「俺のためにバイクを降りてくれ」
琥珀の成長に欠かせなかったのは、当たり前だが、父親・貴督さんの協力だ。WEX爺ヶ岳で一周しか回れなかった琥珀は、貴督さんに言った「俺のためにバイクを降りてくれ」。
貴督さんは決して特別速いライダーではなかった。それどころかエンデューロレースもほとんど出ていない。それでも琥珀と一緒にバイクに乗って楽しんでいた。そんな父に対し小学6年生の琥珀は、自分のためにバイクを降りて、サポートに徹してくれと言ったのだ。
「初レースのWEX爺ヶ岳で、1周しかできなくて、泣きながら帰ってきたんです。そして、そんなことを言うものだから、こう言ってやったんです。世界を目指すなら、全力で協力してやる。国内で満足するくらいなら、最初からやるな、と。
琥珀はヨシカズ(保坂修一)やイッコー(佐々木一晃)、トモ(酢崎友哉)など他の若いライダーたちに比べてスタートが圧倒的に遅いです。だからこそ、ウチは中学3年生の最後に目標を明確に定めて、3年計画で取り組んできました。
最初は蓮、そして2018年に誉(渡辺誉)に出会ってからは、誉と、ヨシカズ、トモ。そしてガミー(大神智樹)。そんなメンバーと一緒に練習させてもらえて、一気に成長しましたね。僕はライディングのアドバイスはできませんが、彼らが琥珀に教えてくれたことを、しっかりチェックして指摘しました。
基本的には失敗しても、目的を持って考えて、試行錯誤した結果であれば褒めます。でも集中できていなかったり、考えていなかったら叱る、を徹底しました。ウチのスタートはとにかく本人の強い意思ですから、対話形式の練習と反省会の時間をしっかり持つようにしています。
具体的には、中学3年の最後にJNCCのCOMPで戦えるように、という目標でしたが、2019年にJECに承認ジュニアクラスが創設されたので、JECならIBクラス3位以内という目標を追加しました。結局、JNCCは去年の夏のほうのきでCOMP-Rクラス5位、総合53位。JECはSUGOでIB3位のタイムを出すことができたので、まぁ合格ではないでしょうか」
中学生の琥珀は、当然車の運転ができない。休みを潰して練習に付き合ってくれ、バイクやレースのお金を出してくれ、時には心を鬼にして叱ってくれ、自らがバイクに乗る楽しみを削ってまで琥珀の成長に賭けてくれたこの父があって初めて、今の琥珀がいる。