憧憬の先端技術と匂いがWには色濃く残っている
どんなブランドにも熱烈なファンは存在するが「W」を愛する人たちは独特かもしれない。
というのも、初期型が登場したのは半世紀も前の1966年のこと。
しかもそのOHV並列2気筒は吸収したメグロに由来し、マニアらとのW談義は50~60年代から始まり、74年に生産終了となったW3を平然と〝新しい〟と言ってのけてしまう。
つまり多くは年齢層の高いベテランライダーなのだが、意外にも当時を知らない世代も多く、魅了される人は後を絶たない。
筆者もまたそのうちのひとりで、なぜこんなにもゾッコンなのか初めて手にして25年も経つが、いまだに分からないでいる。
ただしボンヤリと言えることは、船舶から鉄道、そして航空機などとてつもなく規模の大きいものをつくっている川崎重工業への憧れをファンらは少なからず抱いている。
戦時中は国内唯一の液冷エンジンを搭載する「飛燕」を製造し、戦後は航空機を手がけた技術者らがオートバイをつくった。
Wはその歴史を感じる〝匂い〟が強烈なほどに漂っていて、いちど嗅いでしまうと熱狂への道は避けられない。
1965年カワサキ500メグロK2
カワサキは戦前から続く目黒製作所を64年に吸収合併したが、メグロから引き継いだモデルが排気量496ccのK2だった。
W1の心臓部は、そのバーチカルツインが改良されたものだったから、Wのルーツはメグロにあると言っていい。
W1はK2のエンジンの77mmストロークをそのままにボアを66→74mmに拡大し、624cc化。
1966年650–W1
65年のモーターショーで発表された「X650」は、翌66年に「W1」として発売された。
カラフルな赤とメッキによるカラーリングは対米輸出も見込んだもので、624㏄化に伴ってキャブ径は27→31㎜、吸気バルブも33.5→36㎜に拡大。
オイルポンプ吐出量やクラッチ容量も増え、最高出力は国内47PS、海外向け50PSに。
排気量は当時国内最大を誇った!!
欧州やアジア諸国などの海外ジャーナリスト向けに、Wシリーズを中心としたカワサキブランドの歴史を紹介した「Heritage Press Introduction」は、信州ビーナスラインから木曽路奈良井宿、そして松本城などを巡るコースで新型W800を試乗できたほか、1966年製のW1初期モデルも登場。
目の当たりにするだけで興奮だが、完調に整備された車両のテストライドまでも許されたから、Wファンの筆者としては歓喜のあまり密かに涙を流すのだった。
Z1成功の礎を築いたWその功績は大きい
ビッグバイクのカワサキ。
国内外にそのイメージを植え付けたのがW1であった。
「コマンダー」のネーミングで、マッハやZ1より先に北米市場へ挑戦。
624㏄の排気量は国内最大で、クロームメッキにキャンディレッドを組み合わせた外装は、まだオートバイに地味な配色しかなかった時代に斬新としか言いようがないもので、アメリカ人の好みに合わせたものであった。
発売した1966年には、シカゴに現地販売会社「アメリカン・カワサキ・モーターサイクル」も設立。
現地のニーズに合わせ、ツインキャブにしてパワフルにすると、スクランブラーも追加しラインナップを増やす。
こうしたWのチャレンジが実を結び、72年のZ1大ヒットへと繋がっていく。
国内では白バイや官庁用に採用され、“ダブワン”は大排気量モデルの代名詞としてバイク乗りたちの憧れの的となった。
4気筒エンジンのZ登場後は、もはや時代遅れであったが、味わい深い乗り味でファンは減るどころか増えていく。
71年のW1SAで、英国式の右チェンジを左足でギヤ操作できるようにすると、9870台が生産され、シリーズでもっとも売れたモデルに成長していく。(W1〜3までの生産台数は合計2万6545台。)
そして1974年のW3で生産打ち切りになることがわかると、新車にプレミアム価格が付いて高騰するという当時では非常に珍しいことが起きた。
時代はナナハンブームで、4気筒も当たり前。高性能・ハイスペック主義のレーサーレプリカブームとなる80年代へ突き進む中、ミッション別体式のOHV2バルブを積むW系はシーラカンス扱いであったものの、Wファンは途絶えることなく確実に存在し続けた。
1992年に登場したエストレヤは、メグロの250単気筒モデルを彷彿とさせ、その毛色をファンは好んだが、歓喜にわいたのは1999年のW650であった。
等間隔爆発による心地良い鼓動感を生む360度クランクの並列2気筒はそのままに、SOHC4バルブをベベルギヤ駆動する新作エンジンを搭載。Wの伝説が、ここからまた始まる。
W1を知らない世代にも好評でファン層を一気に拡大。
Y字カバーや張り出すプライマリーチェーンケースがないことにオールドファンは当初こそ戸惑ったが、また違った魅力と変わらぬ味わい深さが認識され、ベテランからも高く評価されていく。