ。だから、こうやってイベントがあるとすごくい嬉しいです」
ここで、アライヘルメットさんのご厚意で、イベント前にすこし時間を作ってもらってインタビュー。こうやってタカとゆっくり話すの、年に1~2回になっちゃいましたからね。
――22年シーズンはおつかれさん。なかなかいつもよりタイヘンな年だったねぇ。
「そうですね、やっぱり右の指をケガしちゃったのはキツかったです。右手の薬指と小指なんですが、腱断裂と手首からの腱移植だったので、感染症の心配もあって、治癒の時間がかかるみたい。骨折ならもっと回復が早くてよかったんですけどね。日本GPおわってから手術したんですが、指以外は元気だから、トレーニングもさせてもらって、病室にトレーニング機材持ち込んでましたし(笑)。最終戦には出たかったから、そこにフィジカルを落としたくなかったんです。指は今、まっすぐに伸びなくて曲がってる。だからグリップ握るのはもう平気です(笑)」
――アラゴンGPでケガして指の皮膚のとこぱっくり割れて、1週間後の日本GP走ったんだもんねぇ。あれはムチャだったけど日本GPだから走りたかったって言ってたもんね。
「日本GPじゃなきゃ走ってないです。日本の応援してくれているみんなにあえるの3年ぶりだったし。傷は両側の皮膚を寄せて縫合してたんですが、グリップ握ってると開いちゃう。レースが終わったら骨見えてましたし! ちょっとけがは悪化しましたけど、出なきゃよかったとか思わないし、出られて、完走できてよかったですよ。20位だったけど、忘れられないレースになりました」
――22年は、まだマルクが本調子じゃなくて、タカにも負担があったシーズンだった?
「うーん、やっぱりホンダのエースが本調子じゃないってことで、プレッシャーはありましたけど、それと走り、成績は関係ないと思います。むしろ、マルクがいないとホンダはダメだな、って言われたのは悔しかった。マシンもなかなか難しい状態だったし」
―22年型のホンダはなかなか難しいマシンだって言われてたね。
「21年から22年、色々変わっていく時期だったんです。シーズン中にもいろいろ新しいパーツが投入されたり、たくさんテストもやりました。そのマシンを乗りこなせなかったというか、ケガもあって、治ったらまケガ、ってシーズンでした。ポル(エスパルガロ)も本調子じゃなくて、マシン開発の軸がはっきりしなかった、ってのはあったのかなと思います」
――最終戦あとのテストは、もう23年モデルに乗ったの?
「いや、22年最終スペックに23年スペックのプラスアルファ入れたマシンです。これで方向性を見て、2月のマレーシアのテストに持ち込む仕様を決める感じですね」
タカは2018年にMotoGPクラスにデビューし、23年は6年目になる。キツ言い方をすると、83レースを走ってまだポールポジション獲得が1回、MotoGPクラスで表彰台にも立っていない。
しかし、ホンダMotoGP活動のリーダーであるホンダレーシングのレース運営室長、桒田哲宏さんは、そんなタカを高評価している。
「中上君は、たしかに表彰台に立ったり、チャンピオン争いをしているライダーではないけれど、彼はマルクにも負けないスピードを持っていたり、レースデータでは、ホンダでいちばん速い区間タイムを持っていたり、ずっと期待しているライダーなんです。マシン開発についても、中上君は重要なライダー。その彼をうまく走らせられない我々がもっとしっかりしないと」(桒田室長)
――今年はレース数も増えて(注:22年は全20戦、23年は21戦で土曜に「スプリントレース」が加わる)なんか新しい展開になりそうねぇ。FP4がなくなって土曜の午前に公式予選、15時にスプリントレースがあるスケジュールになってる。
「そのスプリントレースがあることで、今年まで走っていたFP4がなくなっちゃう。いろいろウィークの進め方とかかわるんでしょうけど、僕自身は楽しみなんです。レース数が増えるってことはチャンスも増えるってことだし、スプリントレースは距離も日曜の決勝の半分、12~13周とかになるんだろうけど、燃料を気にせず、タイヤを気にせずにレースできるって、なんか楽しみですよ。もちろん、日曜に本番があるから、まわりのみんなが日曜に備えて土曜はセーブするのか……まぁ、みんな全力できますよね(笑)。21戦あって、土曜と日曜に決勝だから42レースもある。すごいな、42レースかぁ(笑)。土曜にケガしたら日曜も出られなくなっちゃうから、そこも気をつけないと」
――その意味でも、僕ら見るほうも楽しみが増える感じだよね。いまのレースは燃費とかタイヤ消耗とかが勝負のカギだから。
「開幕戦みてみないと分かんないですよね。すーごい意外なライダーが出てくるかもだし、僕にとってはチャンスが増えると思うんです。応援に応えられるように、成績を狙っていきたいです」
午前、午後のサイン会では、アライRX-7Xを購入してくれたファンにサインも行なわれた。そしてタカの追加希望で「せっかくだから今回買っていただいた分じゃなくても、僕のレプリカ持ってるひと、ご希望ならサインします! あ、もうアライかぶってくれているひと、みんな持ってきて!」とサイン会延長!(笑)
イベントでは、本邦初公開のアライ新製品、ジェットヘルバージョンの中上レプリカこと「VZ-RamナカガミGP2」もお披露目され、後日に発売日や価格が正式発表。VZも発売されたら、来年のサイン会はナカガミレプリカ、いっきに増えそうです!
3か月に及ぶシーズンオフも終わり、いよいよ2023年シーズンへ向けてのマレーシアテストも2月10日にスタート! 今年の開幕はいつものカタールじゃなくて3月27日のポルトガルですよー!
写真・文責/中村浩史