文：太田安治
ホンダ「NS400R」太田安治の絶版車回想録
Honda NS400R
1985年
総排気量：387cc
エンジン形式：水冷2スト ピストンリードバルブ90度V型3気筒
シート高：780mm
乾燥重量：163kg
当時価格：62万9000円
時代の波に逆行した2スト400レプリカ
ホンダRSC（現在のHRC）の技術を結集して開発されたのが、楕円ピストンに1気筒あたり8本のバルブと2本のコンロッドを備えた、4ストV型4気筒エンジン搭載のNR500。1980年代前半の世界GP500ccクラスで圧倒的に強かったヤマハ、スズキの2スト勢に4ストで勝つべく生まれた超ハイメカニズムだけど結果的には歯が立たず、1982年に2ストV型3気筒エンジンのNS500にスイッチして翌1983年にチャンピオンを獲得した。
このNS500のイメージを営業戦略に利用したのがMVX250Fだけど、平行してスケールアップ版も作られていた。友人のテストライダーの話だと、カタログも販売店資料も完成していて、工場では生産ラインも組まれていたらしい。一転してお蔵入りになったのは、MVX250Fが市場で酷評されてネガティブイメージが付いているのに、同じ構成の兄貴分を出しても…だろうね。
ならば、と車体構成を完全に変更してレーサーレプリカらしいルックスに仕上げたのがNS400R。カタログモデルにはフレディ・スペンサーを起用して、カラーリングもワークスカラーとロスマンズカラーを用意。400cc（正確には387cc）という排気量で中型限定免許のレプリカファンが飛びつく、と思いきや、セールスはそこそこという結果に。
Honda NS400R
車両価格がNS250Rより9万円高く、車重が約20kg重い、車検がある、そしてイメージリーダーの世界GPレーサーが3気筒のNS500から4気筒のNSR500に移行する流れも逆風になったんだろうね。付け加えておくとヤマハRZV500RやスズキRG400／500Γといった、よりGPレーサーイメージの濃いモデルの人気も限定的だったから、NSだけが不人気だったということではない。
人気がなければ雑誌で特集されることも少ない。なので僕もサーキットと長距離ツーリングで2回乗っただけ。エンジンはMVXよりはるかに力強くて、見た目の割に重い車体を軽々と発進させて街乗りも楽。そして8000回転あたりからスロットルをガバ開けすれば、フロントタイヤがグワッ！ 軽く浮き上がる。
『バリバリ伝説』の中に、主人公の巨摩郡（こま・ぐん）がNS400Rで公道レースに出場して、S字コーナーをフロントを浮かせたまま切り返す描写があったけど、調子に乗ってマネをしてみたらフロントタイヤ接地後にどえらい勢いでハンドルが振られ続けて実に怖かった。やっぱり巨摩郡のテクニックはスゴイ！（笑）
NS500は前1気筒、後2気筒のV型3気筒だけど、MVX250FとNS400Rは整備性の関係もあって前2気筒、後1気筒。MVXで問題視された後シリンダーの焼き付きは対策されて、トラブルの少ない丈夫なエンジンと言われていた。でも燃費は悪かったなあ。19Lの大容量タンクなのに航続距離は200kmちょい。エンジンオイルの消費量も多くて、お財布には厳しいオートバイでした。
かつての月刊『オートバイ』の誌面で振り返る「NS400R」
発売当時の月刊『オートバイ』の誌面。
59PSを発生する2ストエンジンのパワーはダテではない。アクセルだけで軽々とフロントアップできた。
カラーバリエーションはロスマンズとトリコロールの2色。ロスマンズカラーがダントツの人気だったようだ。
SP忠男の鈴木忠男さんも当時はテストライダーとして月刊『オートバイ』で活躍していた。
NS400Rの最大のライバルは2ストエンジンを搭載したスズキRG400Γ。同時期にニューモデルとして登場したGPZ400Rも大人気だった。
文：太田安治
