アンチノーズダイブ機構はハードブレーキング時の車体姿勢変化を抑えるメカニズム。画期的なシステムのようだったが、違和感のあるフィーリングを好まない人も多かった。
文:横田和彦

「アンチノーズダイブ機構」の流行と衰退

サスペンションとタイヤの進化で絶滅

ANDF(Anti Nose Dive Fork=アンチ・ノーズ・ダイブ機構式フロントフォーク)は、1980年代前半のスポーツバイクを中心に採用されたメカニズムで、フロントブレーキを強くかけたときにフォークがガクッと沈んで車体姿勢が大きく崩れるのを抑制するシステムだ。

スズキの技術者から開発のキッカケを聞いたのだが、庭を駆け回る犬の姿からヒントを得たという。犬は急減速して向きを変えるとき、前足を突っ張り頭が下がらないようにしていた。それを見て「バイクも急ブレーキでおじぎ(ノーズダイブ)しないほうがよいのでは」と考えたという。

すぐにGPマシンに取り入れ、ANDFとして市販車にも反映。ブレーキレバーを握ったときキャリパーにかかる油圧を利用してフォーク内のリリーフバルブを作動させ、フォークの動きを抑制するという構造だ。それを見てすぐに他社も追従。カワサキ、ヤマハも似た構造だったが、ホンダは機械式を採用した。

僕がANDFを体感したのは中型免許を取り1年ほど経過した1986年頃。レーサーレプリカブーム真っ只中だったが、学生は高額な新車が買えず少し古い空冷4気筒のGSX400F(1981年型)を購入。フロント19インチにANDFを装備していて、フロントブレーキをかけるとフォークが突っ張ったようになって驚いた。

しかしバイクの経験が少なかったので「こんなものかな」と思い乗っていた。のちにRZ250に乗り換えたときにANDFが特殊だったと感じ、次にGSX750S刀を入手したときはANDFの挙動に慣れず、早々に解除した。

世の中的にもブレーキングで突っ張るような動きはフロントタイヤの早期ロックを招きかねないといわれ、フロントフォークの進化とともに数年後には消えていった。

スズキ 「ANDF」(アンチ・ノーズ・ダイブ機構式フロントフォーク)

フロントブレーキキャリパーからフォーク前面にあるANDFシステムに向かってもう一本ブレーキホースが伸びる。マスターシリンダーからの油圧がANDFシステムにも流れてリリーフバルブが作動しフォークの動きを抑制する。そのためタッチはややスポンジーになる。

画像: スズキ 「ANDF」(アンチ・ノーズ・ダイブ機構式フロントフォーク)

カワサキ「AVDS」(オートマチック・バリアブル・ダンピング・システム)

GPZ900R、KR250などに採用されたメカニズム。ブレーキホースの途中からオイルラインが分岐し、キャリパーとAVDSユニットへとつながる。こちらもマスターシリンダーからの油圧がキャリパーとAVDSユニットへ流れ、コントロールバルブを動かしてフォークの動きを抑制する。

画像1: 1980年代のスポーツバイクに搭載された「アンチノーズダイブ機構」とは? 急ブレーキでもフォークが沈まない!?
画像2: 1980年代のスポーツバイクに搭載された「アンチノーズダイブ機構」とは? 急ブレーキでもフォークが沈まない!?

ホンダ「TRAC」(トルク・リアクティブ・アンチダイブ・コントロール)

ホンダは油圧を使わない独自方式を採用。仕組みはブレーキをかけるとキャリパーがローターの回転方向に引きずられると同時にトルクロッドも引っ張られる。それにつながっているトルクアームがピストンを押しダンパーオイルのメイン通路を閉じてフォークの動きを抑制する。

画像4: 1980年代のスポーツバイクに搭載された「アンチノーズダイブ機構」とは? 急ブレーキでもフォークが沈まない!?
画像5: 1980年代のスポーツバイクに搭載された「アンチノーズダイブ機構」とは? 急ブレーキでもフォークが沈まない!?

ヤマハ「油圧連動式アンチノーズダイブシステム」

ヤマハのレーシングテクノロジーを投入したGPマシンレプリカ・RZV500やFJ1200などには油圧連動式のアンチノーズダイブシステムを装備。またFZ750の国内仕様にも装備されていたが、ヤマハは自然なハンドリングを追求していたからか装備していたバイクはそれほど多くない。

画像: RZV500Rのフロント回り

RZV500Rのフロント回り

文:横田和彦

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