文:二輪車新聞 野里卓也
※この記事は、『二輪車新聞』の公式ウェブサイトで2021年3月2日に公開されたものを転載しております。
ブランドテーマは創業当時から不変
2009年に現役の引退表明をした中野さんが、自身の会社であるオフィスフォーエイトを立ち上げて最初に手がけたブランドがライディングウェアの『56design』(フィフティシックスデザイン)。
ブランドテーマはモーターサイクルとライフスタイルの融合だが、現在もそのコンセプトは変わらない。
「グランプリで欧州を飛び回っていた当時、街中のライダーが颯爽と二輪に乗っている姿を見て、日本でも同じように生活の中に二輪が溶け込むようなスタイルを提案したかったのがきっかけです。ライディングジャケットを着てカッコよく二輪に乗って欲しい。そんな思いからきています」。しかし、二輪は身体がむき出しのため安全性についても考慮しなければいけない。
「私が一番の体験者だと思っています。現役時代は年間で10回、通算で100回以上は転倒していますからね。中でもムジェロサーキット(04年の第4戦イタリアGP)での決勝レース、290km/h近くで走行していた時にリアタイヤがバーストして激しく転倒しました。凄く怖い思いをしたけど、レーシングスーツが身体を守ってくれたおかげで、3日間入院したけど、打撲程度で骨折などもなく全身の筋肉痛だけで済みました」と笑う。
安全性をベースに、カジュアルで親しみやすいデザインを
自身が体験者でもあるだけに、56designでラインアップする全てのアパレルは、安全性を妥協無く追求している。一方で56designは、現在のライディングウェアのトレンドとも言えるスタイルを生み出している。それがジーンズとフード付きのウェアだ。
「ブランドを立ち上げたときに、ジーンズで二輪に乗りたいけど、もしもの時に身体を守るにはどうすれば良いか考えたときに、ジーンズメーカーのエドウィンさんへ企画を持ち込んで、強靭な繊維で編んだジーンズを製造してもらいました」
おかげで転倒した時、肌にまで影響が出来るだけ及ばないように、生地はもちろん縫製についても
しっかりとした作りになっている。当時もライディング用のパンツというのは、他メーカーでラインアップはされていたが、カジュアルで親しみやすいデザインの潮流を生み出したのは56designが本家と言っていい。
ライディングウェアもしかり。安全性を求めると、プロテクター部分が主張して機能を優先したカタチとなってしまう。そこへ56designでフードを加えたことで、遊び心のあるデザインを演出。現在では同ブランドのラインアップの8割がフード付きで、外出先で二輪から降車して羽織ったまま移動しても街中に溶け込むスタイルとなっている。
一方で、オフィスフォーエイトは海外ブランドのレーシングスーツ「SPIDI」とレーシングブーツ「XPD」、それにパーツブランドである「RIZOMA」の国内総代理店でもある。
「ウチはライディングウェアと二輪部品のハードウェアの両方をラインアップしていることで、ビジネス面でバランスが取れていると思います」という。2020年にはアパレルブランドのクシタニと組んで、新商品をリリース。新たなコラボレーションに胸を高ませているようだ。
現役レーサー時代から中野さんを支える関さん
もう一人、紹介したい人がいる。オフィスフォーエイトの取締役を務める関友則さんだ。2003年に中野さんのマネージャーに就任して以来、公私ともに支え続けている。
当時は海外でスキーのインストラクターをしていたのだが、縁があってマネージャーを務めることになったという。中野さんが現役時代は緊張の連続だったようで、過去に営業の仕事をしていたこともあり、交渉や日程調整、手配はマネージャーの仕事にもつながると思っていた。しかし、ミスをした場合ゴメンナサイで済む仕事ではなく、宿や飛行機の手配など間違って、レースに参加できなくなってしまったら……と常に緊張感がありました」と振り返る。
中野さんが現役の間は、予選前日から決勝レースが終わるまではずっと酒を口にすることもなかったという。
その後、トップライダーから離れると告げられた時は「すごく寂しかった。もう少しなんとかしてやれなかったのか、という思いがあった。でも、正式に引退を発表した後は逆にホッとしました。けがや骨折などはあったが無事に引退してくれてよかった」という思いに変わったと述べた。
関さんに、56designを立ち上げて年月を経た現在の状況を聞いてみると「今はSNSなどが進捗してブランドの発信や展開といった仕事がしやすくなってきました。でも、それで分かったこともあります。それはまだ中野のことを知らない人がいるということ。そうした人たちに中野のことを知ってもらいたいし、56designのテーマを伝えることで喜んで購入してくれる人も出てきた。まだまだ多くの人たちに伝えていかなければと思うと、この先がますます楽しくなってきました」と語る。
次は住まいをプロデュースしてみたい
中野さんに今後の目標について聞いて見ると「これからは『衣・食・住』の『住』をプロデュースしてみたい。二輪のある住まい……二輪に乗る人にとって心地良い住居、ライダースハウスを手掛けてみたい。
『衣』は現在の56designが該当します。『食』は今の店舗2Fがカフェのようになっていますが、もっと大きく広げていきたいです。『食』と『住』までプロデュースすることで、ライフスタイルに二輪が溶け込んだ環境が実現できると思います。二輪のある生活の完成形ですよね」という。
この後にポツリと言った言葉が印象的だ。
「油くさくて、エンジン音がダイレクトに聞こえる二輪がやっぱり好き。5歳の頃にポケバイに乗り始めて、現役を引退して10年以上を経た今でも二輪がどんどん好きになってきています。生涯、ずっと二輪好きなライダーでいたいんです」と、はにかんで言う中野さんであった。
◆56design(オフィスフォーエイト) ▽所在地=千葉県千葉市中央区椿森3-3-4
▽営業時間=金・土・日・祝日10時~18時
▽定休日=月~木曜日▽℡043・445・8856
https://www.56-design.com/
文:二輪車新聞 野里卓也
※この記事は、『二輪車新聞』の公式ウェブサイトで2021年3月2日に公開されたものを転載しております。