夏の終わりに、東京から北へ向かった。
文:西野鉄兵/写真:関野 温/協力:カワサキモータースジャパン
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行くぜ東北!「Ninja 1000SX」の高速巡航の快適性
蔵王大権現の大鳥居をくぐると「本当にもう蔵王に来たんだな」と実感が湧く。時刻は正午前、夜明けとともに東京を出て、お昼前に宮城県蔵王町に入れた。約350km走っているというのに疲れはない。東北屈指の名道、蔵王エコーラインへ突入した。
バイクメディアに携わっていると、新型車が出るたびにテスター陣や編集者仲間からの試乗レビューが耳に入る。「あそこが少しダメ」「思っていたより重い」「遅くてかなわん」などネガティブな内容も多い。
カワサキ「Ninja 1000SX」は2020年4月にデビューした。2011年に初代Ninja 1000が登場しその後2014年と2017年にモデルチェンジ。現行型の「SX」は実質4代目となる。熟成を重ね、最新電子制御システムを搭載したこのマシンは、すこぶる評価が高かった。試乗したテスター陣・編集スタッフは、誰もがその進化を讃え、「万能っぷりに磨きがかかった」「完成度が高い」と評価していたのを覚えている。
蔵王までは首都高から東北道を北上してきた。スポーツツアラーの“ツアラー”としての性能は存分に感じられた。
100km/hは6速4200回転、110km/hは4800回転、120kmは5200回転程度で発生。最高出力の発生回転数は10000回転なので、余裕はたっぷりとある。
6000回転以下では4気筒エンジンの振動や主張はほとんど感じられず、フラットでなめらかだ。穏やかな鼓動感は「こんな速度はジョギング程度ですよ」と言わんばかりで頼もしい。
交通量の少ない区間では80km/hで走っていても120km/hで走っていても、ちがいをほとんど感じない。120km/hで流れる景色がスローモーションに思えるほど安心感がある。
その安心感は、エンジンだけに由来しているわけではない。アルミニウム製ツインチューブフレームは高い剛性としなやかさをあわせ持ち、直進時の安定性はひとつの特長だ。
そして上質なサスペンション。高速道路上の細かなひびやごく小さな段差は、ライダーに伝えないように吸収してくれているのが分かる。いじわるをして荒れた轍部分を走ってみたりもしたが、何でもないかのように衝撃を緩和し続けた。高速道路で路面を気にすることなく走れるのはありがたい。
標準装備されているスクリーンは、手動で4段階の確度調整ができる。もっとも立てた角度にすると効果はてきめんで、顔に当たっていた走行風が頭部まで逸れた。冬場だったらよりいっそう恩恵を感じられるだろう。
ライディングポジションの自由度の高さも快適性に繋がっている。セパレートハンドルながら、幅があり、設置位置は高めで垂れ角はゆるい。シートの前後長もあり、お尻の位置を定期的にずらせるのも嬉しい。クッション性は絶妙で、長時間座っていても苦にならない。
走行が200kmを超えたあたりで右手にやや疲れを感じた。クルーズコントロールを使ってみる。
左手の親指でスイッチを操作し、任意の速度にセッティング。上りと下りが連続するエリアだったが、ライダーに違和感を抱かせない優しい加減速で、一定の速度を維持する。速度を上げたいときは「+」、下げたいときは「-」スイッチを押すことで1km/hずつの微調整が可能だ。
右手の握る力を緩めることができると、バイクの高速移動はこんなにも楽なのかとあらためて思う。
SAには数回立ち寄ったが、休憩というよりも主にヘルメットのシールドとスクリーンに貼りついたゴミを落とすためだった。ヘルメットに備えたBluetoothスピーカーで好きな音楽を聴いているうちに、疲れを覚えることなく東北に入ってしまったという感覚だ。
燃料は260kmを走って一度補給した。メーター上の目盛りは残りひとつとなっていたが、給油量は約15L。高速道路のみでの実測燃費は約17.5km/L、「Ninja 1000SX」の燃料タンク容量は19Lなので、この燃費なら約330kmの航続が可能となる。
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蔵王エコーラインでスポーツツアラーの“スポーツ”部分を体感
大鳥居を抜けると道はすぐさま山岳ワインディングに変わった。カーブが連続する。気温は高まっていたが、東京よりも空気は軽い。爽やかな森の中を抜け、標高を稼いでいく。
オプションのパニアケースを備えた「Ninja 1000SX」は、存在感たっぷりで大柄に見える。ただ跨ってみれば、足つきはよく、軽いと感じた。シート高は820mm。身長175cmの私の場合、跨ったままでも平地なら前後に無理なく動かせる。
高速道路では、剛性の高さとパワーの余裕が頼もしかったが、ワインディングに入ると、しなやかさや軽快さが際立つ。使用するギアは1速から3速までで、コーナーの立ち上がりでは回転数を上げる。
いい意味で、総排気量1043ccもあるバイクだとは思えない。予想以上に機敏な動きから800cc前後のバイクに乗っているかのような錯覚を覚える。
蔵王エコーラインの路面は、つぎはぎが多く、コーナーの最中やクリッピングポイントにもおかまいなく小さな段差が現れる。並みの足まわりのバイクなら神経を使いそうだが、「Ninja 1000SX」だとほとんど気にならない。見た目で「嫌だな」と思った路面も卒なく走ってしまうのだ。
KTRC(カワサキトラクションコントロール)と、KIBS(カワサキインテリジェントアンチロックブレーキシステム)がタイトな峠での安心感に大きく貢献している。
トラクションコントロールは3段階で調整可能。非常に細やかな動作をしていることが走りながら感じられた。コーナーの継ぎ目の段差で後輪がずるっと滑りそうになったのを、そっと誰かに支えられるように正しいラインへと戻してくれた。
そんなに攻めているつもりでなくても、不意の空転は起こり得る。そういった場合のサポートを行なってくれるのだ。ウエットな路面なら、よりありがたみを感じるだろう。
ブレーキの感触もいい。KIBSは、スーパースポーツ用の高精度ブレーキ制御システム。公式サイトでは、“前後のホイール速度差だけでなく、フロントキャリパーに掛かる油圧やエンジンECUからの多様な情報を解析し、標準的なABSシステムよりもはるかに細かい油圧変化が可能”と説明されている。ひと言でいえば、確実に効き、力のかかり具合がすこぶる分かりやすい。
カツンと強烈に効くのではなく、握り方に応じて、緩やかにも効かせられる。このブレーキがあるから安心して加速もできる。
標準装備されているタイヤはブリヂストンのバトラックスS22。グリップ力が高く、雨天にも強い。公道でのスポーツライディングを想定しつつ、サーキット走行も視野に入れたハイグリップタイヤだ。
慣れてきたところで標準装備されているKQS(カワサキクイックシフター)を活用してみた。シフトアップ・ダウンのどちらにも対応している。クラッチレバーの操作が不要となり、その分、ライン取りや回転数の維持に集中できる。
つづら折りを満喫すると景色がいっぺんに開けた。蔵王エコーラインから蔵王ハイラインへとスイッチし、有名な蔵王山の御釜へと向かう。
蔵王山頂レストハウスの標高は1720m。下界は猛暑日だったものの、頂上には秋を感じさせる風が吹く。宮城県側の空には雲がかかっていたが、山形県側は青空が広がっていた。
残念ながら御釜は雲に覆われ望めなかったものの、名物の玉こんにゃくを食べて、涼しいなかで一息入れた。
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泊まりがけツーリングの醍醐味
夜は山形県天童市に宿をとった。蔵王エコーラインを宮城県から山形県へ抜け、宿に着く前には綺麗な夕焼けを見ることができた。広い空と稲の香り、夏の終わりをしみじみと感じる。
天童市は将棋駒の産地として有名な町だ。町中には将棋駒をモチーフとしたオブジェが目立つ。歩道には詰将棋、そして飲み屋街は「と横丁」(将棋の歩兵が成って裏返ると“と金”になる)。
夜まで楽しめるというのが泊まりがけツーリングの醍醐味だろう。一日中たっぷり走って心地いい達成感を得つつ、名物の冷やしラーメンや鳥中華をハシゴで堪能した。
「Ninja 1000SX」で500km近く走っていたが、腕・肩・腰・お尻のどこにも痛みはない。ツアラーとしての性能は、バイクを離れたときにもよく分かる。この分なら筋肉痛になることもないだろう。
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ツアラーとしての性能は2日目以降に問われる
普段のツーリングなら1日目に走るだけ走り、少し逆戻りした場所に宿をとり2日目に余裕を持たせることが多い。しかし「Ninja 1000SX」ならもっと遠くへ行っても楽に帰れる気がした。
天気予報をチェックして、晴れているであろう日本海方面を目指す。
天童市から北西へ向かい月山の周辺を通り抜ける。それから高速道路と一般道をつないで、山形県と秋田県の県境に跨る鳥海山へやってきた。
鳥海山を駆けあがる「鳥海ブルーライン」は、蔵王エコーラインと並び、東北地方を代表するワインディングロードのひとつだ。爽やかさ満点の名称にもそそられる。
「Ninja 1000SX」は、すっかり身体にフィットしている。昨日一日走っただけで、しばらく乗り続けている愛車のように気兼ねなく扱えた。路面状態がいいこともあって、昨日よりもコーナリングが楽しい。
この道へ訪れるのは、約18年ぶりになる。18歳の頃、普通自動二輪免許を取得し、250ccバイクで初めて長旅に出たときの目的地が鳥海山だった。一般道を朝から晩まで走り続けて2日目の夕方にへとへとになりながら、ようやく着いたのを覚えている。
それゆえに私の中で鳥海山はどえらい遠さの場所という認識の場所だった。しかし「Ninja 1000SX」で高速道路を使えば、2日目の午前中には悠々と山の上にいる。
日本海を見下ろす爽快な景色は、18年前と変わらず、足を延ばしてよかったと思えるものだった。
あとは帰るだけなのだが、もう少し欲張って、麓の遊佐の町へ降り、行ってみたかったスポットをいくつか巡った。
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「Ninja 1000SX」での旅を終えて
宮城県で高速道路を降り、山形県を経て秋田県にまで入ることができたこの旅は、私の中で週末ツーリングの考え方が変わるものだった。
もし「Ninja 1000SX」を愛車にしたら休日の過ごし方は、思いっきりアクティブになるだろう。
今回は東北方面を目指したが、信州経由の能登半島も同じような距離だ。南紀くらいまでズバッと西へ向かうのもいい。そして長い休暇が取れれば長距離フェリーを使わずに北海道や四国、九州などの長旅も楽しめる。
「Ninja 1000SX」は、バイクライフがマンネリ化してきたり、遠出が億劫に感じてきたなんていう人にはぴったりだ。スポーティでありながら扱いやすくもある特性は、リターンライダーにも向いているはず。
日本中を駆け巡りたいと願う、旅を愛するライダーの夢をかなえてくれる一台といって間違いない。
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カワサキは2023年12月31日まで「Ninja 1000SX」「Ninja H2 SX」シリーズの新車購入サポートキャンペーンを実施中だ。
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カワサキプラザ アパレルの衣装紹介
カワサキは現在アパレル製品の開発にも力を注いでいる。オリジナル製品とともにコラボアイテムも拡充中。全国のカワサキプラザで購入できるのはもちろん、ものによってはECサイトのKawasaki ONLINE SHOPでも購入可能だ。
文:西野鉄兵/写真:関野 温/協力:カワサキモータースジャパン