レンタルバイクの返却の前に、ひとっ風呂いかなくちゃ!
八丈島には温泉がたくさんあって、無料の混浴もあるの。温泉がたくさんあるのも有名だし、1月の八丈島は寒い。水着に着替え、お湯に浸かることにした。
目的の「裏見ヶ滝温泉」には、先客のおじいちゃんが二人いらっしゃった。仙人みたいなおじいちゃんに声をかけたら、15年間毎日来ているという。
「温泉のおかげで元気だよ。出てから飲む日課のビールは、こうやって温めとくんだ。冷たいビールは体冷やすからね」と、缶ビールを1缶荷物から取り出し、温泉の出るところに置く。体にいいのかわからないけど、可笑しかった。
島はこれだから面白い。温まったあと再びしばらく走り、バイクの返却時間はそろそろかなと時計を見る。
レンタルバイク屋のおじさんは「てきとーな時間で大丈夫」と言ってたけど、あと5分で返さないと。
ちょっと、ブレイク。八丈島 観光ガイド
本編の続きは後ほど。少しだけ八丈島の観光ガイドをお届けします。お話の続きは、次の見出し「温泉、滝、星、ライダーが喜ぶ島。」からどうぞ。
夜は、南原千畳敷が、とってもおススメ! 周りが、ほんとーに真っ暗だから、星空がやばいんです! あたしも、あまりの美しさ、寒い体を震わせながらも、絶対に、忘れたくないって目に焼き付けた。星が近かったぁ。
温泉、滝、星、ライダーが喜ぶ島。
レンタルバイク屋のおじさんに「着いたよ」と電話をすると、「すぐ行くよ~」と言ったのに、いっこうに来ない。
帰る前にも、もうすぐだよって電話したのになあと思っていたら、おじさんから電話がかかってきた。
「今からタクシーが行くからそれに乗ってホテルに帰って」
嘘でしょ、おじさん来ないの!? バイクの鍵はどうしたらいいんだ!?
動揺しているとすぐにタクシーは来た。
「わ、わ、どうしたらいい? 鍵は!?」と慌てていたら運転手さんは「いいよ。つけっぱなしで。俺のバイクじゃないから」
よくわからない状況のまま、タクシーに乗った。
「お姉ちゃん、いつ帰るの?明後日、成人式だから、一緒に出ればいいじゃん。人が足んないから」
え、あたし成人式2周以上しちゃってるけど……着物きて? 「来年、こっそり出ようかな~」と言うと「着なくたっていいよ。今年は50人いるかな~。今年だって間に合うよ」
旅を延長してまじで式に出ようと考えている間に、タクシーはホテルに着いてしまった。ありがとう。楽しかったよ。とお礼を言うと「鍵の事は言っとくよ」と、運転手さんはあたしを安心させてくれた。
タクシーのメーターを見たらバイクのレンタル料とほぼ同額だった。これはレンタルバイク屋さんのおじさん持ち、とのこと。これじゃ、おじさん商売になんないじゃん。
26時間の旅。この島の人たちのあたたかさと大らかさに感謝しながら、東京行きの船に乗った。
レンタルバイク屋さんのおじさんも、定食屋のおばさんも、温泉で会ったおじいちゃんも優しかった。今回もいい旅だ。
帰りの船には、行きに同室となった曖昧なカップルはいなかったけど、チーズをくれたおばさんはいた。けど、目があったのに、あたしに気づかなかった。
ちょっと残念な気がしたが、これが一期一会っつうやつだ。その感じもいいって思った。
今回、出会った人たちはみんな、あたしを忘れてしまったかもしれない。あたしも忘れてしまうかもしれない。
出発前にした知り合いとの会話がよみがえる。
「一人になりたいから島に行ってくる」
「いつも、ひとりじゃん」
そう言われて、少し傷ついた。
帰りの船の中、答えのようなものが出た気がした。
あたしは、ひとりになりたいからじゃなくて、ひとりになりたくないから旅に出ているのかもしれない。
文・写真:福山理子