まとめ:齋藤ハルコ/写真:井上 演
※この記事は月刊『オートバイ』2022年12月号に掲載したものを再編集しております。
※玉村八幡宮境内での撮影は、特別な許可を得ています。
今回のゲストは漫画家のきらたかしさん
バイクをこよなく愛する青春マンガの名手が登場!
僕、佐々木優太が、全国の神社を参拝して得た知識や経験を活かした〝神社ソムリエ〟として、ゲストのお人柄や願いに合う神社へご案内するこの連載。今回のゲストは、漫画家のきらたかしさんをお迎えしました!
名作ラブコメ『赤灯えれじい』の作者であり、46歳の冴えない主人公が16歳にタイムスリップする『ハイポジ』はTVドラマ化。その後も愛する妻に先立たれた主人公を描いた最新作『没イチ』など、話題作を次々に生み出しているきらさん。大のバイク好きでも知られており、『ケッチン』や『凸凹DEKOBOKO』など、バイクが重要なモチーフになっている作品もあります。
今回は「中古で買った初代モデルをずっとダラダラ乗り続けてる」というTMAXで登場してくれた、きらさん。しばらくぶりに乗ったので、TMAX用のETCカードの有効期限が切れていたことに、高速道路の入場ゲートで気づいたとか(笑)。きらさんのバイクエッセイは、大小さまざまなアクシデントに遭遇する姿がコミカルに描かれ、それがとても面白いのですが、まさに漫画の中のきらさんに出会った気分になれた旅の始まりでした(笑)。
きらたかしさんの願いは……
この先の人生を満喫するために、もうちょっと日々の暮らしの密度を上げたい
ゲスト
きらたかしさん
1970年兵庫県宝塚市生まれ。1991年「少年サンデー」で漫画家デビュー。2003年ちばてつや賞ヤング部門大賞受賞。2004年から「週刊ヤングマガジン」で『赤灯えれじい』を連載。
主な作品は、『没イチ』『ハイポジ』『凸凹DEKOBOKO』『ケッチン』など各種電子書籍ストアで好評販売中。
きらたかしさんの愛車ヤマハTMAX
神社ソムリエ
佐々木優太
参拝した神社は1万数千社、受けた御朱印は4000以上。ラジオパーソナリティーやテレビMCとして活躍し、神社にまつわる執筆や講演もしています。愛車はハーレーダビッドソン・XL1200NS。
ツーリングの目的地は群馬県玉村町の玉村八幡宮
絵を描く職業だからこそ、ご案内したかった神社
今回、きらさんの目標は「もうちょっと日々の暮らしの密度を上げたい」というものでした。理由を伺うと「もうすぐ53歳。これまでなんとかそれなりに充実して過ごしてこられたけど、この先、より充実して生きていくには、どんな目標を持つのがいいのか目下悩み中なので」とのこと。そこでご案内したのが群馬県の玉村八幡宮でした。
勝負の神様をお祀りする八幡神社を選んだのは〝これからの人生をさらに勝っていけるように〟という意味を込めたからですが、じつは八幡神社は日本で最も多い神社で、全国に2~3万社はあるとされます。その中でもなぜ玉村八幡宮が、漫画家のきらさんにピッタリだと考えたかというと、境内の建物の建築様式やそこに刻まれた彫刻技術の移り変わりに、進化する芸術の歴史が感じられる神社だからでした。
通常の神社では、境内の建造物はほぼ同じ年代に作られたり、建て替えられるもの。玉村八幡宮のように歴代の建造物が残っているのは、なかなか珍しい例なんです。神社を参拝する際は、こうした建築物の様式や特徴にも目を向けるのも、よりその神社の歴史が感じられる一助になると思います。
玉村八幡宮(たまむらはちまんぐう)
鎌倉時代の建久6年(1195年)に源頼朝により創建されたとされる神社。江戸時代、日光東照宮に朝廷の使いとして捧げものを運ぶ“勅使”が通る道だった日光例幣使道の一番目の宿場町として賑わった玉村宿の中心地に建っています。
群馬県佐波郡玉村町下新田1番地
御祭神は海を渡る強い力を持ち、勝負の神様でもあるホンダワケノミコト(第十五代応神天皇)、オキナガタラシヒメノミコト、ヒメノカミの三柱。社殿は本殿・幣殿・拝殿が一体となっており、室町時代の建築様式と江戸初期の様式が融合した本殿は国の指定重要文化財です。
ご利益の理由
きらたかしさんだから、おすすめの3つの理由
1.八幡神社は勝負の神様をお祀りしている
→これからの人生をさらに勝っていける
2.日光に捧げものを運ぶ勅使を見守った神社
→人生という旅を見守ってもらえるよう祈願
3.境内の彫刻が時代と共に細密になっている
→漫画家人生の密度がさらに濃くなるように
植物の彫刻で歴史がわかる!
信仰の広まりと共に建物や参道が徐々に整備・拡大された玉宮八幡宮は、本殿から一の鳥居にかけて作られた年代順に建造物が並んでいます。年代の違いが特にわかりやすいのが草の彫刻。最も古い本殿の草模様はとても単純な形ですが、拝殿、随神門と、彫られた年代が新しくなると共に形が複雑になっています。
随神門 (1865年建造)
本殿 (1507年建立、1610年移築)
拝殿 (18世紀末建造)
漫画家の視点が光る!
宮司の計らいで見せていただいた拝殿内の壁には8体の神獣が描かれいます。「おそらく江戸時代中期~後期に、狩野派の絵師が描いたものだと伝わっています」とのこと。きらさんはじっくり眺めながら「かなり綺麗に色が残ってて、すごく良い顔料が使われてるんだろうな」と語っていました。まず顔料に着目する視点は現代の絵師といえる漫画家さんならでは!
参拝ではココに注目!
お寺の様式が残る本殿の窓
正面向かって奥から本殿・幣殿・拝殿が繋がっている社殿。近世の修復で鮮やかな朱塗りとなっていますが、最も古い本殿はもともとは独立しており、室町時代に建立された歴史ある建物です。本殿で珍しいのが、隣接するお寺との集合時代の名残りである窓の形が残っていること。また古い神社の建築様式として、自然の玉石を基礎に建物はその上に乗せているだけであることが見て取れます。
玉村八幡宮の御朱印
玉村八幡宮では季節ごとの限定御朱印を頒布しています。令和四年の夏の限定御朱印は、戌年・亥年生まれの人々に特に霊験あるとされる神社だけに、犬と猪のイラスト入りでした。