ラムエアヘッドを載せた空冷2スト3気筒!
コントロールと効き味に優れたフロントのドラムブレーキを握り込み、角ばったボリューム感たっぷりのタンクにヒザを合わせて寝かし込む。GT380は素直にリーンを始め、路面に接地したセンタースタンドをチャチャッと鳴らしながら、コーナーのクリッピングポイントに車首を向けた。ここからセンタースタンドは擦りっぱなしなのだが、ラインを乱されることもなく、シュ〜ンッ! という、いかにも精密機械が回っているというサウンドを響かせ、とてもシャープに立ち上がって行く。気持ちいい!
72年にリリースされたGT380は、その前年にシリーズの1号車として登場したGT750に次ぐ、スズキの2スト3気筒モデルだ。GT750では3つのシリンダーを直列配置にすることで、中央シリンダーが熱的に苦しくなるのを見越し、冷却に水冷方式が採用された。これは量産車で初めてのことである。
ところがGT380と、これに続くセル付きモデルのGT550は、あえて空冷で登場させているのだ。何故か? それはシリンダーヘッドの上部に、ラムエアカバーと名づけた「屋根」を載せることで、熱の溜まりやすいこの部分の空気の流れを速め、中央シリンダーを含めた冷却に自信を持っていたからだ。このあたりの配慮は、そんなことはどこ吹く風といったカワサキのマッハシリーズとは、大きく一線を画している。
ボクはGT380のすべての歴代モデルに触れているのだけれど、好みで言えば、数ある2スト3気筒車の中でも一番好きなモデルだ。先月号のマッハⅢのときにも書いたが、クランクケース幅が広くなる3気筒エンジンは、どうしても両ステップの内幅を狭くすることができない。しかしスズキの3気筒GTシリーズは、どっしりしたタンク幅、シート幅を採用することで、結果的にライディングポジションを巧みにまとめている。
弱点を逆手にとったこの手法に加え、3気筒でありながらマフラーを4本としていることも特徴だ。これは静粛性に寄与することはもちろんだが、シリーズ共通の重厚なデザインを完結させている。特にGT750では、ホンダCB750Fourの堂々としたデザインに負けないようにというオファーが、主な輸出先の北米からあったと聞く。
静粛でいながら素早く回転の立ちあがるGT380のエンジンは、絶品と言えるほどの仕上がりだ。幅広のセンタースタンドは、マッハⅢほどではないにせよ、左右のバンク角を浅くしているのだが、ハンドリングの良さに助けられて、コーナリング中の接地も唐突には感じさせない。これは適度な前後の重量配分によるものなのだろう。 筑波サーキットでのテストでは、センタースタンドが削れて行くほど、ラップタイムが上がって行く。パドックに戻ってスタンドを立てると、接地面が路面に刺さってしまうのではないかというほど削れていて、メーカーに返却するときは申しわけなく思ったものだ。
レーシングマシンと化したGT380!
初代モデルからGT380に惚れ込んだのはボクだけではない。当時、在籍していた編集部で「これをレーサーに仕立てて、鈴鹿の耐久レースに出てみよう」という話が持ち上がり、エンジンを含めたチューニングを、スズキ製マシンのチューニングに定評のある矢島金次郎氏の(スズキワークスのモトクロスライダー 故人)ショップに依頼した。ロードレーサーともなれば、もちろんスタンド類はすべて取り外すから、バンク角の心配はない。
ところが2ストエンジンのパワーの要となる排気管のエキスパンションチャンバー(膨張室 膨らみの大きさがパワーの象徴となる)は、3気筒であるがゆえに、取り回しが難しくなる。ワンオフとなる3本のエキスパンションチャンバーの設計は、スズキのオフロードモデル、ハスラーTS125のキットパーツの寸法が参考にされた。
ちなみにGT380のボア・ストロークは54×54ミリのスクエアで、これは2気筒モデルのT250(前身はT20、T21.後のGT250)のシリンダーを、もうひとつ追加したカタチの3気筒だ。このボア・ストロークは、空冷の最終型となるRG250(E)はもちろん、水冷のRG250Γ(ガンマ)にも踏襲された。
エキスパンションチャンバーの取り回しは、左右のシリンダー分は車体の下側に逃がせたのだが、中央シリンダー分は大きくくねらせて、車体右側に持ち上げる格好になった。このためカウリングの右側は、張り出した部分を楕円型に切開することになる。さて、フリープラクティス(当時は公式練習と言った)のGT380は、上位入賞が望めそうなタイムを順調に叩き始めた。それ行け、サンパチ! である。
ところが、このプラクティス中に思わぬ事態が起こってしまう。タイムはダウンし、ピットは騒然となった。戻ってきたマシンのシリンダーヘッドを開けると、中央シリンダーのピストンヘッドは融け、リングは折れてバラバラになっていた。ラムエアヘッドはそのまま装着していたが、空冷3気筒は高回転で回し続ければ、やはり熱的に苦しいのだ。
東京の編集部に電話を入れて、残っていたスタッフがピストンを入手し、広報車両のCB750Fourで鈴鹿に駆けつけるのだが、この様子は小説家の高斎 正さんが「レースに出ようとするチームが、予備のピストンも持たずに出走するとは何事か!」と、ドラマチックにレポートしてくれた。いま考えれば、ノーマルのピストンなのだから、鈴鹿から近い名古屋で入手できたはずで、ちょっとマヌケな話ではあるのだけれど。
新しいピストンを組み込まれたサンパチは、当時10時間で闘われた鈴鹿耐久レースで6時間を経過したとき、中央シリンダーがついに焼き付きを起こし、コンロッドが折れるというダメージを受けてリタイアした。だけどボクらの得たものは、GT380の優れた操縦性の再確認であり、精密につくられた2スト空冷3気筒エンジンの熱の管理は、実に難しいと知ったことだった。
この後、エンジンを組み直したGT380は、懲りずに筑波のスプリントレースに出走したのだが、中央シリンダーの問題は再発することはなかった。目立った成績を残せなかったのは、編集部チームの練習不足以外に理由はなかったことをつけ加えておく。
SUZUKI GT380 / 【B0】 主要諸元
エンジン形式 空冷2スト・ピストンバルブ並列3気筒
総排気量 371㏄
最高出力 38PS/7500rpm
最大トルク 3.8㎏-m/6500rpm
装備重量 183㎏
タイヤサイズ(前・後) 3.00-19・3.50-18
当時価格 24万5000円
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