スタンダートはさらに軽快に
次の試乗車はDCTのスタンダードモデルのローダウン仕様だ。タンクが小ぶりに見えるのと、スクリーンが短いが、それだけでアドベンチャースポーツから乗り換えるとコンパクトに感じる。オフロードコースに向かう前から軽快なことが伝わってくる。
動きが軽く一体感がある。こちらはコンベンショナルなサスペンションだが、動きもなかなかいい。ペースを上げてギャップの深いところに入るとフルストロークするが、それまでの動きは減衰圧もストロークさせ方も満足できるもの。ローダウンモデルの隠し味は、フラットな路面なら重心が低い分、安定感もあるところだ。林道ならかなり行けるのではないだろうか。
先代はストロークが長いが、ソフトな設定でライダーが乗っただけでもサスが沈むイメージだった。その分、リバウンドストロークがタップリあるためか、その接地性の良さが時にバイクの「重たさ」として感じとれたのでは、とも思える。
だからオフ車のようにアクセルをあおってテールスライドで一気に振り回したくなったのかもしれない……、などと思いながらこの試乗を終えた。DCTをDもしくはS1を選択し、シフトダウンを積極的に使い、MTモードにせずともコースを堪能できた。このあたりのマッチングは相変わらずいい。
ボクがアフリカツインを買うとしたらDCT以外考えられない。クラッチ操作というMT車では避けられない操作がない多段ミッション。頭のロジックをいくつか切り替える必要はあったが、クラッチ操作をしないことがポジションを自在にし、クラッチを操作するために左手に力が入らないので、旋回性にすごく優位だと気づいてからはもうその魅力に首ったけなのだ。
そしてMTを試す
最後にMTモデルを試乗する。サイズ感はスタンダードのアフリカツインで変わらない。足周りの印象もエンジンの低開度からのトルクデリバリーも同様に好印象だ。トラコンが入っていながら、ジワジワとテールをスライドさせてくれる所作も新型の美点。DCT同様だ。
MTモデルでさらにペースアップすると、今度はカーブの奥まで行ってしまったときや、バンクの初期に旋回する姿勢に自分が入れなかった時など、クラッチを操作しながら立ち上がることに一瞬のタイムラグが生じるのが解る(それまでDCTと同じようにしてしまうと、という比較です)。
次はもっと手前から、と唱えながら走るコトになる。狭い180度ターンやジャンプとカーブが続き、湿った土で柔らかい路面が混在するコースではひと手間増えるのがMTモデルの特徴だ。アフリカツインがもっと走れるよ、と誘惑する。その誘いに乗って熱くなるとこうなります、という見本。クールに乗ればもっと楽に楽しめる。
フルサス仕様も試乗
試乗会ではオフロードコース限定で発売予定の標準サス仕様も用意された。アドベンチャースポーツはES仕様だった。しどきのパドックからコースに向かって走りはじめた時からサスペンションの動きに余裕があるのが解る。ペースを上げるとガツンときたところもうわっと乗り越える。それでいて無駄にストロークする感覚もなく、ローダウンで感じた低重心のバランス感もしっかり楽しめる。
オフロードによく行く人にはこちらがオススメだ。グランドクリアランスにゆとりがあり、ストロークという時間を掛けて吸収性を描ける点でさらにアフリカツインが魅力的に思えた。ただ、僕自身がオフロードを楽しみたい派なので特にそう思う部分は否定しない。
スタンダードのMTモデルの標準サス仕様ではさらにオフロードが楽しめる印象だった。サスペンションと車体のバランスがよく、挙動がマイルドにでる。恐くない。オフロードコースの周回ルートの一部がコンクリート舗装されていたのだが、そこでもパワースライドして遊べるほど。滑る瞬間、グリップが回復する瞬間でビクっと動くような挙動がない。恐くないのだ。この点だけでもアフリカツインの洗練度が上がった印象につながる。
一般道で驚いたEERAとの組み合わせ
一般道はEERA装着のアドベンチャースポーツ、ローダウンを走らせた。試乗に出てまもなく道路改修でアスファルトが剥がされ、短い区間だけ砂利道へとなる部分があった。40km/hほどでそのままのペースで進むと、このバイクがただ者では無いことがすぐに解る。
タイヤがダートに入った瞬間、トレッドが砂利を踏み、それをきしませる音なのだが、シート、グリップ、ステップから感じる乗り心地は舗装路とほとんど変化がない。路面変化に合わせてサスペンションが車体の下で精密に動き、車体上側にその動きを伝えないように働いているのだ。
ピッチングが少ないのはもちろん、ギャップで伸びたサスペンションを戻すときの速度調整が絶妙。例えば通常のサスの場合、ギャップを越えて縮んだサスペンションが伸び、そして再び沈んで元の姿勢に戻る。
そのとき、少なくともライダーは跨がりながら上に持ち上げられ、それよりも早い速度で下にストンと落ち、下がり過ぎた分をそこからもう一度上に持ち上げられ通常の位置に戻る印象だ。もちろんそれが路面変化に合わせて短時間で起こるのだが、このEERAの場合、上に持ち上げられる段階から伸び側を感じさせず、戻るときも上から通常の位置にゆったりと戻される印象なのだ。つまり、路面の変化をさほど感じさせない。
その道は、会場入りするとき、自分のクルマで走り短い周期でうねりがあり、意外と揺すられることを確認しているがアドベンチャースポーツESの何事もなかったような所作は驚いた。いや待て。クルマで通過したのは対向車線だ。そちらの道がより荒れているのかも。確かめるためUターンをして何度か往復したが、印象変わらず。これはビックリだ。
さらに減速するときのこと。ストロークの長いバイクの宿命でもあり、アフリカツインでも感じたノーズダイブが少なく感じるのだ。この新型+EERAでは強めのブレーキングをしてエマージェンシーブレーキシグナルが点灯するほどの強さではもちろんノーズダイブをするが、テールの浮き上がり感がなく、とても安定して強力な減速を引き出せる。
それよりも、通常の走行中、信号などで止まる時。その停止直前に、20km/hを割ったあたりから過度なピッチングを出さないよう、フロントブレーキ主体の減速からリアブレーキ主体の減速に移行しつつ停めるのだが、そこにあまり注力しなくても安定した姿勢で止まってくれる。これはとても楽に走らせられる。
この乗り心地はライダーにとって快適性をあげるのはもちろん、パッセンジャーを乗せたとき、ラゲッジを積んだときに大いに味方するに違いない。DCTのスムーズなシフト操作も加わり、鬼に金棒だろう。
余談だが、MT車を選択する人でパッセンジャーを乗せることが多い人にはオプションのクイックシフターをお勧めしたい。クラッチで駆動を断続するシフトよりも断然ピッチングが少なく、快適性が高い。ダートの滑りやすい場面でのシフトダウンも経験上リアタイヤからエンジンブレーキが途切れる時間が圧倒的に短いので滑りにくいからだ。
惜しいのは、多くの輸入ブランドのライバルが標準装備するクイックシフターをオプション後付けにすると、アフリカツインの場合意外と高いことだ。それならいいか、とユーザーに敬遠されるぐらいなら、やっぱり最初から車両価格にまぶして標準装備してもらえたほうが嬉しい。
見晴らしの良い高台まで登るワインディング。ここでも旋回中のサスペンションの動きや上り、下りの減速時の姿勢変化が少ないライディングはとても安心して楽しめた。少し濡れた場所もあるアスファルトをしっかり車体全体でしっかり捉えて走るような感覚。基本的なバイクの良さを味わえた。前輪21インチ、後輪18インチというオフ系サイズのタイヤを履きながらアドベンチャーバイクには欠かせないアスファルト性能も先代同様高い位置にある。
なにより、この新型のDCTと来たら、ワインディングを気持ち良く走っている時、減速に向けてアクセルを閉じると、必要に応じてシフトダウンするのだけど、ライダーの気持ちに呼応するように気持ち良くブリッピングを入れてくれる。その入り方が前作より明確で思わず「そうそう、これこれ!」とヘルメットの中で声が出るレベル。
DよりS1やS2でのほうがそれに遭遇できる確率は高いし、Dモードでも自分でシフトダウンすれば自分のタイミングでそれが手に入る。そのことを開発の人に尋ねたら「そのように味付けしました」とのことなので、是非、DCTを選択したらそのあたりも体感してみてほしい。
高速道路の巡航でも乗り心地の良さと待望のクルーズコントロールが装備されたことで快適性は飛躍的に向上している。このセグメントのバイクとして深化度。それがしっかり感じられたことが嬉しかった。アフリカツイン、太鼓判である。
(試乗・文:松井 勉)
Detail
排気量を84㏄拡大し7%の出力向上を果たしたエンジン。吸気ポートレイアウトやインジェクターの燃料噴射角度の見直しで燃焼効率も上げている。また、ピストン、クランクなどの形状の見直しや、駆動系一次減速ギアからセラシギアを廃止するなどしてエンジン単体でMT車で2.5㎏、DCT車で2.2㎏の軽量化がなされた。写真はDCT車のエンジン。環境規制適合に合わせ2つのキャタライザーを持つことに。エンジン右、スキッドプレート内に置かれている。
2018年モデル比、MT車で595g、DCT車で237gそれぞれのクラッチパック単体でも軽量化がなされた。コンパクト化された様子が分かる。また、一次減速ギアからセラシギアを省くことで282g(DCT車の場合)クラッチパック側のリングギアの幅なども狭めることができ、軽量化につながっている。
TFTカラーモニターが見せる表現力。バックライトの明度は環境に合わせて変更される。TOURモード同士で見てみても、情報が充実しているのが分かる。アドベンチャーライダーにとって大切な情報でもある外気温計のフォントは、時計と同等以上にしてもらいたいところ。また、モードによって速度表示が下のLCDモニターのみの表示になり、ギアポジションがDCTの場合、DあるいはS1などだけになるのはちょっと不満。
スタンダードのアフリカツインは固定式のショートスクリーンを装備。アドベンチャースポーツと比較すると短いが、実際はかなり高い位置まで風をカバーしてくれるそうだ。オプションでトールスクリーンも用意される。新型アフリカツインシリーズでは、ヘッドライトのロービームは左右同時点灯になった。フロントから見ても赤成分が際立つことが解る。
ライダーの身長は183cm。横向きの写真はノーマルシート高の足着き性。
■CRF1100L Africa Twin 主要諸元
全長×全幅×全高:2,310×960×1,355mm、ホールベース:1,560mm、最低地上高:210mm、シート高:830mm、車両重量:226kg、燃料消費率32.0km/L(国交省届出値 定地燃費値 60km/h 2名乗車時)、21.3km/L(WMTCモード値 クラス3-2 1名乗車時)、エンジン:水冷4ストローク直列2気筒SOHC(ユニカム)4バルブ、総排気量:1,082cm3、最高出力75kW(102PS)/7,500rpm、105N・m(10.7kgf・m)/6,250rpm、燃料タンク容量:18L、タイヤサイズ:前90/90-21M/C 54H、後150/70R18M/C 70H。メーカー希望小売価格:161万7000円~。
■試乗・文:松井 勉 ■撮影:渕本智信 ■写真・協力:ホンダモーターサイクルジャパン(HMJ)
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