不振極まる日本製マシンたち
いよいよこの週末は、MotoGP日本グランプリがモビリティリゾートもてぎで行なわれます。いまのところ天気予報も悪くなさそうで、暑さも和らぎ始めて、雨ナシ&いいコンディションでレースを迎えられそうなレースウィークの始まりです。
今シーズンのMotoGPのトピックといえば……やっぱりホンダ&ヤマハの日本車が不振なこと! 第13戦インドGPを終えて、シリーズランキングTOP3は、ドゥカティ、ドゥカティ、ドゥカティ。それからKTM→アプリリアといった面々で、ヤマハ最上位はランキング11位のファビオ・クアルタラロ、12位にチームメイトのフランコ・モルビデリ。ホンダ勢はといえば、ランキング16位のアレックス・リンスが最上位で、リンスは第4~6戦がノーポイントで、その第6戦イタリアを最後に、負傷欠場しているんです。それがホンダ勢最上位とは!
その不振の日本勢に一筋の光明が見えたのが、前戦インドGP。土曜のスプリントでマルク・マルケスが、そして日曜の決勝レースでファビオ・クアルタラロが、ともに3位表彰台に登壇したのです! クアルタラロは第8戦オランダGP以来、マルケスに至っては開幕戦ポルトガルGP以来の表彰台でした。いったい、ホンダとヤマハの両エースに何が起こっているのだ!
「インドGPはね、初開催のコースだっていうことで、マシンのセットアップ差が出なかったね。僕のヤマハは、この3シーズン、大きな進化をしていないし、対してフロントランナー(ドゥカティ、KTM、アプリリア)は次々とバイクが変わっていて、その意味で僕らのほうがバイクへの習熟度が高かったんだ。その結果の3位だったんだと思う」というのはクアルタラロ。来日すぐに、ショートインタビューを受けてくれた。
――21年のワールドチャンピオン、22年にはチャンピオン争いをしたファビオが、どうして今シーズンはこんな位置にいるの? ヤマハのマシンに何が起こってるの?
「うーん、まずはエンジンパワーが足りないかな。それからグリップも問題だし、ライバルに対してはエアロダイナミクスと、レース中に使うデバイス(注:ストレートで使うライドハイトバイスのこと)でも後れを取っていると思う」
――それはファビオ、ずっとヤマハにリクエストしてるでしょ?
「そう。もう3年、ヤマハのマシンは大きく変わっていないんだ。もちろん、リクエストは出しているけど、効果はあったりなかったり。変化はあるよ、でもそれがリザルトまで届かない」
――時には激しくヤマハに言ってるよね?(笑)
「そうだね、言ってる…かな(笑・インタビューを聞いていたヤマハのスタッフも笑ってる)。たくさんレースしてテストして、それに対するコメントを出すんだけど、そこをどう感じてくれているのか、ってこと。技術者のみんなや、ヤマハの代表者にも話をしているけど、結果には出ていない」
――いくつかは新しいパーツは届いてるでしょ?
「もちろん。でもそれが成績を大きく向上させるかどうかだよね。変化はあるよ、でも大きく問題を解決するものじゃないんだ」
――今回、テストライダーのカルさん(クラッチロー)も走るでしょう? カルさんがテストしているマシンからフィードバックはあるでしょう?
「カルは新しいモノを試してる。走るマシンは2024年型っていえる仕様で、僕の走ってるマシンに直接に効果があるものじゃないんだ。カルは開発というより、ヤマハのエンジニアが作ってきてくれるものをテストしている感じで、開発するアイテムも、まだそんなに出揃ってはいないんだ」
――でもミサノのテストでは新エンジンをテストしたんでしょ?
「新しいエンジンはもちろんやってる。でもまだ完成じゃない、もっとパワーが欲しいし、パワーだけじゃなくて、これからもっといろいろ作りこんでいかないとね」
思うに任せない成績、時にはヤマハの開発スピードを攻撃的に批判したり、ごめん言いすぎたね、なんて反省したり。初めてじっくり話したクアルタラロは、物静かで、人間臭くて、聞いたことをひとつひとつきちんと答えてくれる好青年、といった感じの24歳。22歳でワールドチャンピオンになって、この1~2年の成績を、こんなものじゃない、まだまだできるのに――って歯がゆく感じているのだろう。
「レースをやっている以上、勝ちたいし、僕はヤマハをチャンピオンの座にまた連れて行ってあげたいんだ。だから、たまには怒るしダイレクトに文句も言う。それも、ヤマハで勝ちたいからなんだ」
――もてぎは、ヤマハに合っているレイアウトのコース?
「うーん、厳しいね。僕は好きなコースなんだけど、加速してハードブレーキングの繰り返し、それにスローコーナーもあるストップ&ゴーなレイアウトだから、今のヤマハマシンには苦手かもしれない。それでも、僕はハードブレーキングでは負けない! まずは予選で3列目までに入れば、なんとかフロントを走れると思うんだよ。きかっけはつかめているというか、なにか見えてきている感じはするんだ」
昨年の日本GPでは、予選9番手から決勝8位。チャンピオン争いをしていたフランチェスコ・バニャイア(ドゥカティ)を抑え込んで、バニャイアが転倒してしまった、そんなレースだった。優勝したジャック・ミラー(当時ドゥカティ)から10秒193遅れのフィニッシュ。今年は、このタイム差がどう変わっているか、が今のドゥカティとヤマハの差というわけだ。
――ところでファビオ? それ、どうした? パールて、キミ。
ファビオがここのところ身につけている真珠のネックレスのことを聞いてみた。
「あ、これね。前につけていたやつ、壊れちゃって」
――前はチェーンのネックレスだったでしょ?
「そうそう、まだバックパックに入ってるよ(笑)。こっちのパールは1~2か月前かな、友達にもらったんだ」
――インドもそれつけてた?
「うん、つけたり外したりするのはめんどくさいから、つけっぱなし。インドGPでもつけてたよ」
――お、じゃぁゲンがいいんじゃないの?
「いや、僕はあんまりそういう、ラックを運んできてくれるとか、信じてないから(笑)」
ここでハッキリ言ってしまうと、やっぱり日本人ジャーナリストとして、僕はドゥカティカップなんて言われて久しいMotoGP、ちょっと悔しい気持ちで見ている。なんだよ、それまではずっと日本車が勝ってきたんじゃんか、日本車だらしないじゃん、って 聞いた風なこと言う人のことを腹立たしく見ているし、いつかホンダもヤマハも復活してくれると信じている。それが、なかなか復活し始めないだけだ。そうファビオに話すと、今日インタビューに聞き手としてファビオを囲んでいた日本人ジャーナリストのみんなも、ウンウンとうなづいている。
「(日本語で)アリガト。がんばるよ」
ファビオのその言葉を信じたいぞ。
早く復活が始まればいいのに――そういうインタビューでした!
写真/ヤマハ 文責/中村浩史