最先端のテクノロジーを駆使してスポーツウエアを手がけてきたゴールドウイン。同社がラボラトリーを経て開発したという本気のウエアがいかなるものか、実走を重ねてテストしてみた
https://www.goldwin.co.jp/goldwin/motorcycle/collection/
極限の動きやすさに、ノンストレス
モーターサイクルの歴史において、そのはじまりの舞台がオフロードであることに異を唱える者はいないだろう。なんせ舗装が進んでいない20世紀初頭のことである。転倒時に皮膚をすりむかないよう、彼らが着用していたのはレザーコートにレザーパンツだった。革を使ったウエアを頑丈に作れば作るほど、ライダーにとって動きづらいものになるのは自明の理。モトクロス用のレザーパンツは、シャーリングやギャザーを入れることで、わずかながら動きやすさを得たものの、スポーツウエアと呼ぶには程遠い代物だった。そのうちに化学繊維や樹脂パーツの登場により、ウエアの素材も皮革から布地へ、モトクロスパンツもプロテクション性能とともに飛躍的に動きやすさを獲得し、スポーツウエアとしての進化をしていくこととなる。
90〜00年代は化学繊維を用いながら優れたグラフィックが次々に登場した。今でもそのデザイン性を振り返るブランドが少なくない。ゴールドウインがGW SPORTというブランドでモトクロス会場を席巻していたのもこの時期だ。2020年代はさらに動きやすさを追い求める動きが活発になった。特に競技スピードが飛躍的に向上してきたモトクロスの選手権を戦うライダーにとって、丈夫さよりも動きやすさの方が重要となっていたからだ。
洗練されたスポーツウエアの時代に、ゴールドウインが再びオフロードウエアを作る
オリンピッククラスのアスリート達に提供されるスイムウエア、ランニングウエア、その他アスリート向けの純スポーツウエアや、超高温・極低温などに曝されるクライマー向けのアウトドアウエアに使われる素材は、この10年ほどで飛躍的に進化しているのだが、それらハイテク素材はオフロードウエアにも活用されている。アウトドアブランドThe North Faceの独自商品開発や競泳のSPEEDOなど数々のスポーツウエア開発を手掛けてきたゴールドウインは、そこで培ってきたノウハウをオフロードウエアに落とし込んだ。
開発に関わった伊藤氏の言葉は非常に印象的だ。
「このウエアは、裏地こそが美しいんですよ」
スポーツウエアは引っかかりを避けるために、縫い目をできるだけ作らないように圧着処理をする、あるいは縫い目にシームテープを丁寧に張りこむことで、わずかな着用時のストレスを軽減する。パンツの腰部分のずれ防止ラバー処理すら美しく、そういった表に見えない部分も、ゴールドウインの製造は丁寧で機能美だ。
ウエアに使われている素材は、スペックにはこう書かれている。
Competiton Jerjey
〈前身頃、袖〉ポリエステル87%、ポリウレタン13%
〈後身頃〉ポリエステル50%、複合繊維(ポリエステル)50%
Competition Pants
〈身生地〉ナイロン92%、ポリウレタン8%
〈後上、後脇、裾〉ナイロン85%、ポリウレタン15%
〈内膝〉牛革
とても控え目な表現だが、実際にはパンツには数種類の素材が組み合わされたパネルが使われており、それぞれ伸縮性、表面の滑り特性、摩擦への強さなどで適切に配置されている。膝内側の牛革裏側には頑強なコーデュラ素材を使ってニーブレイスで破れないよう補強。腰部にもウエストをしっかり固定するためにコーデュラを張り込んでいて、シートに引っ張られてパンツが動いてしまうような感触は皆無である。ももの裏側と前面は、もも横と素材を切り替えていて、シートとの相性を考慮している。全体的なストレッチ感は今まで体感したことないもので、まるでジャージ素材のように伸び縮みしてフィットしてくれる。伸縮性とそのコンプレッションのソフトさから考えるに、かなり太い腿に鍛え上げてあってもストレスを感じることはないはず。当然ニーブレイスを想定している太さで設計されているのだが、足を入れるとその滑りやすさに感動する。また、そもそもの着丈が短いのだが、これは開発ライダー野崎史高の意見を取り入れたそう。「ブーツを履くため、足首まで覆う必要はないし、足首あたりに空間ができれば空気も通りやすくなる」とのこと。
もはやアイデアが出尽くした感のあるジャージに至っても、ゴールドウインは特殊な素材を用意してきた。いわばタイツに近い非常に伸縮性の高いファブリックを使っている。ほぼ肌と一体化して密着するにも関わらず、こちらもコンプレッション具合は非常にソフトで感じる圧はほぼゼロ。AMAのとあるライダーが「ほんの少しの圧迫感でも、腕上がりを生んでいる気がするので袖にはさみをいれることがある」と言っていたけれど、これならその「圧迫感」を感じることはないはず。あえて難点をあげるとすれば、あまりに密着するためにまるで裸のように表面に肌感が浮き出てしまうことだ。筆者、OFF1.jp編集長稲垣はへその脇にほくろがあるのだけど、このほくろすら浮き出てしまう(笑)。もし僕の身体が完全に仕上がっていれば、裸体の上から着てむきむきの身体をアピールしたいところだけれど、おなかも出ちゃっているのでチェストガードなどを仕込むことが必須になりそう。最近ではピタっとジャージを着るのがカッコイイとされているけれど、これはピタシルエットの究極だし、それを着るにはある程度の覚悟、または体格も必要と言えそうだ。
オフロードウエア=スポーツウエア
水泳の世界ではアマチュアスイマーでもある程度までは水着でタイムを縮めることが出来るという。さすがにモトクロスでウエアがタイムに影響することはないだろうけれど、とにかく動きやすいことは理解できる。伸縮性が高すぎて、上下ウエアを寝間着にできるくらいノンストレスなのだ。
それでは実着、といこう。埼玉県にあるコンパクトなモトクロストラック、モトクロスヴィレッジで着用してみると、その高品質さを如実に感じ取ることが出来た。とにかく動きやすい。たとえば、これまで着てきたウエアだと、ニーブレイスとウエアがうまく擦れないことが多く、ウエアがつっぱった感じになって大腿筋が変な疲れかたをしてしまうことがあったのだけれど、そういった細かなストレスが感じられない。おそらく、ももまわりの伸縮性と、裏地の滑りの良さによるものだろう。この大腿筋の疲れで10分しか全力走行ができなかったのが、12分ほどに伸びたような気もする。30分のモトクロスレースをすることは僕はないけれど、IAの30分+1周ヒートに臨むなら、このストレスフリーさは大きな武器になるかもしれない。
クロスパーク勝沼のエンデューロ練習会に参加したときは、ウエアのおかげでミスが少なくなっていることに気づいた。マシンにブーツやウエアを引っかけてしまったタイミングで転倒したりしてきたのだが、そういうことは起きる予兆すらなかった。それと、転倒した際でも結構派手に地面にスライドしてしまった割に転倒痕すらわからなかったから、薄く柔らかい素材だからといって丈夫さに欠けるというわけではなさそうだ。特にパンツは地面に対しても摩擦が少ないのではないかと思う。
開発ではモトクロスの中島漱也と、トライアルの野崎史高のライディング中の姿勢を解析していると聞く。どの姿勢をコース走行中に何パーセントしているのか、どの程度膝や肘、腰を曲げているのかという数値をロギングし、パターンナーの設計にフィードバックしたそうだ。彼らが本番で着ているのは、モトクロス専用と、トライアル専用で設計思想が違うものだが、市販のウエアはその中間を目指したとのこと。着用してシッティング、スタンディング両方試してみたが、どちらも極めてノンストレスにフォームを維持することができる。
誰の手にもスポーツライドを。Off1が感じ取ったまったく新しいゴールドウインのメッセージ
スポーツギヤの多くはプロ向けとエントリーユーザー向けに分かれている。多くのプロ向けギヤは商品としては「尖った」性格のものが多く、使う人を選ぶ傾向にある。ここ数年、モトクロスのブランドも一般消費者向けのラインナップにプロ向けギヤとして動きやすいハイエンドグレードのウエアを用意するようになった。それらの商品は耐久性を割り切って開発しているため破れやすかったり、ツーリング用途を完全無視していたりする。プロ向けギヤは割り切ったプロダクトだから、それでいいのだと思う。
今回ゴールドウインのウエアをレビューして感じたのは、動きやすく、軽く、薄いハイエンドグレードのウエアであっても、エントリーユースやツーリングユースを諦めるどころか、しっかりと全方位を向いたコンセプトで作られている、という点だ。動きやすいスポーツウエアとして仕立てられたものなのに、実はパンツは強力な撥水機能を有しているし、前述した通りなかなかに丈夫な仕立てで転倒ダメージにも強い。さらには、サステナブルなプロダクトとしてゴールドウインのウエアはすべてメーカーで無償修理もしてくれる。
考えてみれば、セローで林道を走ることだってスポーツライドだ。日本各地に存在するトレイルカルチャーを楽しむ層が行っているライディングは、さらにスポーツ性が高く、ウエアが動きやすいに越したことはない。日本一周のようなロングライドツーリングだって、やはりスポーツ性を帯びている。オフロードバイクライダーの遊びは、すべてがスポーツライドなのだと言えなくもないわけだ。林道ツーリングだからといって、オンロードバイクのウエアを着る人もいるけれど、本当はスタンディングを前提としたパターンで瞬時に身体を動かせるスポーツウエアのほうが乗っていて楽しいし、アクティブセーフティの観点から安全でもある。
アースカラーで仕立てられ、自然に分け入っても調和するミニマルなデザインは、競技ユーザーにのみ向いているものではなく、むしろ日本の山野でスポーツライドを楽しむ層も想定しているはず。すべてのオフロードライダーに、スポーツウエアを。そんな粋な計らいが、着込むほどに見えてくるのだった。
■Competition Jersey
環境配慮素材を一部に使用。耐久性や運動性能だけでなく着やすさも兼ね備えたモトクロスジャージー
品番:GB03300
価格:15,400円(税込)
カラー:ダークスレート(DS)、フロスティグレー(FT)、スカーレット(ST)、ナイトネイビー(NI)
サイズ:1、2、3、4、5、3-2、4-3
素材:〈前身頃、袖〉ポリエステル87%、ポリウレタン13%
〈後身頃〉ポリエステル50%、複合繊維(ポリエステル)50%
■ Competition Pants
環境配慮素材を一部に使用。耐久性や運動性能だけでなく着やすさも兼ね備えたモトクロスパンツ
品番:GB13350
価格:32,450円(税込)
カラー:ダークスレート(DS)、フロスティグレー(FT)、スカーレット(ST)、ナイトネイビー(NI)
サイズ:1、2、3、4、5、3-2、4-3
素材:〈身生地〉ナイロン92%、ポリウレタン8%
〈後上、後脇、裾〉ナイロン85%、ポリウレタン15%
〈内膝〉牛革