全米アマチュアモトクロス選手権。そう聞くといまいちピンとこないかもしれないが、アメリカの場合、プロをProfessionalとは少し違った言葉で捉えていて、給与や契約金のでないプライベーターもプロクラスに出ればプロと呼ばれることになる。プロクラス、つまりAMAモトクロスは、今年からアマチュアであっても三回だけ参加可能になった。三回出てしまったら、アマチュアは卒業しなくてはならない。

このロレッタリンのタイトルは、アメリカンモトクロスにとって特別なものだ。いかに速いライダーであっても、このタイトルほしさにプロに昇格しないこともあったりする。

この記事は、Off1.jpにて1週間連載してきた下田丈のロレッタリン参戦記を再編集したものである。

JO SHIMODA is…

画像1: JO SHIMODA is…

いま、日本人でもっとも将来を期待されるモトクロスライダーといったら、下田丈に他ならない。65ccの頃からなんと通算8回もこのロレッタリンに参戦(ロレッタリンは、地方のビッグレースを予選としていて、下田はカリフォルニア出身としてこれを勝ち進んできた)してきた。三重県鈴鹿生まれ。これまで「日本人が、世界的な実力を身につけるには、アメリカやヨーロッパで育つ必要がある」といわれてきていたが、これを実践してきた。カリフォルニアのメニフィー在住で、周囲には1時間県内にペリスやマイルストーン、グレンヘレンなど広大なコースが点在している。まさにアメリカンモトクロスの中心地に居を構えているわけだ。トレーナーは、ヤニング・カーベラ。フランス人の名うてのトレーナーで、ムスキャンを育てたことでも知られている。

画像2: JO SHIMODA is…

下田の戦歴としては、ロレッタリン2016年のスーパーミニ2でタイトルを獲得。2017年からフルサイズバイクに乗り換え、ホンダファクトリーチームであるガイコホンダの、育成チーム「アムゾイルホンダ」へ加入。モトクロスの本場アメリカでは、メーカーがアマチュアの若いうちから育成チームに入れて、ファクトリー予備軍を形成する。その歴史あるチームが、プロサーキットであり、ホンダは近年になってこの育成プログラムをスタートさせた。カリフォルニアにあるアムゾイルホンダ特設のファクトリーは、超巨大で充実している。下田は、名実共に、アメリカのトップアマチュアとして成長してきたのだ。

2002年生まれ、現17歳。プロデビュー目前の歳になり、下田はさらにスピードと強さに磨きをかけて、このロレッタリンに臨んだ。ロレッタリンが終わると、プロに昇格するアマチュアは、翌週のAMAモトクロスからデビューするのが通例。下田もその例に漏れず、残り3戦あるAMAモトクロスが東海岸側であることから、ロサンゼルスではなくフロリダへ拠点を移している。

ロレッタリンとは

画像: ロレッタリンとは

ロレッタリンは、アメリカのスターシンガーのことだ。彼女がテネシーのハリケーンミルズに作った、一大リゾート「ロレッタリン・ランチ」で開催される全米アマチュアモトクロス選手権こそが、通称ロレッタリン。正式名称は「Rocky Mountain ATV/MC AMA Amateur National」である。

アメリカのモトクロスでは、異色の大会。コースは昔から変わらないし、アメリカらしく「巨大」ではない。十分にラインを選べるだけの広さはあるし、土質も最高なんだけど、アメリカンからすると狭くて戦いづらいという話しになるそうだ。

毎年7月の末、1週間をかけて開催され、実に1日20ヒートほど、つまり100ヒートほどが開催される。総エントリー数は2000台弱で、期間中の会場はさながらフェスのよう。ただし、テントはなくてそのほとんどがどでかいモーターホームだ(彼らのほとんどは、レンタルだというはなしだけれど、時には5000万円以上するモーターホームで毎週モトクロスをまわっているような家族もいる)。

ロレッタリンのライバル達

下田の世代、上下1〜2年はとてつもなくできのいい歳で、まさに下田は揉まれて育ってきた。この2019年ロレッタリンで下田を脅かす存在としては、まず昨年のロレッタリンでも下田を阻む存在となったハスクバーナのジャレク・スウォル。

画像1: ロレッタリンのライバル達

すでにロックスター・ハスクバーナに所属。華もあって、線の太いライディング。

画像2: ロレッタリンのライバル達

下田のチームメイトであるアムゾイルホンダ、ジェット・ローレンス。オーストラリア出身のジェットは、オーストラリアが急激にオフロードバイクでの成績を高めている最中に出てきた、キッズ。実は、ジェットは下田と旧知の仲であり、積年のライバルだ。5年前のワールドモトクロスジュニアチャンピオンシップで、オーストラリア代表で出てきたのが、このジェットだった。その時、ジェットは1位。下田は2位であった。下田12歳、65ccに乗っていた頃の話である。

ジェットはご存じ、ガイコホンダ所属ハンター・ローレンスの実弟。ローレンス家は、オーストラリアからまずMXGPへチャレンジするためにドイツへ移住。数年後の今年、アメリカのレースシーンへ軸足を移してきた。これまでの下田のライバルといえば、カワサキのセス・ハマカー(ロレッタリンは負傷で欠場)、あるいはKTMのピアース・ブラウン、ハスクバーナのジャレク・スウォルだったが、ジェットはアメリカのアマチュアシーンに突如現れた新星であり、下田にとっての5年越しのライバルである。下田は強調して言う。「同世代のライバルは、ジェットだけです。ジェットはヨーロッパから来てるから、年下なのに経験も豊富です。長時間のレースにも慣れている。レースが巧い。展開の作り方が上手です。めちゃくちゃ速いってわけじゃないけど、バランスがいいんですよね」と。

画像3: ロレッタリンのライバル達

ホンダが幼少時代から青田刈りをしているカーソン・マムフォード。FI仕様のCRF150Rファクトリーマシンを走らせていたことでも有名で、やはり下田のチームメイト。とにかく派手。

この他に、同世代で戦ってきたKTMのピアース・ブラウンが参戦しているが、肩の負傷を負っていて今回は上位に絡む走りはできなかった。また、同じく負傷しているカワサキのセス・ハマカーも同世代のトップランカー。彼らのほとんどが、今季中、あるいは来季にAMAへプロデビューする。日本でも同じだけど、世代ごとに成長していくから、いつも同じメンバーで戦ってきたライバル同士なのだ。

ただ、ジェットだけは特別で、ヨーロッパから、突如来襲したトリックスター。台風の目、と表現すべきライダーだ。

This article is a sponsored article by
''.