なかでもデイトナのブランド「ヘンリービギンズ」は毎年ラインナップを拡充・刷新し、いま最も勢いのあるメーカーといえるだろう。2022年5月、新たに画期的なシートバッグが発売される。この新型バッグの詳細と同ブランドの“ツーリングバッグ哲学”を開発担当者にうかがった。
文:西野鉄兵/写真:若林浩志、西野鉄兵、デイトナ
福田卓也 さん
Fukuda Takuya
株式会社デイトナ
二輪事業部 ツーリンググループ グループリーダー
2008年、デイトナ入社。グループの用品店ライコランドで店舗スタッフを経験した後、小排気量車のカスタムパーツを開発する部門へ。2013年にツーリング用品の開発グループに異動し、バッグ製品の開発に着手。2021年から同グループのリーダーとして、ツーリング関連用品を幅広く企画・開発している。現在32歳。
“バイクに似合うバッグ”を追求することから開発は始まった
「もともとバイクにバッグを積むのが好きじゃなかったんですよ」
挨拶もそこそこに、いきなりこんな発言が飛び出した。デイトナのツーリング用品開発部門のリーダーである福田さんの言葉だ。
バイクでもクルマでも旧車が好きだったという福田さん。バイク用バッグの開発では、車体が持つ美しいスタイリングを損ねないことを心がけているという。
現在デイトナのバッグ製品は「ヘンリービギンズ」ブランドで展開されている。ブランド設立は2006年のことで、バッグ事業はその2年後に始まった。デビュー当初から、ミリタリーやアウトドアテイストのデザインを取り入れ、スタイリングにこだわるライダーからも支持されている。
「私がバッグ開発の担当になったとき、すでにその方向性は定まっていて、その上で好きなようにやっていいと当時の上司から言われました。すごく嬉しかったです。よりかっこいいバッグを造りたい、と強く思いました」
それが2013年のこと。ここからヘンリービギンズのバッグ製品のラインナップは拡充・刷新のペースが加速する。福田さんがはじめに手掛けたのはサドルバッグ製品だったそうだ。モスグリーンのカラーを採用した、クルーザー系やトラディショナル系のバイクによく似合う人気のシリーズが生まれる。
さらにシートバッグ、バックパックやホルスターバッグなどボディバッグ類も手掛け、2022年5月現在、ヘンリービギンズのバッグ製品は全50アイテムをゆうに超えるまでとなった。圧巻のラインナップは、全カテゴリーの車種・すべてのツーリングライダーを対象にしているといってもいい。
たとえば、シートバッグ。ヘンリービギンズは毎年のように新製品をシリーズで発表している。他社と比べると更新頻度は圧倒的だ。
「バッグはライダーの色が濃く出る用品で、みなさまそれぞれの好みや考えがあると思うんです。デザイン、サイズ、使い方、防水・非防水など車種やファッションでも大きく変わります」と福田さんは言う。
2020年には決定版ともいえる「シートバッグPRO」シリーズがリリースされた。それまでのベーシックモデルから30カ所以上の改良を施し、デザイン・使い勝手・固定力にこだわったモデルだ。
そしてそれからわずか2年、新型の「シートバッグPROⅡ」にモデルチェンジ。この5月に発売される。外見はPRO(1)とよく似ているが、PROⅡでは画期的な積載システムを新採用。機能やつくりもさらに改良された。
シートバッグPROⅡ は4サイズ展開
新製品「シートバッグPROⅡ」はさまざまな車種に安心して積載できる
シートバッグPROⅡは、前作以上にあらゆる車種に積みやすくなったというのが最大の特徴だ。
大型シートバッグをもっとも積みにくいのは、近年のスーパースポーツやネイキッドスポーツなどテール周りがすっきりとしたモデルだろう。ノーマル状態のホンダCBR400Rを例に積載方法を紹介しよう。
「2020年にシートバッグPROを手掛ける際、積載時にバッグが前にずれないことを重要視しました。PROⅡはその進化版で、2つの積載方法を選べるようになっています。補助ベルトも組み合わせれば、大多数の車種に上手く固定できるでしょう」と福田さんは言う。
固定用のベルトが画期的だ。もともとヘンリービギンズの小型シートバッグで採用されてきた「イージーリングベルト」を改良し、2方式での積載が可能となった。
一般的に大型シートバッグは「4点支持ベルト」が採用されていて、各社の製品を見てもほとんどがこの方式だといえる。固定力は高いものの、車体にベルトを4カ所も装着しなければならないため、荷掛フックが備わっていないバイクでは利用が難しくなる。
しかしイージーリングベルトは、荷掛フックを一切必要としない。リアシートを外してシート下にベルトを配置。あとは4つのバックルを留めるだけでいい。ただしシートの建付けに依存するかたちとなり、車体により固定力にばらつきが出る。大型バッグでは不安が残りやすい。
対策として、まずシートの底面に滑りにくい素材を採用。そして下の写真の赤いベルトだ。
赤ベルトをシート下に挿し込むことで、バッグが前にずれなくなる。さらに補助ベルトも同梱。これでリア周りがすっきりとしたスーパースポーツモデルでも安心して大型バッグが積めるようになった。
CBR400Rへの積載は、イージーリングベルトと補助ベルト2本を使うことでがっちりとキマった。車種によっては、4点支持ベルト方式にしてもいい。補助ベルトを同時に使うことで安定感が増す。
今回、キャンプ道具を詰め込んだ「シートバッグPROⅡ」LサイズをCBR400Rに積んで、実際に650kmほど走ったが、高速道路はもちろんワインディングでも不安はなし。従来の4点支持ベルトと比べても遜色のない固定力だと実感できた。
バッグ自体のつくりや機能は好評の「PRO」を大筋で踏襲している。PROシリーズはその名の通り、こだわり抜いた機能性、使い勝手の良さ、品質の高さが自慢となる。
福田さんは「突き詰めて、ひとつひとつに意味を持たせるのが好きなんです」と語った。あらゆる面で考えられて設計されている。さらに「PRO(1)」以上に、縫製の強化や、紫外線への耐久性向上も図っているという。こだわりを見ていこう。
シートバッグPROⅡの機能やこだわりポイント
サイズ感
写真はLサイズ(容量42L~56L・本体寸法H280×W430~590×D320mm)。このほかS・M・LLサイズをラインナップ。LとLLは奥行き320mm、SとMは奥行き300mm。
検証を続けるうちに奥行き320mmまでだと多くのバイクのリアシートにぴたりとハマるということが分かり、以来ひとつの基準となっているそうだ。
中身が空でも自立する
メタルフレームとパワーパネルがメイン気室の芯材として仕込まれていて、中身の有無にかかわらず美しいスタイリングをキープする。また芯材が入っていることで、積載時にベルトを引いた際もがっちりと固定できる。
開口部が広い
ヘンリービギンズのバッグは開口部が広く、PRO・PROⅡシリーズのM~LLサイズは側面も開く。長尺物が入れやすく、自宅で保管する際は内向きに折り畳めばコンパクトになる。内装が赤いのもPROシリーズの特徴で、収納時に中身が見やすい。
連結ベルト
スーツケースによく採用されている連結ベルト。整理整頓をしやすくするのとともに、シートバッグの場合は型崩れを防止するのにも役立つ。ちょうど連結ベルトの付け根の裏側に車体と固定するためのバックルが備わっていて、お互いが引っ張り合うことで、固定力を高め、型崩れを防ぐ。
拡張機能
シートバッグ製品の定番機能だが、拡張時に“拡張している感”があまりないのもデザインのこだわり。
側面に備わるベルクロ留の芯材が拡張時の底板となるのも面白いアイデアだ。これによりバッグの両端が垂れ下がることを抑止している。
パルステープ
デザイン面での特徴となっているパルステープは、ミリタリー用品で古くからある機能パーツ。カラビナをかけたり、ポーチやストラップ類をプラスしたり、とお好みでカスタムが可能。PRO・PROⅡシリーズのパルステープは2重構造になっている。
Dリング
Dリングとパルステープを使えばウレタンマットなどをバッグの外部に装着することができる。長物固定ベルト(ホールドベルト)は2本付属。
サイドポケット・ドリンクホルダー
ポケットはユーザーの声を取り入れながら検討を重ね続けている部分だと福田さんは話す。PRO・PROⅡシリーズは、側面の片側に大型ポケットを配備。もう片側には小型ポケットとドリンクホルダーを搭載。
PROⅡのドリンクホルダーはPRO(1)で「メイン気室がパンパンの時に入れにくい」という声を受け、サイズが大きくなった。1Lサイズのペットボトルも入る。ちなみに500mLボトルなら両側面のポケットにも収納可能。写真は700mLのボトルを収納している。
メインフラップのポケット
「この部分のポケットの存在に気づいていないユーザーさまもいるんですよ」という、いわば隠しポケット。メインフラップの左右に備わっていて、それぞれ独立している。ファスナーの引手を隠してしまえば、たしかにポケットの存在に気づきにくくなるので、セキュリティ面でも一役買っているかもしれない。
サイズはB5判の雑誌がちょうど収まるくらい。昭文社のツーリングマップル(A5判)やツーリングマップルR(B5変判)は余裕で入る。
レインカバーと耐水性
レインカバーをかけた際、風で飛ばない工夫が施されているのは地味ながら嬉しいポイントだ。カバーのサイズは拡張時に合わせているが、ドローコードを絞り込むことで、未拡張の状態でもピタリと装着可能。
さらにPROⅡではメインフラップの裏面に耐水性の高い生地を採用。カバーをかけずに通り雨にあった際もすぐに中身までびしょ濡れにならないよう改良したとのことだ。
持ち運びやすい
ヘンリービギンズの大型シートバッグは両側面にしっかりとした持ち手が備わっているのが特長。このおかげで積み下ろしがしやすい。肩掛け用のベルトも同梱されている。
こだわりのファスナーと引手
ファスナーはYKK製の強度・耐久性に優れ、動きがスムーズなものを採用。ファスナーの番手まで各部に最適なものを検証し選択しているという。PRO・PROⅡシリーズは引手に滑りにくい素材を採用。バッグの底面に使われているズレ対策のノンスリップシートと同じ素材だ。
メイン気室にエントリーする3カ所の開口部はダブルファスナーで、南京錠やダイヤル錠がかけられるようになっている。
今後発売予定のバッグ製品
最後に今後の展望について、福田さんに話をうかがった。
「6月には先日のモーターサイクルショーで初公開したグリーンのシートバッグシリーズをリリースします。続いて7月には新たなサドルバッグも発売予定です。シートバッグとサドルバッグを組み合わせて利用される方のことも考え、デザインの統一化も図っています」
さらに「今回のシートバッグPROⅡを開発中にも、次々とアイデアが湧いてきちゃいまして。これからもヘンリービギンズのバッグは進化していくと思います」と、頼もしい言葉も。
ロングセラーモデルも細かな改良がたびたび施されているという。マイナーチェンジはおおやけになることがなく気づきにくいが、同じ型番の製品でもより新しいものの方が優れている、ということだ。
私もこの4年ほどヘンリービギンズのバッグ製品をさまざま愛用している。「いろいろ考えられているな」と思うばかりで、「何でこうなんだろう?」と疑問を抱くことはほぼない。しかも今回の取材で、これまで知らなかった工夫や機構がいくつもあったことが発覚した。
完全には使いこなせていなかったわけだが、「ヘンリービギンズのバッグは使いやすい」と感じていたのだ。それは福田さんの突き詰める精神とともに、機能と使い勝手、デザインのバランスの取り方が絶妙だからなのだと、対面で話を聞いていくうちに分かった。
「おそらくこれはほとんどのユーザーさまも気づいていないと思うんですけど……」と、前置きをして紹介してくれた機能も多い。
初見でもおおまかな使い方が分かり、便利に感じる。そして深く使いこむユーザーを想定しつつ、愛用者の声も聞いて、熟成を重ねる。ときにはゼロから画期的な機構も生み出す。
近年はキャンプ用品の展開なども行ない、好調著しいデイトナのツーリング部門。開発メンバーはリーダーの福田さん(32歳)をはじめ、若いスタッフの方も多いという。今後もツーリングで役立つ製品やワクワクするアイテムが続々と発表されることだろう。
文:西野鉄兵
【おまけ】キャンプツーリングでの積載例
今回、実際にキャンプをしながら取材しました!
取材は愛知県設楽町のキャンプ場・つぐ高原グリーンパークで、実際にキャンプをしながら行ないました。デイトナのプロモーショングループリーダー・矢嶋和弘さん、キャンプ用品の開発担当・森山環姫さんも自走で参加。みなさんのパッキングは参考になると思います!
デイトナ ツーリンググループ グループリーダー 福田さんの積載方法
車両:ハーレーダビッドソン「スポーツスター XL1200NS アイアン1200」
2022年6月発売予定の「ツーリングシートバッグLL グリーン」(容量53~70L・税込25,300円)と「2WAYシートバッグ」(容量20L・税込17,600円)の組み合わせ。このアイアン1200にはシーシーバーが備わっているので、バッグをあえて前から開く向きに積載しているのがポイント。
ヘンリービギンズのシートバッグ製品はこのように連結できるのも大きな魅力です。
2WAYシートバッグは、背負うこともできて便利。長旅の場合はとくにボディバッグがひとつあると何かと役立ちます。
デイトナ プロモーショングループ グループリーダー 矢嶋さんの積載方法
車両:ハーレーダビッドソン「スポーツスター XLH883ハガー」
「ツーリングシートバッグL グリーン」(容量44~60L・税込22,000円)と「2WAYシートバッグ」の組み合わせ。
ツーリングシートバッグは、“初めて使うシートバッグ”としてもヘンリービギンズがおすすめしている価格も魅力的なシリーズ。カラーはブラックもラインナップ(このグリーンは6月発売予定)。
2WAYシートバッグは、2021年のヒットモデルで、デイトナ社内でもとくに人気とのこと。使いやすく積みやすい形状、外装のパルステープを活用すればカスタムも可能。デザインもいいですよね!
デイトナ ツーリンググループ 開発スタッフ 森山さんの積載方法
車両:スズキ「Vストローム250 ABS」
2021年に登場した「シートバッグ システム」(容量65L・税込17,600円)とGIVIのサイドケースを組み合わせ、日本一周もできそうな大容量を確保。
「シートバッグ システム」は好みに応じてカスタムできるのが魅力。側面に備わっているポーチはオプションで、ポーチがあらかじめ5種類付属したコンプリートセットも税込28,050円で販売中。
サイドケースがあることで積載時の安定感が増しています。ハードケースとソフトバッグの合わせ技は、防水面やセキュリティ面でも安心感がありロングツーリングにぴったり。
webオートバイ 西野のパッキング
車両:ホンダ「CBR400R」
最後に筆者の積載例も紹介させてください。バッグは、新作「シートバッグPROⅡ」のLサイズ(容量42~56L)。これにプラスして「WPバックパック」(容量16L)を背負って往復650kmほど走りました。
個人的なこだわりは、出発時はシートバッグを未拡張の状態にしておくこと。ツーリングしているうちに荷物が増えたり、収納が雑になったりしがちなんです。キャンプでは食材の買い出しもしますし、帰り道ではお土産も買いたいですからね。
「シートバッグPROⅡ」のイージーリングベルトを活用した積載は見た目もすっきり。セパレートハンドルのスポーツ車でのキャンプは久しぶりでしたが、道中のワインディングでは安心して走りを楽しむことができました。
愛車に荷物が積めないという理由でキャンプや長旅を諦めていた方、PROⅡならきっといけます!
文:西野鉄兵/写真:若林浩志、西野鉄兵、デイトナ