二輪車用品の卸事業を軸に多角的な事業を展開する(株)山城(東京都足立区)は2020年4月、社長を交代した。代表取締役社長に小川賢人氏(35歳)が就いた。関係企業からは社長の若返りで新風が吹きこむ同社への期待は高まる。本紙では小川新社長のこれまでの経験や教訓、企業経営や今後の展開などについての考えを聞いた。
文:二輪車新聞 編集部

※この記事は、『二輪車新聞』の公式ウェブサイトで2020年11月5日に公開されたものを転載しております。

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画像: 株式会社 山城 小川賢人社長

株式会社 山城

小川賢人社長

──学生時代から入社までの経緯は。

「慶応義塾大学でミクロ経済学を専攻しました。就職が決まった4年生の時、リーマンショックに遭いましてね。当時は二輪車業界の仕事に就く考えはなく、ベンチャー企業で働きたいと考え、不動産系ベンチャー企業を受けて内定をもらいました。しかし、直後のリーマンショックで内定取り消しとなり、秋採用をしていた企業から選ばざるを得ず、本来の志望とは異なる食品商社に就職しました」

──食品商社での担当は。仕事はどのように考え取り組んだか。

「冷凍野菜の輸入などの業務に就きました。入社後すぐに単独でタイへ出張するなど、面白い経験をさせてもらいましたが、約1年半で退職。IT系ベンチャー企業に転職し、ITエンジニアとしてECのパッケージシステム開発に携わりました。その職を選んだ理由は早い段階で成長が期待できることと、元々の志望職種と合致していたからです。実際に短期間でも多くのことを学び、数多くのプロジェクトを経験させてもらい、早々に役職も付きました。

ただ、ITエンジニアは専門性が高く、技術オタクなエンジニアほど活躍している姿を見ていると、自分の成長には限界があると感じはじめました。そんな時期、父であり社長だった現会長が、体調を崩して会社の先々を考えたのでしょうか、『お前、山城に来ないか』と初めて誘われたので、私も会長の想いを汲んで28歳の時に山城へ入社しました」

──輸入商社やIT企業での仕事で、どのようなことを学んだか。

「私に社会人としての基礎を学ばせてくれたのは食品商社です。山城で輸入貿易を始めるための画が描け、体制づくりで役に立ったと思います。特に海外企業との商談や折衝では、経験がなければ今以上に苦労したことでしょう。ITでの仕事では、日々増えていく仕事も、無茶して頑張れば1~2倍は消化できると思いますが、2倍に増えたら限界を超えるでしょう。だから頑張るのではなく『工夫しろ』と、よく教えられましたね。現在も社員には工夫を意識するように促しています」

──山城に入社してどのように思い、考えたか。

「入社当時は部署の概念が曖昧で明確ではなく、せいぜい営業と物流ぐらいといった状況でした。仕事始めは営業でしたが、部署横断のプロジェクトチームで自社製品の開発にも関わっていました。その後、卸業以外の事業を扱う事業企画部を立ち上げたのが、入社2年後の頃でした。専門部署を立ち上げなければ、自社製品事業は伸びないと思いました。現会長と話し合い、第一歩として製品開発を中心とした事業企画部を立ち上げ、後に同部署で海外販売事業も始めました」

──人として、仕事で重要と考える事柄は。

「年齢や会社関係にかかわらず、取引先やスタッフなどに対し、互いに対等でありたいと思っています。対等なパートナーでなければ、深い商売もできないだろうと考えています。他には、漫然と仕事をしないよう心掛けて、絶えず何か新しいコトを探し、行わなければならないと考えています。こうした意識はIT時代から変わっていませんね。スピードが速い業界ですので、いつも何か考えることが身に付いているのでしょう。ベンチャー的な考え方や仕事の進め方、人材の採用、育成、モチベーション向上の施策など、IT時代の経験が役立っていると思います」

──自身で長所と短所を挙げるとすると。

「短所を挙げると、まず年齢が若く、現場経験も少ないことです。二輪業界で培った経営者の方々と比べて弱いと考えるところで、コンプレックスでもあります。最前線での営業経験が浅いため、現場スタッフの気持ちが分からないこともあるでしょう。

ただ、それが逆に良い場合もあると考えています。現場の細かいことまで口出しせず、現場経験豊富な担当者に任せられることは長所にもなり得るでしょう。俯瞰で状況を見ながら任せることで担当者の士気向上や成長にもつながります。私が経験したことがない仕事に従事しているスタッフを見て、尊敬の念を抱くこともあります。また、現場を俯瞰して物事や状況を冷静に見ることもできます。

実は私、バイクに乗っていません。スタッフにバイク好きが多いのは良いことですが、仕事や役割、販売、採算を忘れて、単なる個人的な趣味になってしまうケースも少なくなく、そうしたことに陥らず全体を見ることができます。

経験が少ないことで、思い切って勝負できることもあるでしょう。ただ、そうした時のために市場や社内状況などのデータ情報を重視して、補っていきたいと思っています。この一環で2年程前より分析の強化や、現場の声を聞くよう心掛けています」

社内に“考える意識”を広めたい

──今後、会社を変えていくところ、変えないところは。

「今後、強化したいのは人の育成だと考えています。特に従来、問屋は『待ちの商売』がメインだったので、そうした姿勢が染みついています。そのため、全社員が『自分で考える』姿勢、意識を高めて自ら行動できることが理想です。例えば、現在は会議の進行役として、チームの問題解決を促し、組織の業務遂行力を高めるファシリテーターの育成に力を入れています」

──経験が浅いとはいえ、組織を導くリーダーシップが必要です。

「現場にはあまり細かく口を出さないで、どちらかというと『魅力あるビジョン』を魅せる、こうした道筋をつけることが社長の仕事だと思っています。すでに2年程前より『脱・問屋。二輪車業界の総合商社になろう』という目標を社内で掲げています。ただ、商品を卸すだけの会社は無用な時代です。私は付加価値を付けて売るのが、商社の商売だと考えており、付加価値が付けられるものであれば、どんな商材を売っても、どんな事業をやっても良いと思っています。

今の二輪車業界は卸とメーカー、販売店の垣根がなくなりました。当社も従来からの卸事業の基盤をコアに、自社製品でメーカーとしての役割を強化するなど、多角的に新規のビジネス展開を考えています。

メイン事業である卸事業に関しては、単なる売り買いだけの関係になっているメーカーさんの取り扱いを止め、深い関係が築けるメーカーさんに絞り、その分二人三脚で販売を伸ばしていきたいと考えています。同じ商材でも競合他社より山城を通した方が売れる。メーカーさんが直売するよりも山城を通した方が売れるという付加価値を付けるのが最終的な目標です」

──今後の課題や展開は。

「あくまで卸事業をコアとして安定成長させつつ、現在複数ある卸以外の事業に適切な投資をして、ある程度の多角化を目指していきます。例えば、東南アジアを商圏に立ち上げたマレーシア法人は、今年2年目で黒字を見込んでおり、今後も成長が期待できます。

また、製品開発に関しても、ここ数年で生産背景が大幅に増え、業界で知名度のある商材もいくつか出せました。今後は生産背景を活かした業界内外に向けたOEMも伸ばしていく予定です。

他にも新規事業を考えていますが、当社が目指すのは二輪車業界の総合商社です。二輪車を軸に展開していくのは今後も変わりません。卸事業が第一なのも変わりませんが、用品の売買だけでなく、二輪車業界を多層的に捉えた事業展開をしていきたいと思っています」

山城 https://www.kkyamasiro.co.jp

文:二輪車新聞 編集部

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