好天の筑波で観客動員レコード!
この週末は茨城県・筑波サーキットで「TASTE OF TSUKUBA KAGURADUKI STAGE」が行なわれました。テイスト of ツクバ/神楽月ステージですね。年に2度の「絶版車まつり・秋の陣」です。
11月4~5日は関東地方がまるまる高気圧に覆われて、朝晩の冷え込みはあったものの、日中は汗ばむくらいのいい天気。2days制で行なわれるテイスト、土曜は通常、比較的お客さん少なめなんですが、土曜から大観衆で、日曜はもっと! 筑波の方に伺ったら、日曜の前売りは完売、当日券も含めて、観客動員の記録を更新したそうです! 実数、後日また調べておきますね。
(※追記 この大会の観客動員は約1万100人。テイスト念願の1万人オーバーで、これまでの最高記録は2018年11月と2022年11月の9100人だったそうです!)
テイストは小さいのから大きいの、2ストから4スト、主に絶版モデルや旧車で行なわれるロードレースで、2日間合わせて12クラスものレースが行なわれます。ちょっとおさらいすると
GREAT HEROS
レースというよりエキシビジョン。80年代、いちばんグランプリレースが人気だった時代のレプリカマシンたちが出場。2年に1度の開催で、この23年テイスト秋の陣で開催されました。今回のエントラントはケニー・ロバーツを筆頭に、フランコ・ウンチーニ、フレディ・スペンサー、ワイン・ガードナーにエディ・ローソン、平忠彦に原田哲也、阿部典史や水谷勝、北野晶夫というファンタジー。
ストリートファイター
「ネオクラシック」って呼ばれるような現行モデルの、認定車両で行なわれるレース。KATANAやZ900RS、MT-09、Z H2なんかが参加できます。
D.O.B.A.R.-1/2
1980年までに製造された、いわゆる旧車クラス。1は810cc以下でZ650やXS1、2は460cc以下でCB350・400FOURやW1が出場できる。
ZERO-1/2/3/4
1980代までに製造された鉄フレーム車。2スト、4ストどちらもOKで、年式や排気量でクラス分けがされている。ZERO1は750ニンジャやFZ750、500Γが、ZERO2はNSR250RやRZ250R、CBX400FやZEHYRが出場OK。ZERO3はGSX-R750やFZR750、RC30やドゥカティ851が、そしてZERO4はZX-4やCB400SF、NSR250RやTZR250が出場できる。
F-ZERO
鉄フレームの750cc以上のモデル。年式の制限はなく、水冷エンジンもOK。CB1300SFからZ1000、FZS1000やGSF1200、CB1000Rも900ニンジャも出られる。
MONSTER
テイストの象徴的なクラス。82年までに生産された空冷4スト車で、鉄フレーム、空冷エンジン、2本サスのマシンが出場できる。Z1からZ2、FXにZ1Rをはじめ、CBやカタナが筑波サーキットを1分01秒台でレースする、信じられない、モノスゴイ、そして今ではちょっともったいないクラス。
MONSTER エボリューション/スーパーMONSTER エボリューション
モンスターの改造制限を広げたクラス。フォークの大径化、キャブレターのリプレイス、ホイール径も変更OK。スーパー~となるとオリジナルフレームOKになる。
ハーキュリーズ
鉄フレームであれば何でも出られるクラスで、ライダーも国際ライセンスOK。GSX1300Rのエンジンをオリジナル鉄フレームに搭載した、加賀山就臣の「鐵隼」(=テツブサ)とスーパーチャージャーH2Rが戦うクラス。
かつてはこの10クラス以上が1Day制で行なわれていて、ひとつ赤旗が出たらまるまるタイムスケジュールが押してしまう忙しいレースだったんですが、2Days制になって、レースインターバルもきちんと取れて、余裕ある進行になりました。なにしろ、オフィシャルの皆さんやポストのスタッフのみんながきちんと休憩取れて慌てないでレース進行できるようになったのが大きかった。こういうスタッフの皆さんのおかげでレースが安全に進行されている、ってこと忘れちゃいけないからね。
2Days制になって、土曜と日曜に超人気クラスが分けられて、土曜にテイストの象徴「モンスター」クラスが、日曜に何でもアリ「ハーキュリーズ」が開催されるようになりました。古くからのファンはZ2やカタナが車体をぶるぶるふるわせてバトルするモンスターが大好き、新しいファンはなんでもアリのハーキュリーズを楽しみにしてる――そんな最近のテイストなんです。
でも、この2日間でイチバン盛り上がったのは、やはりハーキュリーズ。23年春の大会「SATSUKI STAGE」では、新庄ZRXが加賀山ハヤブサを抑え込んで勝ったんですよね。加賀山ユッキーが事前テストで転倒、炎上したハヤブサをレースまでにビシッと修復して臨んだ決勝レースで、朝の予選でまた転倒してつぎはぎカウルでトップ争いするという、ドラマチックなレースでした。
ハーキュリーズの今の大人気は、この加賀山ユッキーの努力があると思います。全日本ロードレースを走っているライダーがテイストに出る、ってだけでも大事件でお客さんを呼べるのに、カタナで参戦している時にはレースデーにカタナファンを集めてイベントをやったり、参戦マシンをハヤブサにスイッチすると、今度はハヤブサオーナーさんたちを巻き込んでイベントにしちゃう。
これ、レース出場と同時進行でやってるファンサですからね、それがすごい。もちろん、当日だけじゃなくて、イベントの告知をレース前からスタートして、マシン準備までSNSで公開して、レースデーにはレースに出るだけでも忙しいのに、同時進行で筑波を走り回ってイベント準備して、レース後にパレードランまでしちゃう。SNS時代の有効利用ですが、これチームカガヤマのスタッフじゃなくて、ほとんと加賀山本人が自分で仕掛けて、やって、結果を出してる。これがすごいです。
ユッキーに引っ張られるように、ハーキュリーズのエントラントもどんどん自分でプロモーションするようになって、今の大人気があるんだと思います。願わくば、モンスターのライダーももっと!他クラスのエントラントももっとこういう活動したらいいと思うんです。「好きでレースやってるんだからそんなのやりたくないよ」なんて時代じゃないですからね。
そんな経緯を経ての、2023年テイスト秋の陣。やっぱり戦前からハーキュリーズクラスが大注目されていましたね。前回優勝の新庄ZRXに、リベンジを狙う加賀山ハヤブサ、春の陣で初表彰台を獲った行方油冷カタナ、2レースぶり参戦の光元スーパーチャージャーH2R、それに今回は、1シーズン世界耐久を戦った渡辺一樹が、23年5月にこの世を去った岩崎 朗のゼッケン70番のZ1000で参戦しました!
日曜日朝に行なわれた公式予選では、その渡辺Z1000がポールポジションを奪取。渡辺は、もちろんテイスト初参戦。事前テストでは大転倒を喫してしまいましたが、きっちり本選に合わせてきました。これは渡辺のスキルもですが、テイストのトップチームのひとつ、パワービルダーの力もあると思います。タイムは0分57秒390! 文句なしに絶対レコードの更新ですが、渡辺は前年の全日本ロードレースランキング2位ということもあって、出場はOKでも賞典外のため、レコードも記録には残りません。予選2位の加賀山ハヤブサが57秒731で、これが新コースレコードになりました。
「賞典外とはいえ一樹のタイムがねぇ…。7秒3って、もうこの先は破られないタイムじゃない?」という加賀山の言葉がスゴさを物語っています。ユッキーも悔しいでしょうねぇ(笑)、この先のハーキュリーズは、この非公式レコード「57秒390」が絶対ターゲットタイムになるのでしょう。
決勝レースのスタートでは、スタートの名手・ユッキーのホールショットで始まります。オープニングラップの第1ヘアピンでは、新庄が鬼ブレーキで加賀山のインをついてトップに浮上。これ、春の大会でも見られたシーンですね。この時ちょうどわたし、このヘアピンのイン側にいたんですが、新庄ZRXがブレーキングでカタカタダダダダダ!ってコントロール不能になっても、ちょっと脱出で膨らみながら立ち上がって行く新庄の姿に、ヘアピン観客席の大歓声、スゴかった! でも、抜かれた加賀山もココで新庄が来ると読んでましたね、1台分インを開けて落ち着いてさばいていました。
「いつもみたいに来るな、って読んでたよ」(加賀山)
新庄、加賀山、光元、行方、渡辺、植垣創平ZRXの順。ややスタートで下がった渡辺の2周目のタイムは、加賀山の予選タイムさえ凌ぐものでした!
「スタート練習してなくて、決勝が初スタートだったんです。ちょっと失敗しちゃって、後ろから1台ずつ抜いたけど、H2Rとかハヤブサ、巨体だしライン取りが上手いからすーごい抜きにくいんですよ。でもマシンは、すごい楽しい! 車体の剛性だってバランスだってすごくイイ」(渡辺)
4周目のバックストレッチから最終コーナーの進入で加賀山ハヤブサが新庄ZRXをパス! しかし、このころ光元H2Rをかわした渡辺が新庄までもパスして2番手へ! 巨体を震わせてオニ加速するH2R、大馬力でコーナーも速い加賀山ハヤブサに、ハンドリング自由自在の渡辺Z1000が襲いかかります。おそらく絶対的にこの4台中最軽量の渡辺Z1000、完全に動きがレーシングマシンです!
7周目には1コーナーブレーキングで渡辺が加賀山をパス! このブレーキングがすごかった! 完全にマシンがナナメになって加賀山を抜いていきました! 加賀山もクロスラインで抜き返しますが、次周8周目にはS字進入でインを走る加賀山のインのイン(!)をついて渡辺が並びかけると、1ヘアピンで渡辺がトップに浮上! この時のヘアピン大歓声もスゴかった!
これで渡辺トップ、2番手に加賀山、その加賀山にヘアピン脱出で軽く追突(ハヤブサの左テールカウルがガリッと削れてました)した新庄が膨らむ間に光元が3番手!となった瞬間、他車両のマシントラブルで最終コーナーからメインストレートがオイルで真っ白! レースは赤旗中断ののちに5周残りで再開されることになりました。いやぁスゴい! こんな激闘、テイストで見たことない! これはもう、全日本JSBでも、すっかり抜き合いの少なくなったMotoGPより激しく面白かった!
レース再開後は、またしても加賀山がホールショット! 本当に加賀山はイギリスSBK、WSBK、全日本ロードレース時代からスタートの名手です! 新庄が続いて植垣、渡辺、光元、宮島伸也ZRXが続きます。オープニングラップのうちに加賀山→渡辺→新庄→光元→植垣→行方の順。レース2では、渡辺が加賀山に迫ることになります。新庄、ちょっと息切れしちゃったかな。
加賀山と渡辺の2台がやや抜け出してのレースは、いつ渡辺が加賀山を捕まえるか、が焦点。インフィールドで渡辺がつっついて、2本のストレートで加賀山が引き離す、の繰り返し。インからアウトから仕掛ける渡辺、巨体を震わせながら引き離す加賀山の繰り返しは、とうとう最終ラップの第2ヘアピンで渡辺が加賀山のインにズバリ! でも停まり切れなくて膨らんじゃう間に加賀山が逃げ切って優勝! 加賀山ハヤブサ、これが初優勝! 2位は渡辺、でも賞典外だから、2位が光元、3位に新庄、4番手が植垣、5番手に行方カタナ、6位に松田光市GPZ1000RXが入りました。
「今日めちゃめちゃうれしい! 前々回は光元くんのスーパーチャージャーにやられて、仕返ししたくて頑張ってきたとこがあって。で前回は新庄にハヤブサ燃やしたことヤキトリ呼ばわりされて、それも仕返しできました!」(加賀山)
「加賀山さん、レース1も2も、短い周回めちゃくちゃ集中しててスキがなくて! 最後ムリヤリ飛び込んだけど停まり切れなくて。でも楽しかった!見てたお客さんもでしょー?」(渡辺)
「スタートからもうガンガン行っちゃうから、もうレースの記憶がないもん。気が付いたら終わってたくらい。ウィニングランのバーンンアウトで何があったかはナイショで(笑)」(光元)
「レース1でもう満足してたんですけど、加賀山さんにカンタンにリベンジされて、ふたりのトップ争いをすーごい近くで見られて楽しかったです。もうね、カズキも加賀山さんもばんばんブツけてくるんですよ(笑)。それでもちゃんとフェアにできました。楽しかったっす」(新庄)
「(同じZRXの)新庄さんを目標にずっとがんばります。来年の春、見ててください」(植垣)
「若いやつらには負けたくないなぁって思ってたのに、(植垣に)負けちゃって、へこんでます。でも金曜に転んで、でもチームのみんなが修復してくれて表彰台に立てたからイイかな」(行方)
「おじさん頑張ったよ。少し前なら(1~3位の位置の)表彰台に上がれてたんだけどねぇ。でも若い人たちが出てきてくれて、(ハーキュリーズの全身の)Fゼロエクストラ時代からずーっと出てて、こんなにお客さんも盛り上がってくれて、感無量ですね。(パワービルダーの)山根さんもケガから復帰してくれればね。でも負けたくないから、もっと練習してまたがんばります」(松田)
いやぁ、凄いレースでした。スゴいし、クリーンでフェア。ホントに抜き合いではガツガツぶつかってるんだけど、これはお互いの信頼関係があるからこそ。なにしろみんな楽しそうにバトルしてる! 赤旗中断の時なんて、ライダーはピットロードに留まって雑談してるんだから(笑)。
「おまえ当たったろ、さっき!」「弾き飛ばされたんですよぅ」「目の前でバトルすげぇの」「みんなガチャガチャしてて前に出られないんだよ」って。なーんか、70年代のWGPで、こんなシーンがよくありましたよねぇ。
表彰台では、賞典外の渡辺を加賀山が呼び込んで、いっしょに壇上に上がってシャンパンぶっかけるシーンがあったりして。
マシンもライダーも魅力的すぎるぞ! そんなテイストofツクバ、そんなハーキュリーズなのです。
写真・文責/中村浩史