市街地をキビキビ走るミニマムコミューター
生活に役立ちながら楽しみを広げられるミニマムコミューター、原付1種クラス。
普通自動車免許で乗れるなど手軽なクラスとして、80年代のバイクブーム全盛期はもちろん、いつの時代も親しまれてきたが、2013年の国内新車出荷台数はおよそ23万9000台で、54万台規模だった10年前に比べ半分以下にまで落ち込んでいる。
そこでホンダは、メインターゲットである若い人たちにまた選んでもらえるよう好みや使い勝手を入念にリサーチし新開発した「ダンク」をその市場に投入。
ホンダが50㏄スクーターのニューモデルをリリースするのは2002年以来なんと12年ぶりのことで、低迷するこのクラスの活性化を図ってのことだ。
まず見て感じるのは、シンプルであること。
従来までの”若者向け“といえば、スピード感を演出するためにウイングやスポイラーといった一昔前のスポーツカーのようなエクステリアを連想させがちで、色遣いもどちらかといえば派手。
しかし、ダンクではゴテゴテとした装飾パーツを一切省き、これまでの方向性を一掃。
普段使っているモノとのバランスが図れるシンプルさを追求し、そこに上質感を加えている。
そしてエンジンには、次世代スクーター用クローバルエンジンとして開発され、PCXなどで実績のある水冷「eSPエンジン」が採用された。
アイドリングストップ機能を受け継ぎ、トップクラスの低燃費を実現しながら、スロットルレスポンスはリニアで、加速も鋭い。
アクセルをワイドオープンすれば、法定速度である30㎞/hにあっという間に到達し、さらにそのまま速度計に刻まれた60㎞/hを振り切っていくから申し分ない加速性能。
2007年の排ガス規制によってパワーを失った感が否めないこれまでの50㏄スクーターだが、ダンクは大丈夫、力強い!
ダブルアンダーボーンフレームを骨格とするボックス基調の車体もしっかりとしていて、フロンフォークは上位機種に用いられる油圧ダンパー式。
ハイスピードのまま段差を乗り上げても、ハンドルが振られることなくたくましく走り、前後連動式のブレーキもフロントをディスク化しており、制動力・タッチともに不満はない。
ただし前後ホイールは10インチなので、せめてフロントだけでも12インチなら、さらにもっと走破性が高かったはずだろうと、つい考えてしまう。
とはいえ、50㏄スクーターの法定速度+αであれば何ら問題なく、この低い重心がもたらす足つき性は生まれなかったはず。
それよりも、フラットなシートのおかげで、お尻の位置がいくらでも下げられ、ライディングポジションがゆったりと余裕があることの方が特筆すべき。
足を置くフロアも平らで広く、1クラス上の乗り心地を実現している。
このスタイリングと居住性なら、通学に使う若者たちだけでなく、お父さん世代も満足できるはず。平日はお子さん、休日はパパやママの足、そんな使い方も良さそうだ。
主要諸元
全長×全幅×全高 1675×700×1040㎜
ホイールベース 1180㎜
シート高 730㎜
車両重量 81㎏
エンジン形式 水冷4ストOHC2バルブ単気筒
総排気量 49㏄
ボア×ストローク 39.5×40.2㎜
圧縮比 12.0
最高出力 4.5PS/8000rpm
最大トルク 0.42kg-m/7500rpm
燃料供給方式 PGM-FI
燃料タンク容量 4.5ℓ
キャスター角/トレール 26度30分/75㎜
変速機形式 Vベルト無段変速
ブレーキ形式 前・後 ディスク・ドラム
タイヤサイズ 前・後 90/90-10・90/90-10
RIDING POSITION
●身長:175㎝ ●体重:67㎏
車体はコンパクトだが、フラットで長いシートのおかげで着座位置に自由度があり、窮屈さはまったく感じない。
ハンドルはもう少し広い方が走りやすそうだが、日常での使い勝手を考えるとこのくらいがベストなはず。
身長170cm以上あれば両足がベッタリとつき、もっと小柄な人でも安心して取り回しができるだろう。
DETAILS
環境性能に優れた世界戦略車用スクーターエンジン「eSP」を50㏄クラスに初採用。登坂路走行や発進加速もパワフル。
低フリクション技術により優れた燃費性能も発揮する。
また、アイドリングストップシステムを搭載。
信号待ちなど停車時の余分な燃料消費、騒音、排出ガスを抑えることができる。
スポーツバイクのようにヘッドライトやウインカーをボディにビルトインし、スタイリッシュなフロントマスクを演出。
VFRシリーズを彷彿させるライトまわりに、バスケットを取り付ける想定はない。
テールランプにはLEDを採用。
ウインカーと一体化し、クリアレンズでまとめた透明感のあるデザインは、シンプルでありながら後続車から見ても存在感のあるもの。
左側のグローブボックスには12Vアクセサリーソケットを備え、スマートフォンなどの充電が可能。
右側のインナーラックには500mlの紙パック飲料が収まり、さらに中央の大型フックには手提げ鞄も掛けられる。
着座位置を前後にずらせる自由度の高いロングシートを採用し、背負ったバッグが後ろに載せられるよう配慮。
ゆとりの乗車姿勢を生み出したことで、乗り手の体格を問わないモデルとなった。
COLOR VARIATIONS
●PHOTO:南 孝幸 ●TEXT:青木タカオ