ライダー:太田安治、平嶋夏海/写真:森 浩輔/まとめ:西野鉄兵
ライダーのプロフィール
左|太田安治(おおた やすはる)
1957年、東京都生まれ。身長176cm・体重64kg。元ロードレース国際A級ライダーで、全日本ロードレースチーム監督、自動車専門学校講師、オートバイ用品開発などの活動と並行し、45年に渡って月刊『オートバイ』誌をメインにインプレッションや性能テストなどを担当。試乗したオートバイは5000台を超える。現在の愛車はカワサキ「Ninja 1000」ほか。
右|平嶋夏海(ひらじま なつみ)
1992年、東京都生まれ。身長154cm。AKB48の1期生として活躍したのち、グラビアアイドルに。バイクの免許を取得した直後からジムカーナの特訓に励み大会にも出場。ツーリングはもちろんサーキットでの走行経験も豊富で、そのライテクはベテランのテスター陣もうならせるほど。自身のYouTubeチャンネル「はしれ!なっちゃんねる【平嶋夏海】」では、日々バイク関連の動画を配信中。
カワサキ「Ninja ZX-25R」の特徴
東京モーターショー2019で世界初公開され、四半世紀ぶりの250cc・4気筒スーパースポーツがデビューするとあり、大きな話題に。国内では2020年9月に発売された。トラクションコントロールやパワーモードも備え、街乗りからサーキットまでをカバーする高いポテンシャルを実現。
上級モデルのSEは、アップ/ダウン両対応のオートブリッパー付きクイックシフター、USB電源ソケット、スモークスクリーン、フレームスライダーなどを標準装備。KRTエディションは、SEをベースにスーパーバイク世界選手権で戦うKawasaki Racing Team のNinja ZX-10RRと同イメージのボディカラーを採用している。
太田安治・平嶋夏海のカワサキ「Ninja ZX-25R SE KRT EDITION」インプレ
──1泊2日で信州ビーナスラインを走りました。いかがでしたか?
平嶋夏海(以下、平嶋):ビーナスラインには来たことがありましたが、上の方まで走ったのは初めてで、こんなに長いワインディングだったんだと驚きました。景色が綺麗でした!
太田安治(以下、太田):1日目は中央自動車道と霧ケ峰から美ヶ原・白樺平までのビーナスライン。2日目は街中の走りもチェックしながら、主に裏ビーナス(美ヶ原高原沖線)を走って、2日間とも100km以上峠道を駆け回ったね。
平嶋:そんなに走っていたんですね。ちょっと迷った時間もあって、ガタガタした路面の道や落ち葉の道、雨は降らなかったけど濡れている場所もあって、旅しているなあという気分になりました。
──Ninja ZX-25Rは久しぶりの試乗ですか?
平嶋:2020年秋に富士スピードウェイで最高速の計測にチャレンジしました。実測で私が166km/h、太田さんが175km/hを出して、ノーマル状態の250ccでもこんなにスピードが出るんだと、びっくりしました。公道を走ったのは今回が初めてです。
太田:僕はZX-25Rはオートポリスサーキットでの試乗会から、単独インプレ取材、ライバル車との対決企画まで、いろいろなシチュエーションで乗ってきた。現行モデルでは一番距離を走っているオートバイじゃないかな。
──見た目の印象は?
平嶋:初めて見たのは東京モーターショー2019でのアンベールの瞬間で、舞台上に置かれたZX-25Rは何というか、神々しかったです。ほかのNinjaと共通のイメージなんだけど、どこかちがうというか、Ninja 250よりも存在感があるというか……。
太田:フルカウルで見えにくいんだけど、前側から眺めるとエキパイがズラッと並んでいて、「おっ、4気筒!」って嬉しくなる。4気筒ならではのエンジンの存在感で、単気筒や2気筒のフルカウルスポーツと比べると華奢な感じがなくて、車体にエンジンがみっちり詰まっているという感じも特徴だね。
──足つき性や取り回しに不安はありませんでしたか?
平嶋:身長154cmの私でも両足の親指にしっかり力を入れて接地できるんで不安はありませんでした。意外にハンドルが切れるんですよ。撮影ではUターンする機会が多くなるんですが、見た目のイメージよりもしやすいと思いました。
太田:4気筒エンジンを剛性の高い車体に積んでいるから、単気筒や2気筒の250ccフルカウルスポーツと比べると重いのは事実。とは言っても250ccバイクだから、「押し歩きが大変」と感じたことはないなあ。
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──太田さんはかつての250cc・4気筒マシンもたくさん乗っていると思いますが、その点は比べてみていかがですか?
太田:昔の4気筒モデルはシート高が低く設定されていたし、ハンドル切れ角も大きくて、車重も軽かったから取り回しの点では優れてたんだよ。
平嶋:そうなんですね、昔のバイクの方が扱いが大変なのかな、と思ってました。
太田:いまのスポーツバイクはライダーを高い位置に座らせて、荷重の移動量を増やして積極的に走らせるタイプが主流で、30年くらい前とは造り方が全然ちがう。エンジンのカタログスペックは45馬力だけど、まだまだ高回転での余裕があるフィーリングなんだ。充実した電子制御系もZX-25Rが最新モデルだと感じさせるところだね。
──ライディングポジションはどうですか?
太田:トップブリッジの下にセパレートハンドルが付いているのを見ると、かなり前傾がきつくて、長時間走るのは辛そうな印象を受けるんじゃないかな。
でも実際のハンドル位置はそれほど低くないし、ハンドルの開き角と垂れ角、座る位置との関係で、上半身を起こしても腕の伸びと手首の角度に余裕がある。前傾姿勢を強制されないから街乗りやツーリングでも疲れない。そして上半身を伏せ気味にすると、ライダーとオートバイの一体感がグッと高まる。これ、スポーツバイクの特性としてすごく重要なことなんだ。
平嶋:私も初めて跨ったとき、予想してたよりもきつくない! って思いました。
太田:ほかの250ccスポーツよりは尖ったポジションだけど、リッターSSよりは全然楽。昔の250cc・4気筒マシンもハンドルが低くて絞り角が強かったし、シートが低い分、ステップとの間隔が短くて膝の曲がりがきつかった。それはやっぱり、設計段階でどこまでサーキット適性を盛り込むかということ。ZX-25Rは「サーキットで」じゃなくて、「サーキットも」っていう造り込みをしていると感じたね。
平嶋:ビーナスラインを走ってみて、「ツーリングもちゃんとできるバイクなんだ」と感じました。私は前傾姿勢のバイクが得意じゃないと自分で思っていて、前傾がきつすぎるバイクだとすぐ首とか腕が疲れちゃうんです。でもZX-25Rは、SSに乗りなれていない私のような人でも景色を見ながらツーリングが楽しめるライポジだと思います。
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──いざワインディングロードを走ってみていかがでしたか?
太田:いやもう、文句なしに楽しかったよ。とくに上りは4気筒の高回転を思いっきり味わえる。ギアは峠道だとほとんど2速か3速で高回転までキッチリ使う。スロットルをワイドに開けたときに響く吸気音、高回転での叫ぶような排気音を聞いて、オートバイの高回転型エンジンには唯一無二の魅力があるって再認識させられたなあ。
平嶋:私は最初、適切なギアと回転数が分からず、難しく感じました。太田さんの走る音を聞いて、「もっと回していいんだ、回さなきゃダメだ」と思って、だんだんと走り方が分かってきました。
太田:250ccの4気筒エンジンを早め早めにシフトアップして、高めのギアで低回転で走らせていると、レスポンスが眠たげでボヤけたオートバイだと感じるんじゃないかな。でもそういう走り方にもメリットはあるんだ。加速もエンジンブレーキも穏やかになるから、雑なスロットル操作でもギクシャクしない。疲れているときとか、雨の日とかの滑りやすい路面でも安心できる。
平嶋:そうなんですね。私は「特殊な乗り物だなあ」って感じました。こんなに高回転まで回せるバイク乗ったことがないので。8000回転くらいから音が変わって、「まだ回してもいいのかな?」ってドキドキしながら徐々に開けていきました。
太田:8000回転って、かなり高い回転数に感じるけど、17000回転回るエンジンにとってみれば半分以下だから中回転域。「さあ、ここから!」ってところだからね。スロットル操作とエンジンの反応がダイレクトになってくるのは10000回転からかな。
平嶋:明らかに単気筒・2気筒の250ccとはちがって、専用の走り方になるんですね。
太田:慣れの問題だとは思うけれど、平嶋さんが感じたように250cc・4気筒の特性に合った扱い方をしないともったいないね。昔は「ガンガン引っ張りまわして乗る!」が合い言葉みたいになってたから。今はそんな250ccモデルが他にないから特殊といえば特殊。と言うより、すごく貴重なエンジンだよ。
平嶋:おもいっきり高回転を使った方がいい、ということが分かってからは、どんどん楽しくなりました。スロットルが軽いので右手も疲れません。途中から「高回転を維持しながらどれだけ走れるかな」と夢中になっていました。
──今回の車両「Ninja ZX-25R SE KRT EDITION」は、上級モデルでKQS(カワサキクイックシフター)も備わっていますが、使い心地はどうでしたか?
太田:「SE」に標準装備されているクイックシフターは、アップだけでなくダウンもできるのが特長。このおかげでワインディングはいっそう楽しめる。
シフトダウンのときにブリッピングがバウン! と入ってスムーズにエンジンブレーキが効くのがいいね。コーナーリング中でもさほど気を使わずにシフトダウンできて、シフトアップのタイムラグなく加速できるのも気持ちいい。この設定、カワサキはかなり煮詰めて造ったんじゃないかな。誰でも上手なライダーのシフトワークができちゃうから、ちょっと悔しいけど(笑)。
平嶋:私は手の力がないので、ツーリングを何時間もしていると左手が疲れちゃうんですよね。なので走りを楽しむ意味での使い方というより、クラッチレバーを使わずにシフトアップ・ダウンが出来たことは実用面でありがたかったです。ただZX-25Rの場合は、アシスト&スリッパークラッチも装備されていてレバー自体が軽いから左手が疲れることもありませんでした。
──車体に関する特徴は?
太田:ほかの250ccのスポーツバイクはヒラヒラした軽快感をウリにしているモデルが多いけど、ZX-25Rはだいぶ違う。4気筒だから単気筒や2気筒のライバルに比べると車重が少し重いからね。あと、少し難しくなるけど、直列4気筒エンジンはイナーシャ(慣性)が大きいからバンクさせるときも起こすときも少し粘るような感覚がある。その重さ、粘りを上手く活かして安定志向のハンドリングに仕上げている。
平嶋:たしかに下りのときはどっしりした感じがして、曲がりやすかったです。
太田:接地感が分かりやすいからね。ただ軽量でヒラヒラしたハンドリングのオートバイとは、バンクさせるときと起こすときのタイミングが変わる。単気筒や2気筒スポーツのように腰でクイッと操る感じじゃなくて、コーナーに入る前に体のコーナリング姿勢を作っておいて、コーナー入り口で車体を引き寄せるようにバンクさせてやるとスムーズに旋回する。その点では大型車的な扱い方が合ってるね。標準で履いているラジアルタイヤも旋回中の安定性に大きく役立っている。
──ブレーキ、サスペンション、減速時の挙動については?
太田:このブレーキの効き方、僕好みなんだ。レバーの握りはじめからしっかり制動力が立ち上がるし、レバーを握る、緩めるの操作に忠実に反応して減速力を微妙にコントロールできる。スポーティーなオートバイに乗ってきた人は扱いやすいと思うよ。
平嶋:そうですね、私はブレーキ操作も最初は戸惑いました。いままで乗ってきた車種の多くは、もっとぼんやり効くタイプが多かったので、少しでカツっと効くブレーキに「レーシーだなあ」と思いました。最初は少し前につんのめっちゃう感じで……。
太田:それはブレーキのタッチだけじゃなくて、前後サスペンションのバランスもあるだろうね。リアはコーナリング中や立ち上がり加速で踏ん張りが効くように、バランスとしてはやや硬めだけど、フロントは乗り心地を悪くしないように、ストロークしやすい柔らかめのセッティングになっている。
だからスポーティーなブレーキ設定に慣れてないと握りはじめに効かせ過ぎちゃって、フロントフォークが一気に沈んでつんのめる。でもこのブレーキの扱い方はすぐ慣れるし、ブレーキでフロントフォークの縮み量とフロントタイヤに掛かる荷重をコントロールして、コーナー入り口での旋回性を高める、なんてスポーツライディングに必須の操作もやりやすいんだ。
──トラクションコントロール(KTRC)は3段階の設定がありましたが、試してみていかがでしたか?
平嶋:いろいろ変えてみましたが、私のレベルでは乾いたオンロードではなかなか体感できなくて。でもガタガタした道で「効いたかな?」と思うことがあって、安心してスロットルを開けて走ることができました。
太田:中間の「2」に設定しておけばほとんどの状況をカバーしてくれる。リアタイヤのグリップ状態をしっかり把握できるスキルがあるライダーなら「1」のままでもいいかな。介入度がもっとも高い「3」にするとトラクションが抜ける感じが伝わってくるから、慣れないとオートバイの動きが不自然に感じるかもね。
ABSと同じで普段は意識しないけれど、いざというときにはライダーを助けてくれる。サーキット走行以外ではオフにしないほうが賢明だと思うな。サーキットでも上級者でなければ「1」で走った方がいいかもね。
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──高速道路も走ってみましたけれど、総合的にツーリングバイクとしての評価は?
平嶋:高速道路は、ワインディングよりも気楽に何も考えず、好きなギアで周りの速度に合わせて走れました。トップスピードに関しては前にサーキットで計測して知っていたので、不安はまったくなかったです。
太田:4気筒エンジンは振動が少なくて疲れにくいんだよね。高速道路ではカウルの整流効果を腰から下で実感できるし、上体が走行風圧を受けて起こされて、前傾姿勢の負担がさらに減る。250ccで遠くまで行きたい、スポーティーな走りも楽しみたい、街中も楽に走りたいという欲張りな人(笑)には有力候補になるはず。
平嶋:前傾がきつすぎないっていうのが、長い時間乗っていると嬉しいですね。伏せてカウルの中に身体を入れたり、逆に伏せるのに疲れたら起こしたりと、けっこう体勢を変えられます。
──太田さん、走りに関して、昔の250cc・4気筒マシンと比べて優れていることがありましたら、教えてください。
太田:数値だけ見れば昔の4気筒エンジンと大きな差はない。でも30数年前と今では騒音と排気ガスの規制が比較にならないほど厳しくなってる。取材で旧車に乗ると「こんなに騒々しくて臭かったっけ?」って思うもん。排気量が小さいほど規制の影響が大きくなるから、開発の人たちはかなり苦労したと聞いてる。
ZX-25Rは突き抜けるようなサウンドを楽しめるけど、人が乗っているのを見ていると意外なほど静か。ライダーだけが楽しめるように吸気音と排気音の音量、音質を作り込んだそうだよ。エアインテークとエキゾーストパイプの長さと太さ、容量を工夫して、インジェクションと点火時期を緻密に制御することで昔以上のパワーを引き出してるんだ。
あと、今のエンジンは面倒がないね。昔のエンジンは燃料コックを開いてチョークレバーを引いて、エンジンの暖まりに併せてチョークを戻して、なんて儀式が必要だったけど、今はセルボタンを押して始動したらすぐ走り出せる。空気中の酸素密度が変わる夏と冬、低地と高地で同じ調子で走れるなんて、昔のライダーからしたら信じがたい進化だよ。
──Ninja ZX-25Rに欠点があるとすれば何でしょう?
平嶋:うーん、乗り方が特殊で250cc・4気筒が未経験の方には難しく感じるかもしれないけど、極める魅力はすごくありますからね。
太田:タンデムはどうだった?
平嶋:あー! 太田さんの後ろに少し乗らせてもらったんですけど、大変でした。ふたりでのロングツーリングは後ろに乗る人の方が疲れそうですね。
太田:でもまあ、スポーツモデルにそこを求めるのは筋違いだからねえ……。むしろ「僕にしっかり掴まって!」って言えるのがいいかも(笑)。
──最後にNinja ZX-25Rのもっとも好きなポイントを教えてください。
平嶋:やっぱり音がすごい、と思いました。こんな音聞いたことなくて。乗っているときもそうだし、太田さんが走っているのを見ていて遠くから来るときに、すぐ「来た!」ってわかる。ZX-25R登場っ!って感じ。音も存在自体も目立つから、下手な走りはできないな、と思います(笑)。
太田:現状、250ccの4気筒モデルは世界中を見回してもZX-25Rしかない、というのが何よりのインパクトだね。製造コストがかかって値段も上がるし、エントリーユーザーは乗りやすいオートバイを求める傾向が強いから国内市場では売れないかも……と多くのネガティブ要素があって、どのメーカーも手を出さなかったジャンルだったのに、しっかりまとめ上げて発売したのはさすがカワサキ。これはもう感心、感謝しかない。
平嶋:東京モーターショー2019で発表されたとき、ベテランライダーさんたちがとくに盛り上がっていた印象があるんですが、今回あらためて乗ってみて、熱狂するのにはワケがあったんだな、と分かりました。
太田:遠慮なく高回転まで引っ張って走らせる。そんなエキサイティングな走りが公道で楽しめるオートバイはないよ。若いライダーは平嶋さんのように初めての250cc・4気筒体験になる人も多いだろうけど、ぜひ17000回転まで突き抜けるように回転が上昇していくZX-25Rだけの高揚感を楽しんで欲しい。大げさじゃなく、ほかのオートバイとはまるで違う世界を見せてくれるからね。
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衣装紹介
太田さん・平嶋さんともにジャケットは、カワサキプラザアパレルを着用。
「ファッションを通じてスタイリッシュなモーターサイクルライフをたのしむきっかけをつくりたい」。カワサキプラザはそういった思いから、素材本来の特徴を生かした高機能かつ普遍的なアイテムを提案しています。
カワサキプラザアパレルは、全国のカワサキプラザにてご確認いただけます。
ライダー:太田安治、平嶋夏海/写真:森 浩輔/まとめ:西野鉄兵