扱いやすいからこそ長時間のライディングが楽しめる!
強烈な個性や性能でライダーを非日常的なステージに誘うモデル達と、ライダーに寄り添ってオートバイのある生活を広く深くしてくれるモデル達。この視点から見ればMTー07は間違いなく後者であり、その中でもトップレベルの一台だ。14年8月に初代MTー07が発売されて以来、様々なシチュエーションで数多く試乗してきたが、そのたびに普段使いでの楽しさと快適性、垣間見せるスポーツ性のバランスに感心させられてきた。
MT-07は排気量688㏄エンジンを搭載した大型モデルだが、250㏄モデルのMT-25との重量差は僅か17㎏で、車体サイズも同等。実はこの車格こそがMT-07が持つ様々な魅力の根幹を成している。車体を起こしてサイドスタンドを払うときや押し歩きでも大型車的などっしり感はなく、足着き性も良好だから気軽に乗り出せる。上半身の起きたライディングポジションは見通しが良くて開放感があり、ハンドルが高くて入力しやすいから渋滞路走行やUターンも楽。ベーシックなロードスポーツとしてのツボを押さえた作りになっている。
街乗りで光るのは第一に低回転域から力強いエンジン特性。アイドリング回転のままスルスルと発進できるどころか、2~3速でも発進できてしまう低回転トルクの太さを持っている。市街地なら5000回転以下で事足りるし、回転に気を使わず適当にシフトアップしてもスムーズさを失わない。これは最大トルク発生回転数が6500回転と、同クラスのライバル車と比べても大幅に低いことに加え、車重の軽さが効いている。しかも大排気量2気筒エンジンに多い鼓動を強調した加速感ではなく、ライダーの意志とシンクロしてトルクが盛り上がるので頻繁に加減速する市街地での扱いやすさは抜群に良好だ。基本的に2気筒らしい鼓動を感じるのは3000回転台までで、6速・100㎞/h時の約4200回転では振動もノイズも少なく、「タルルッ……」といった軽快かつマイルドなビートを響かせるから、高速道路の長時間クルージングではストレスフリーだ。
ストリートライディングが楽しい第二の理由が、ソフトな前後サスと高過ぎない車体剛性だろう。ロードスポーツ車は「急」の付く加減速やコーナリングでの安定性を担保できるサス設定とフレーム剛性が与えられているが、高荷重への対応に重きを置くと乗り心地や軽快さは犠牲になりがち。MT-07に乗るたびに感心するのは、サス設定も車体剛性も現実的な交通の流れに合わて、キッチリとセッティングされていること。18年型から前後サスのバネレートと減衰力特性が変更され、体感的には10%ほど高い速度レンジまでカバーするようになったが、乗り心地の良さはライバル車と比べてもずば抜けているし、タイヤの接地感がしっかり伝わってくるので荒れた路面、濡れた路面での安心感も高い。
気軽に乗り出せ、優しく反応し、安心して走れる。市街地走行やクルージングシーンでのMT-07は文句なしの優等生だ。
主要諸元
全長×全幅×全高 2085mm×745mm×1090mm
ホイールベース 1400mm
シート高 805mm
車両重量 183kg
エンジン形式 水冷4ストDOHC4バルブ並列2気筒
総排気量 688cc
ボア×ストローク 80.0mm×68.5mm
圧縮比 11.5:1
最高出力 73PS/9000rpm
最大トルク 6.9kg-m/6500rpm
燃料タンク容量 13L(無鉛レギュラーガソリン指定)
変速機形式 6速リターン
キャスター角/トレール 24°50′/90mm
ブレーキ形式(前・後) φ282mmダブルディスク・シングルディスク
タイヤサイズ(前・後) 120/70ZR17・180/55ZR17
価格 77万7600円
18年型からは前後サスの変更でスポーツライディング適性が向上!
先に書いたように、乗用速度域での快適性と高い荷重への対応はトレードオフになりがちだ。だが、峠道からサーキットまでを走った経験から、MT-07は様々なライディングスキルのライダーを満足させるスポーツ適性を備えていると言い切れる。
特に楽しいのは低中速コーナーが連続する峠道だ。柔らかめのサスペンションによってスロットルのオン/オフだけで車体姿勢をコントロールできるので、コーナー入り口では前後荷重を意識しなくても一次旋回力が生まれて素直にクリッピングポイントに向かい、立ち上がりではリアタイヤのトラクションを感じながら積極的にアクセルを開けていける。加えて適度な車体剛性が旋回力を後押ししてフルバンク中の安定性が高く、荒れた路面でも弾かれにくい。
かって舗装林道のような峠道を走行中に雨に降られたことがあるが、同行していたSSモデルがトラクションを得られずにペースが落ちていくのを横目に、MT-07は不安なく走り続けられた。ウエット路面に強いツーリングタイヤが標準装着と言うこともあるが、そうした路面状況では他のSSモデルの「剛」に対してMT-07の「柔」な車体と、低中回転域でフラットにトルクが立ち上がるエンジン特性の優位性を改めて実感できる。
ただし、本格的なサーキットでタイムアタック的な走りをするならライダーに相応のスキルが求められる。フルブレーキングから一気にフルバンクに持ち込む状況ではリアサスペンションの減衰力不足を感じるが、前後ブレーキの使い方とスロットルワークの工夫で相当のペースまで攻めていけるし、「柔」ゆえに限界時の挙動も穏やか。こうしたオートバイの特性を織り込んでライダー主導で走ることもスポーツライディングの醍醐味。
前記したように18年型から前後サスペンションの設定が変更され、スポーツライディング適性が大幅に上がっている。さらにリア側には伸び側減衰力調整機構が追加されたことで、より高いアベレージに対応できるようになった。
とはいえ、MT-07が最も輝くのは加速、減速、コーナリングの全てでタイヤのグリップ状態を感じながら駆け回る時。速度域に関係なく、オートバイと対話しながらコントロールする楽しさを存分に堪能できる。 (太田)
穏やかなパワーフィールだから安心! 平嶋夏海(ひらじま なつみ)
先月MT-09に乗らせてもらったので、今回はちょっと排気量が小さい「07」ということで、リラックスして乗ることができました。フィーリングとしては、乗った感じも、アクセルに対する反応も、軽いというのが一番印象的でした。先月のMT-09と比較して、パワーの立ち上がりが穏やかというか、気を遣わずにラフなアクセル操作をしても怖くないので、場所を選ばず精神的にはすごくラクでしたよ。
ニーグリップの感触は、タンク形状の影響もあって、足がやや大きく開く印象でしたが、それも時間の経過と共に慣れましたし、しっかりバイクとの一体感も得られました。
ライディングポジションはハンドル位置の影響もあって、身体が起きている印象。私は、初めてのバイクに乗ると、いつも「一番良い着座位置はどこかな?」って探るんですけど、その結果、MT-07はちょっと後ろめに座った方が個人的には居心地が良くライディングもしやすかったです。でも、街中では信号待ちを意識して、足つきが良い前の方に座っていましたけど(笑)。シート自体は薄手ですが、表皮が滑りにくかった影響か、ライポジがズレることが少なくて良かったです。
MT-07が一番楽しいと感じたのは…やっぱりワインディングですね。ちょっと路面が悪くても不安が無かったですし、標準でミシュランのパイロットロード4を装着していることもあり、グリップが常に安定している感じでした。 (平嶋)
必要十分なパワーと軽量な車体 ミドルクラスの魅力を具現化!
僕は普段1000㏄のロードスポーツモデルに乗っている。自宅から編集部や取材先までの市街地走行と、峠道を多めに入れ込んだツーリングが主な用途だが、正直なところ1000㏄のパワーが必要な状況はないし、歳を重ねるに連れて200㎏オーバーの車重を負担に感じることもあり、ミドルクラスへの乗り換えが頭の隅にある。MT-07は車重も軽いし、市街地走行もツーリングも快適。峠道では今乗っている1000㏄モデルよりも楽しく走れるのだから、乗り換えの有力候補。乗り方に合わせて足回りの設定を変え、純正アクセサリーのマフラーとスクリーン、グリップウォーマー、コンフォートシートを付けて車両とトータルで100万円くらい……などと具体的に考えている。
もうひとつ私事だが、今年に入って僕の親戚とご近所の若いライダーから立て続けに初めての大型車選びを相談された。結果的に一人は18年型の07を、もう一人はXSR700を購入して大いに満足している。改めてライダーのスキルに関係なく愛されるオートバイだと思う。 (太田)
DETAIL
撮影/松川 忍