昨年の覇者、トビーが沈んだワケ
前半で掴んだ流れ
ホンダが35Lの燃料タンクを持つのに対して、KTMは軽さを重視した32Lのタンク。元々燃費がいいことに起因すると思われるこの容量の違いが、ASOのきまぐれによってKTMへプレッシャーをかけることになったはずだ。前半でトップポジションをものにするHRCに対し、明らかにKTMは焦っていた。その象徴が6日目の事件である。
2019年のチャンプであるトビー・プライスのリアタイヤが、400kmあたりでトラブルをおこしてしまったのだ。「相手チームのことなので、本当のことはわかりませんが、たぶんラリータイヤでも山の高い新しいタイプを使用したのではないでしょうか。モトクロスのように剛性が高くて、異常に固いんですよ。気温があまり高くなかったので、タイヤに対する負担はあまり考えられなかったんですね。だからプライスがああいう風になったのは、何かしら勝負をかけていたんだろうなと思います」と本田は分析する。
例年以上の緊張感をもって
とにかく、これまで「いいところまでいって、何かが起きて負けてしまう」という経験を繰り返してきたTeam HRC。特に前述した、2019年のリッキー・ブラベックについての無念は濃い影を落としている。
「いつもそうですし、他のチームにとってもそうなんですが、レストデイはスタッフにとって休息ではありませんでした。後半戦に向けて、文字通り寝ずに、至るところをチェックしました。あらゆる可能性を常に考えていました。リードしてるとは言え、十分でなかったこともあります。逆転されたらどうするべきかとか。そういった意味では、チームのモチベーションがとても高かったと言えるかもしれません。とにかく、最終的に優勝するということに対してのベクトルは、間違っていなかったのだと思います」と本田は言う。
おそらく、ステージ6で生じたケビン・ベナバイズのマシントラブルが、Team HRCの緊張感を増したことになったのだ。「昨年のブラベックと同じで、前兆はありませんでした」と本田。ストラテジーとはまったく関係のないところで、突如ふりかかってくる災難。それは、いかにマシンに熱対策をしたり、水対策をしたり、様々な用意をしたところで、経験でしか補えないものなのかもしれない。