筆者プロフィール:ノア・セレン
新旧・オンオフ・大小・どんなバイクも等しく愛する博愛主義オートバイジャーナリスト/ライター。ダンロップタイヤはα10の頃から親しんできている。現在はアプリリアのトゥオーノとヤマハトリッカーを所有。
まずは「ハイグリップタイヤ」を装着する意味を考える
今回のテストを行った袖ヶ浦フォレストレースウェイにおいて、以前GSX-R1000Rで、出荷時装着の純正タイヤを履いたものと、アフターマーケットのハイグリップタイヤを装着した2台を同時に走らせたことがあった。公道でのあらゆる使用状況が想定された純正装着タイヤで走るのももちろん楽しく、ハードブレーキングやアクセルのワイドオープンでは暴れたり滑ったりはしたものの、それも楽しい範疇ではあった。ところがハイグリップタイヤに交換したら、走る環境もライダーの腕も同じなのにまるで別次元の走りが可能になり、スーパースポーツの奥深さに一歩近づく経験ができた。
どんなに素晴らしいバイクでも地面に接しているのは二本のタイヤのみ。このタイヤでバイクの印象は大きく変わることもある。特にスーパースポーツモデルのように究極のスポーツ性をもつモデルにおいては、最新のハイグリップタイヤを履くことでしか引き出せない魅力が確かにあるのだ。
確かなグリップ、確かなコントロール性。トラクションコントロール等が介入しにくいがゆえに味わえる究極の加速や、リアが持ち上がってくるハードブレーキングから余裕をもって旋回へとつなげていける許容度……。スーパースポーツと呼ばれるカテゴリーのバイクに乗るならば、一度はこういう経験をして欲しいと思う。
【解説】「SPORTMAX Q4」の全てを高めた「SPORTMAX Q5」
ダンロップのこうした超ハイグリップタイヤと言えば、この「Q5」の先代、「Q4」。「クオリファイヤー」ブランドから発展し、アメリカで育ち日本へ導入されたような経緯を持つが、Q4の時点でタイヤウォーマーを必要としない温まり性能や、ある程度のウェットも許容するパターン、ハイグリップとしては長いライフなど、良きバランスを持ったタイヤだった。これら様々な性能を7角形(ドライグリップ・ウェットグリップ・トラクション・接地感・ハンドリング安定性・ライフ・ウォームアップ性)のグラフにしたものがあるのだが、Q5は全ての項目においてQ4を上回っているのだから、何かを犠牲にしてどこかの性能を尖らせたわけではない、正常進化版ということである。
詳細はダンロップホームページに詳しいが、ピックアップしておきたい点としては、プロファイルが変わって外径が大きくかつ尖った形状になっていること、リアはサイドウォールが低くなったことでエッジ接地面積が増えたこと、そしてフロントは横方向/前後方向の剛性はアップさせながら、縦方向の剛性を逆に落としたことで接地感向上を求めたことなどが注目すべき点に思う。全ての性能を高めつつ、かつ接しやすくなった、というQ5であり、「アグレッシブな走りを実現し、自己ベストタイム更新するタイヤ」を謳う。
【サーキット・インプレ】S1000RRに装着しハーフウェットで走り出す
今回のテスト車両はBMWのS1000RR。残念ながらコース上はウェット部分が残り、新品タイヤの皮むきをするには厳しいコンディション。空気圧はフロント2.3、リア2.0でコースインした。まずは熱を入れるために加速・ブレーキングを意識して繰り返したが、この時点でフロントのクッション性が感じられ、縦方向剛性が落とされ柔軟になったという変化を実感できた。フロントタイヤの柔らかさは安心感に直結するため、このようなコンディションでも早々に皮むきを終わらせ、ペースを上げていくことができたのは嬉しい。
タイヤがしっかり温まった頃には路面も乾き始めバンク角をどんどん増やすことができた。ペースが上がってもフロントの安心感が特に印象的で、ハードブレーキングからそのままクリップに向けて寄せていける自信が持てる。また深いバンク角でも余裕があり、コンディションが許せばそれこそヒジ擦りだってできてしまいそうだ。
テスト後にタイヤを見るとまだ端まで使っていなかったため、「深いバンク角」だと思っていたのは、Q5にとってはまだまだ余裕の範囲であり、もっと深い領域も許容してくれるということだろう。ただこれ以上はリスキーなスピードになってくるため、「もしも」があっても許される自分のバイクで、ちゃんとタイムや空気圧をチェックしながら探っていきたいと感じさせられたし、そう感じさせるほどまだまだ先のあるタイヤなのだな、と嬉しくなった。
走行の後半はそれなりに良いペースになっていたにもかかわらず、フロントのみならずリアですら1cmほどもタイヤの端が余っていたというのは初めての経験だった。走行前にプロファイルを見ても、確かに特にリアはとても曲がり込んでいてサイドウォールが低い形状。190/55サイズのはずなのに190/50サイズに見え、またそのプロファイルはまるでレーシングスリックを思わせるほどアグレッシブ。外径が大きくなっていることでバンク角も深まっているはずだ。
タイヤの端が余っていることは恥と思うような風潮も一部にあるが、端まで使わずとも十分にQ5の良さは感じられるため無理はしない方がいいだろう。1cm余らせておくぐらいがちょうど良く、その残り1cmは草レース参戦や、いざという時の本気にとっておいて良いと思う。
逆にかなり深いバンク角が想定されたタイヤだけに、バンク角が限られるネイキッド系などにつけるよりは、やはり十分なバンク角が確保されているスーパースポーツモデルの方が、よりこのタイヤの性格にマッチしていることだろう。
【公道走行インプレ】冷間時走り出しの怖い感じも皆無!
自走にて都内を出発し、東京湾アクアラインを渡り袖ヶ浦のサーキットで走行する、というのはスーパースポーツ車の良き楽しみ方のモデルコース。そして公道性能も確保し、タイヤウォーマーも必要としないQ5はまさにこんな楽しみ方を強力にサポートするタイヤでもある。小雨パラつく公道を走っても不安要素はなく、少し前のハイグリップタイヤのような冷間時走り出しの怖い感じも皆無。言われなければそんなハイグリップタイヤだと気づかないほどのナチュラルさもあった。
なお、サーキットほど熱が入らない公道ワインディングにおいては、サーキットでも感じたフロントタイヤのしなやかさが自信をもたらし、きっと良いペースが楽しめることだろう。しかし公道ワインディングメインで考えるならばダンロップにはα14という商品もあるため、Q5の性能は基本的にサーキットで満喫し、その公道性能はサーキットへのアクセスのため、と考えるのが自然に思う。
スーパースポーツモデルに乗っているのならば、一度はこういったタイヤを履き、サーキット走行を楽しんでほしい。ご自分のバイクの本当の凄さを垣間見る経験になるはずだ。そんな経験を強力にサポートしてくれるQ5である。
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写真/南孝幸 取材協力/モトラッド飛鳥山