普通の道で遭遇する大抵の凸凹では突き上げられない
今回の試乗会では最初の試乗グループに参加したので、まだサスやミッションにアタリが出てない状態。低速域で路面の剥げやエグれを乗り越える時など、まだまだ旧821よりサスの動きが渋く、乗り心地も硬かった。結局、その状態は試乗の最後までほとんど変わらないのだが、この821、ホイールトラベル量をストリートスポーツとしては大きめの130〜140㎜も確保してる。それでいて、高速ワインディングでは無駄なピッチングなどが少なく安定してるのも魅力なのだが、そのストローク量が物理的に凸凹を抑え込むのだ。新車状態なので硬くは感じるが、まるでアドベンチャーモデルのように凸凹に強く、気楽にスロットルを開けられる。このストローク量の恩恵は街でもツーリングでも光る部分だ。
だが60㎞/h以下程の低速コーナーでは意識してサスに加重して侵入しないと、スロットルを合わせたあとにリヤがのんびりと下がって予想以上に姿勢変化する。そしてそれを無視してパワーをかけると、タイヤが冷えている時などは踏ん張りが足らなくなる事もある。だが、7〜80㎞/hほどのペースになると落ち着きがいきなり増し、操作の自由度が大幅に高くなる。
ハンドリングは空冷の797シリーズよりずっと落ち着きがあるので気楽だ。797はその身軽さを活かして街中やクイックな峠道を、文字通りひらひらと駆け抜けるのにストレスを感じない。これはスタートモデルである696時代からの魅力であり特徴だった。
しかし、この821はフロントの重量配分が大きいようで、ハンドル周りの節度がほどよくあり、高速域でもフロント周りの落ち着きが良いところが異なる。高速域でスロットルを開けっ放しにして切り返すような時に、安定感や身のこなしのダイレクトさとして、その味付けの違いがしっかりと出る。
821が落ち着き重視になっているのではなく、身軽な動きに特化していない。と、理解した方がいい。街から峠道、スポーツとどんな走りにも自然に対応するナチュラルなハンドリングなのだ。
ひとつ前の世代の821と比べて極低回転域のレスポンスは滑らかなのに中域ではずっと力強い。それなのに排気音はずっと歯切れよく、3000回転あたりまでは英国製の古いツインのようなパルスを発する。これはけっこう愉しかった。この滑らかで覇気のある低中域は、旧型だとドン付きとまでは言わないが、スロットルの開け初めで一瞬トルクが落ち込むような感覚があった。それがまるでない。これがこのバイクを一段と扱いやすくしている。
高回転域でのパワーアップより4〜5000回転あたりを中心にした(モードを3種類のいずれにしていても感じる)ドライバビリティの向上やパンチ力アップのほうが目立って感じた。
中域でのトルクが上がっているからだろうが、5500〜1万回転になるパワーバンドへのトルク変動も穏やかになっている。気楽に開けられるが、非力になったのではなく、全体が力強くなっているのだ。これで先代モデルの821の魅力でもあった、常用域での扱いやすさや、峠道でのズボラ走り能力は大きく向上! よりラフなスロットルワークで気楽に走れるワケだ。
このモデルの魅力は大きく変わった外観とともにこの充実した使い勝手の良さだ。いま、国産のハイミドルなどとプライスも接近してるので、見比べてみるといい。扱いやすさではもはや差はない。でも821には色んなスパイスが利いてる。…かなり魅力的になった1台だと思う。気になる日本への導入は2018年4月の予定だ。
PHOTO:ドゥカティジャパン