好調な日本人ライダー勢で小椋が光っています
MotoGPもMoto3/Moto2は4レースが終了しました。カタールで開幕、4カ月のインターバルを経てのスペイン・ヘレス2連戦→ブルノまでが終わりましたね。次はもう、オーストリアです。
開幕戦カタールで、Moto2長島哲太(レッドブルKTM-Ajo)が優勝、Moto3クラス鈴木竜生(SIC58スクアドラコルセ)のポールポジションで好スタートを切った日本人ライダー勢ですが、長島、鈴木はもちろん、4戦を終わってMoto3小椋 藍が光り続けています。
小椋は2020年がグランプリ2年目、19年は予選でフロントローに3回、決勝レースでも2位表彰台に1回あがり、非凡なところを見せつけてのランキング10位というデビューイヤーを終えました。
けれど、デビューイヤー終盤、タイGPで表彰台争いのさなか、他選手の巻き添えを食らって転倒、そこから日本とオーストラリアで14位、マレーシアでは4位となりましたが、最終戦バレンシアで10位と調子を崩してしまったように見えました。
小椋の走りは、デビューイヤーから玄人受けするようなタイプで、後方から追い上げてジリジリとポジションを上げる、レースペースをきちんと作っての走り。時には、まるでベテランのような走りを見せましたが、そのぶん予選順位がよかったら――と思わせることも少なくありませんでした。
ちなみにデビューイヤーの予選順位は、フロントローが3回あったとはいえ、5列目以降が9回! Moto3の予選は、スピードやタイムというより、ほんの一瞬の判断ミスで順位が10ポジションも下がるのが常ですから、速さとは違う意味での難しさもあるのですが、19年チャンピオンは2列目以内が8回、小椋は4回ですから、ここをまず改善しないと、というシーズンだったと思います。
その小椋が、今シーズン開幕戦では予選5番手につけてのスタート! お、予選順位よくなった、と思っていたら、第2戦ヘレス1ではまたも15番手スタート……しかし続くヘレス2→チェコでは2番手→4番手と好スタート。4戦中3戦で2列目以内のスタートです。
決勝レースでも、昨年の「グリッド後方から追い上げて上位フィニッシュ」から、予選順位がよくなった分、初めからトップグループで、というレースが続いています。昨シーズンの課題を解消したこともあって、ここまでの4戦を3位→2位→転倒リタイヤ→3位で終われています。ヘレス2の転倒も、他ライダーの転倒に巻き込まれてのリタイヤ。つまり、走り切った3戦はすべて表彰台に上がっているのです。もうこれは「ここまで全戦表彰台」と言い切ってよろしいでしょう。
チェコGP、小椋は予選で2列目4番手を獲得。いいですね、今年の小椋は予選のタイムの出し方も安心感がある。昨年のように「クリアラップ作って待ってラスト一発アタック!」ってスタイルだと、1台にでも引っかかったら不発――って予選5列目なんてことが多かったので、今年の組み立てに安心感がある。ちなみにチェコでの予選は、6周のうち3周目/アタック1周目にべストタイムを出しています。
レーススタイルは昨年どおりに見えます。違うのは、走っているポジションが最初からトップグループという点。つねに10台以上の集団がレース終盤まで続くのがMoto3ですが、小椋はこのグループにいて、順位が乱高下しないところがいい。それも、いつもトップをぐいぐい前を狙うというレース展開より、最後までいい位置につけてつけて、狙いすまして最後に前に!って組み立てをしているように見えます。
このチェコGPでも、小椋は最初からトップのすぐ後ろにつけて周回を消化します。スタート直後から4番手あたり、まぁこの場合「〇番手」っていうのはほとんど関係なくて、トップの姿がすぐそこに見えているような位置、タイム的には1秒以内といった目安です。
小椋は今回、3~4番手につけていることが多く、レース中盤に一度6~7番手にポジションを下げてしまいます。ワンミスでここまで順位が落ちてしまうことが多いMoto3ですが、このあたりは小椋、計算外だったんじゃないかな。ここから、また序盤にいた3~4番手まで戻るのに、スパートしなきゃいけませんからね。そうするとタイヤも使っちゃって、最後の最後に刺すマージンを残せなくなっちゃいます。
結局、小椋はレース後半で5周ほどをかけて「もとの位置」に戻って、さてラスト2周といったところでアタック! 最終ラップには一度トップに立つ場面もありましたが、今回はデニス・フォッジア(レオパードHonda)に先行され、アルバート・アレナス(アスパーKTM)にラストで刺されての3位フィニッシュ。それでも3位です、トップまでわずか0秒25です。もう、毎回「ほぼ優勝も同然」というレースを続けています。
その意味で、開幕2連勝のアレナス、ヘレス2で勝った鈴木竜生、このチェコで勝ったフォッジアがいかにスゴいか! けれど小椋も、いつか勝てます。「どれだけ速く走ってても優勝はできない」と言われる小排気量クラスでも、いま小椋に足りないのは、少しのラッキーだけです。
これで小椋は4戦を終わってランキング2位。ランキングトップのアレナスまで18ポイント。返す返すもヘレス2でマシアの巻き添えで転んでしまったのが惜しいけど、ランキングトップにいるアレナスもヘレス2で転んでいますから、ここは五分。あとは取りこぼしなく、早く1勝するとアレナスとのマッチレースに持ち込めるんじゃないでしょうか。小椋みたいなライダーは、1回勝つとまたグンと伸びることが多いですから、チョー期待しているところなんです。
鈴木タツキも絶好調をキープ
他のMoto3ライダーでは、やはり開幕3戦で3連続ポールポジション、ヘレス2では待望の優勝を飾ってランキング4位につけている鈴木竜生でしょう。
鈴木は、小椋といわば反対の走りをするライダーで、とにかく前に行く、前でレースをするというスタイル。でも、これでヘレス2は逃げ切っていますから、この難しいMoto3のレースでの「勝ち方」を知っている数少ないライダーでしょう。
鈴木のチェコGPは、序盤から前に出てトップグループにつけていたのは小椋と同じですが、レース中盤で7番手あたりまで落ち、元のポジションに戻ろうとしている時に単独でスリップダウンしてのリタイヤ! ノーポイントはもちろん痛いですが、ここまでで鈴木よりもランキングが上の3人は、いずれもノーポイントを1回ずつ演じていますから、まだセーフ!(笑) 鈴木の悲願であるワールドチャンピオンに大事なのは、毎回優勝することじゃない、毎回表彰台に立つことでもない、誰よりもポイントを多く獲る、ってことなんです。
6人がエントリーする今シーズンのMoto3ですが、小椋と鈴木以外に今回光ったのが、今シーズンからKTMをライディングする鳥羽海渡。昨年の開幕戦で優勝を飾った、あの鳥羽です。今年のチーム「レッドブルKTM-Ajo」は、クラスこそ違えど、長島哲太と同じチームです。
鳥羽はここまでランキング18位、開幕から14位→19位→11位→11位とトップ10にも入ってはいませんが、チェコではちょっと走りが復活していた感じでした。順位こそ11位でしたが、スタートをミスって一度ポジションを25番手あたりまで落としながら猛追。トップグループが9台いて、セカンドグループでずっとレースしながら、最終的にはこの9台集団の2番手、11位でゴールしました。これ、ちょっと走り復活のきっかけになったのかもしれません。
いずれにしろ、この数年ジワジワ成果を上げてきた若手日本人ライダーの底上げプロジェクトが実を結びつつあるようです。
もう6年目のベテラン鈴木竜生、ホンダTeamアジアの青山博一監督の指導で伸びまくっている小椋が軸になって日本人ライダーが面白いレースを見せてくれそうな今シーズンのMoto3なのです。
写真/Honda motogp.com 文責/中村浩史」