岩手県盛岡市にほど近い岩手高原スノーパークで、JNCCの第5戦が開催。久々の北東北におけるビッグレースは、地元の有志が作り上げた素晴らしいレースだった

JNCC Rd.5 岩手高原スノーパーク
2022年7月10日

こんなロングヒルクライム、見たことがない!

エンデューロやクロスカントリーという分野は、各地方のクラブチームが主体となって会場となるフィールドを開拓する文化がある。日本全国に散らばるクラブが「俺たち新しくコースを作ったから走りに来いよ」と仲間達を呼んでレースになる。その規模が大きくなって時には世界的な大会“ISDE”になったりもするのだ。JNCC(ジャパンナショナルクロスカントリーチャンピオンシップ)の第5戦は岩手で活動するチキンレーシングが作り上げ、遠くは岡山から日本全国のクロスカントリーライダー達が集ったのだった。

通常クロスカントリーレースをゲレンデでやるとなると、たくさんのコーナーが存在する複雑なコースレイアウト図が完成する。しかし、岩手高原スノーパークのコースレイアウト図は超単純明快。スキー場の頂までほぼ直登に近いヒルクライムを全開で登り、降りてくるだけ。これまでもパワー勝負のゲレンデレースはたくさんあったが、これほどまでに全開区間が続くのはなかなか例がないのでは。ヒルクライムがぶっ続く西側ゲレンデのコース全長は2.6kmで、最大斜度27度。途中ゆるやかなコーナーを何度か挟むが、とにかく直線区間が長い長い。前日土曜日に下見をするのがクロスカントリーレースの常だが、今回のフィールドはあまりに直登区間が長すぎるため、すべてを見ることをあきらめたライダーも多かったほどだ。YZ125で参戦した鈴木健二も、レース開始40分で燃料がリザーブに入ったことに驚いていた。それほどまでに全開区間が長い。

そんな超絶ヒルクライムの中腹ほどまで登ると、雫石の街を遠くに望むことができ、山頂まで登れば雲海の上に出る。絶景で名を馳せた爺ヶ岳、鈴蘭、糸魚川などと比べても遜色がない素晴らしいステージだった。夏の東北ならではなのか緑の色は深い。

画像: 雫石の街を望む

雫石の街を望む

画像: 快感のヒルクライム!

快感のヒルクライム!

今回のレースは岩手県雫石町と、盛岡を拠点とするチキンレーシングがタッグを組んで町おこしを仕掛けようと試みたもの。盛岡付近の地域活性化は年々進んでおり、盛岡名物「よ市」などを中心にどんどん他県からの観光客を取り込んでいる。その活動の一環として開催された今回のレースには、観戦者などをふくめて500名以上が来場した。チキンレーシングによる初開催レースということを考えれば、大成功を収めたといっていいだろう。すでに「次回もやりたい」という意見が町からも出ていて、実施を検討中だとチキンレーシング代表の野頭氏は言う。

「かつておこなわれていた山形のスプラッシュ月山が200台くらいだったので、岩手高原もそのくらいを見込んでいたのですが、蓋を開けてみたら300台を超えました。好きなバイクで町おこしに関わりたいという思いが実ってとても嬉しいですね。

少し難易度の高いレースになってしまったのは否めませんが、それも含めて走り切ることを目標に来てもらえればと思います」

このJNCC岩手高原ラウンドの構想が持ち上がったのは2年前のこと。情熱に溢れるチキンレーシングの面々が町議会とやりとりを進めながら地道に調整を続けてきた。昨年の11月にはいよいよ同ラウンドの開催を公式に発表。この日からチキンレーシングと東北のJNCCライダーたちが大型草刈り機や重機などを駆使してコース造りを進めてきたという。クロスカントリー、エンデューロに取り組むライダーたちは日本全国のスケールでつながり、仲間意識を持っている。チキンレーシングが頑張ってるなら遠くても走りに行かなきゃな! と遠征を決意したチームも多いことだろう。

画像: 盛岡チキンレーシング

盛岡チキンレーシング

画像: 野頭氏はJNCCでも顔

野頭氏はJNCCでも顔

馬場大貴、いよいよホンモノの強さを見せつける
14位から追い上げての優勝

当日午前中におこなわれたエントリークラスFUN GPは、前夜の雨の影響で残念なことに濃霧の中でのレースになってしまった。コンディションも悪く、1周できたのは129台。残る54台は一度もフィニッシュラインを通過することなくレースを終えている。特に”件のヒルクライム”は後半にガレが出てくるため難易度が高く、諦めてその場に佇んでしまうライダーも多かったようだ。

画像: FUN GPを濃霧が襲う。本当なら向こう側には絶景

FUN GPを濃霧が襲う。本当なら向こう側には絶景

画像1: 馬場大貴、いよいよホンモノの強さを見せつける 14位から追い上げての優勝

ところが、午後のCOMP GPになると晴れ間ものぞきはじめ、コンディションは回復傾向に。トップライダーが順位を頻繁に入れ替える激しいレース展開となった。序盤に気を吐いたのは前戦で初優勝を遂げたモトクロスのレジェンド熱田孝高。そして、モトクロス最多タイトル記録をもつ成田亮も善戦を繰り広げる。JNCCのマルチタイトルライダー、渡辺学はスタートでミスし最後尾から追い上げるも1周目でトップへ浮上。この二人に対抗すべくハイペースを保ち6周目までレースをリードした。ただ、渡辺のYZ250FXはヒルクライムが長すぎること、JNCCのFIMエンデューロタイヤ規制によってタイヤのグリップがよくなかったことから、エンジンが高回転で回りきるシチュエーションがあまりに多く、毎周頂上につくまでにクーラントを噴いてしまう始末。4回以上の給水を余儀なくされ、せっかくのハイペースで築いた貯金を何度も吐き出した。熱田はトップ走行するシーンもあったが4周目にトラブルでリタイア。

画像: トップの渡辺を追い回す熱田

トップの渡辺を追い回す熱田

画像: 成田がこの数戦調子をあげていて、優勝は間近の気配だ

成田がこの数戦調子をあげていて、優勝は間近の気配だ

画像: 王者、馬場大貴

王者、馬場大貴

昨年のチャンピオンである馬場大貴はスタート直後にクラッシュ。また大きなミスによるタイムロスを喫し、1周目を14番手で走行する。このラウンドは絶望的かと思われた馬場だが、その後淡々と追い上げ12分30秒程度の安定したラップタイムを刻んでいく。1時間40分が経過した8周目にはついにトップへ浮上、渡辺とデッドヒートを繰り広げたのち、ピットインの多い渡辺を振り切る形で馬場が終盤は単独走行へ。今季3勝目をマークしてランキングトップでシーズンを折り返すことに。2位は渡辺、3位には成田が入賞している。

渡辺のクーラント問題に代表されるように、類を見ない長大なヒルクライムがライダーおよびマシンに様々な不具合を引き起こしたJNCC第5戦。だが、逆にとらえれば、すべてがかみ合ったライダーは頭ひとつ飛び抜けやすくなる。今回は馬場にとって様々な要素が噛み合ったラウンドとなった。

画像2: 馬場大貴、いよいよホンモノの強さを見せつける 14位から追い上げての優勝
画像3: 馬場大貴、いよいよホンモノの強さを見せつける 14位から追い上げての優勝

「今年はタイヤのスポンサーをいただいていないんです。エンデューロのタイヤはメーカー毎に長所短所がはっきりしているから自分で銘柄を選びたくて。僕が今回選んできたダンロップのEN91はFIM規格の中でも後半までタレないのが強み。だから序盤で順位を落としても後半で巻き返せるのでは無いか、と思って走っていました。サスペンションのセッティングも亮太(弟の馬場亮太。ともにサスペンションチューニングショップ「ババナショックス」を営んでいる)からアドバイスをもらっていて、実際岩手のコースとの相性が良かったんです。あとは、CGCとかハードエンデューロに参戦していることが功を奏していて、ガレ場でどのくらいまで攻めていけるのかとか、そういうスキルが上がっているんだと思うんですよ。

今日は学さんと成田さんのバトっている後ろから追い上げていたんですが、僕が小学生の時に活躍していたライダーだったんですよね。ここに絡んでいくとか、自分の生意気さに感動しちゃったりして、なんか嬉しかったです」

弟の馬場亮太もJECで今季全勝を遂げており、兄弟でJNCCとJECを制しつつある。二人でISDEに挑戦してみたい、など馬場家の挑戦はまだまだ進化を続けているようだ。

画像4: 馬場大貴、いよいよホンモノの強さを見せつける 14位から追い上げての優勝
画像: トップ9名中、4名がエンデューロ育ち。5名はモトクロスの元ランカー

トップ9名中、4名がエンデューロ育ち。5名はモトクロスの元ランカー

画像: 参議院議員であり、モトクロスIAの横澤拓夢の父である横澤高徳が挨拶に。スタートのフラッグも振った。90年代のIAライダーで2010年にはパラリンピックにも出場している

参議院議員であり、モトクロスIAの横澤拓夢の父である横澤高徳が挨拶に。スタートのフラッグも振った。90年代のIAライダーで2010年にはパラリンピックにも出場している

This article is a sponsored article by
''.