文:二輪車新聞 本多正則
※この記事は、『二輪車新聞』の公式ウェブサイトで2020年9月26日に公開されたものを転載しております。
「2000年からライダー気質と彼らが求める製品の指向が変わった」と語る大泉氏が、同年にスタートさせたのが「1万人ライドオンキャンペーン」と銘打った体験試乗会だ。
体感試乗会では、同社の製品を見てもらうだけでなく、用意した試乗車に乗ってもらい、希望者には現地で自社の適合マフラーへの付け替え作業を行い、実際に自分のバイクがノーマルからどう変わるかを体感してもらうという。これまで20年間継続してきて、目標の1万人まであと3000人を切った。一見すると、手間暇がかかり効率の悪い施策にも見えるが「その逆だし、何より皆が喜んでくれる。ファンに喜んでもらうのがSP忠男の本質」と語る。
SP忠男は忠さん(鈴木忠男社長)そのもの
──「気持ちイー!」というストレートな言葉を、会社のキャッチフレーズに掲げていますね。
「バイクが売れなくなり、マフラーも売れなくなった時、そもそもSP忠男って何か、創業の精神は何かと真剣に考えました。忠さん(鈴木忠男社長)に何でマフラー製造を始めたのか聞いてみたのですが、その時は寿美子(鈴木夫人)が儲かるって言ったからさと、はぐらかされてしまいました。でもどう考えても、社の理念は創業時の忠さんの思いに辿り着くのです。
ある時、現役時代の忠さんの派手なライディングは、観客が喜ぶからわざとやっていたのでしょ?と尋ねたことがあります。だがそれは違うと。
『トップを全開で走っていると、気持ち良いだろ。自分が気持ち良いからやっていただけだよ』『そんな風に走ると、観客だけでなく関係者や周りのみんなが感動してくれるんだ』と話してくれたのです。
方針は、決まりました。そんな忠さんの思いそのものを会社のキャッチフレーズにして、これからやっていこうと」
──それを伝えるために何か心掛けていることはあるのでしょうか。
「現役時代の忠さんの走りに通じることですが、自分が気持ち良く仕事をすることで、周りの人を感動させることが出来るんだと思います。製品作りはもちろんですが、タイヤ交換も電話対応もすべての業務に共通します。実はこれは創業以来ずっと普通に、社のみんながやってきたことなんだと気がつきました」
──継続開催している体験試乗会は、手間もコストもかかる取り組みに見えますが。
「それは違います。実はたいして手間もコストもかからず、一番効率がよい販促だと思っています。
2000年になる頃から、大型バイクのムーブメントが始まり、ライダーの気質や好みが変わりました。それに気がつき、SP忠男のマフラーも作りをトルク型に変えたのですが、当時二輪専門雑誌でどれだけ広告展開をしても製品の良さが伝わらず、さっぱり売れませんでした。
製品には自信があったので、実際にライダーに乗って良さをわかってもらおうと、苦肉の策で体験試乗会を始めました。そこから流れが変わったのです。体験試乗した人が喜んでくれているのがわかりました。SP忠男の本質はそこにあったのです」
──実際の製品購入に繋がっているのでしょうか。
「体験してくれた人の購入率はとても良い……というか、試乗した人ほぼ全員が購入してくれていると言っても、言い過ぎではないかもしれません。製品外観は見てもらえばわかりますし、細かい感触は触ってもらえばわかります。さらに乗ってもらうと、品質がわかってもらえるのです。いわば直球の販促活動です」
──購入者はどんな人ですか。
「ハッキリ言えるのは、SP忠男と信頼関係がある人です。父親が、マフラー交換に興味のない息子を連れてきたり、子どもが父親にプレゼントするために来てくれたりもします。もはやファンといってもよいですね」
──体験試乗会累計1万人達成が見えてきました。今後の施策展開は。
「SP忠男には、各種問い合わせやイベントなど、直接ユーザーと接する業務の専任者(木川聖氏)がいて、彼の存在がとても大きいと感じています。彼を中心に、SNSにはさらに注力したいですね。ここ数年、海外からSNS経由で英語での問い合わせや、マフラーのオーダーメッセージが届いています。
体験試乗会は、準備の都合で関東圏開催が多いのですが、今後は全国展開したいと考えています。多様化の時代、多様なファンに向き合って、"新たな気持ちイー!"を生み出していきたいですね」
SP忠男浅草店
▽住所=東京都台東区花川戸2−17−10▽=03-3845-2009▽営業時間=平日10時~19時、土日祝=9時30分~18時▽定休日=水曜日、第1・3火曜日
http://www.sptadao.co.jp
文:二輪車新聞 本多正則
※この記事は、『二輪車新聞』の公式ウェブサイトで2020年9月26日に公開されたものを転載しております。