大きな事故をキッカケに広がるのは世界共通
ーー今回はドライブレコーダーの世界的ブランドである『Mio』について、そしてMioの開発・製造会社であるMiTAC Digital Technology社について、日本の二輪ユーザーにより深く知ってもらおうという狙いでお話を伺えればと思っています。まず最初に『Mio』のスタートはどのような形だったのでしょうか。
「一般ユーザー向けのドライブレコーダーを、台湾で発売したところからスタートしました。
ブランドの成長は2つのベクトルがあって、1つは発売地域を増やすこと。もうひとつが、もともとは家電量販店的なショップだけで販売していたものを、eコマースや、二輪や四輪の用品店など販売チャネルを広げていくことでした。
発売地域については、先ほどもお伝えしたように最初は台湾の一般ユーザー向けのみでしたが、そこから徐々にロシアやヨーロッパ、東南アジア、アメリカなどにどんどん広がっていった経緯があります。
具体的な名前は出せないのですけれども、さまざまなカーメーカーのディーラーオプションに採用されたり、純正オプションのドライブレコーダーとして組み込まれたりという形で、どんどんビジネスが成長していきました」
ーーMiTAC Digital Technology社ドライブレコーダーの製造を始めた頃、ライバルはいなかったのでしょうか?
「いなかったですね。ドライブレコーダーそのものに対する理解も少なかったです。正直、今でもまだ『なんで付けなきゃいけないの?』という人もいるのですけれど、それでもやはりニュースなどでドライブレコーダーの認知度が上がったり、実際に事故に遭った人が過失割合についてのやり取りで面倒な思いをした人が増えてきたことで、徐々に理解度が高まってきている実感はありますね。とはいえ、まだまだ完璧ではないと思いますが」
ーー日本でのドライブレコーダーの認知度は、痛ましい事故ですが“東名高速道路あおり事故”のニュースで一気に高まったイメージがあります。台湾でも同様に、ドライブレコーダーが広まるきっかけとなる出来事がありましたか?
「台湾も日本も同じような傾向があって、販売当初は、おかしな運転をしているクルマやバイクの映像をネットにあげる、というところから徐々にドライブレコーダーの存在が知られていくようになりました。
みなさんもご覧になったことがあると思うのですが、2015年に台湾の高速道路をかすめるように飛行機が墜落する様子をドライブレコーダーが録画した映像がバッと広まったのですけど、やはりああいう大きな事故で急激に認知度が上がります。ロシアでしたら、2013年の巨大隕石が落下したことを覚えてますか? あの時も隕石の爆発や落下の様子がドライブレコーダーに収められていて、YouTubeなどを通して一気に世界中に広まったんですね。
なので国によって事情は違うのですけど、何か大きな事故や事件によってドライブレコーダーの認知度が一気に跳ねるというのは、各国共通のようです」
ーーそれは興味深いお話ですね。
「あとは、日本でもドラレコ特約のある自動車保険がありますけど、たとえばロシアの場合、事故が起きた時に警察が1時間経っても現地に来ないみたいなことが当たり前で、以前は現場検証までにかなり時間がかかって大変だったと聞きます。ですが、現在はドラレコの動画さえしっかり録ってあれば、一度自宅に帰って、後から保険の請求などができるそうです。そういうお国柄による普及の違いはあると思います」
台湾やオーストラリアでは、インフラ事業を担当するマイタック社
ーーでは、Mioの製造・開発しているMiTAC Digital Technology社についてもお聞きしたいのですが、MiTAC Digital Technology社ではドライブレコーダーなどの自動車エレクトロニクスの他に、どのような製品を手掛けているのかを教えてください。
「大きく分けると、我が社が取り扱っている商品・サービスは、4つのセグメントに分かれます。まず1つ目がスマートモビリティで、これはMioのドライブレコーダーなどをはじめとする、BtoC分野の商品です。
そしてBtoB向けの商品とサービスとしては、スマートIoT(Internet of Things)、スマートインダストリーズ、スマートテレマティクスを手掛けています。
それぞれ具体的に説明すると、スマートテレマティクスは通信システムを使った車両に関する商品とサービスで、たとえば配送トラックの位置情報やルートの計画・管理などを一元管理して即時に共有するシステムなどを提供しています。
スマートインダストリーズとしては、医療用タブレットや倉庫の在庫管理用タブレットなど、さまざまな産業用タブレットを作っており、これらの商品は台湾だけでなく、世界中の国々で使われています。
そしてスマートIoTでは、トヨタの『ウーブン・シティ』(トヨタが建設中のスマートシティの実証実験の街)ではないですが、街灯すべてにセンサーやカメラを埋め込み、IoTで繋げることで様々な情報を収集、管理する屋外照明器具ソリューションを提供しています。
また、MiTACホールディングスにはサーバー会社もあるので、こうした製品やサービスをすべて繋ぐことができる、クラウドサービスの提供も行なっているんですよ」
ーー実際にクラウドサービスも含めて利用することで、MiTAC Digital Technology社の多様なスマート製品やサービスをすべて連動させている国や地域はあるのでしょうか。
「台湾とオーストラリアではもう始まっていて、具体的な国名は言えませんが、ヨーロッパでもパイロット版の運用が始まっています。
ちょっと不思議なのが、日本の企業は自前のクラウドを使いたがる傾向があるんです。じつは日本でもさまざまな企業に製品やサービスの提供はしているのですが、クラウドの部分が抜けているので、全サービスを連動させるには至っていません。
クラウドサービスも一緒に利用することの一番のメリットは、OTA(Over The Air)技術が使えることです。昔のiPhoneって、iTunesに繋がないとアップデートできなかったですよね。でも今では、Wi-Fi下でもできるようになった。それと同様に、ソフトウエアのアップデートが入った時も、OTAを使って簡単にアップデートできます。あと、たとえば駐車監視モードの時にぶつけられたなど、何か起こった時に即通報するといったことができます。要は、スマート家電でスマートホーム化された家と同じようなことが、クラウドサービスを使えばクルマでもできるわけですね」
ーーなるほど。日本の企業に導入されているMiTAC Digital Technology社製品は、他にはどんなものがあるのでしょうか。
「BtoB分野なりますが、たとえば日本の某レストランチェーンで使われている10インチの注文用タブレットがそうです。衛生面に配慮した抗菌仕様になっていたり、レストラン向けのチューニングが施されています。あとはタクシーの後部座席設置型のタブレットですとか、フードデリバリー用の受注用タブレットですとか、さまざまな業務向けの専門タブレットを提供しているんですよ。さすがにここで企業名を明かすことはできませんが(笑)」
ーー私達の生活の中で、知らないうちにMiTAC Digital Technology社の製品と触れている可能性は高そうですね(笑)。ではここから製品開発についてもお聞きしたいのですが、たとえばバイク専用ドライブレコーダー「Mio MiVue M820WD」の場合、開発に関わった人数や期間はどのくらいだったのですか?
「まず最初に、どのような商品にすべきかコンセプトを決めるのですが、そこに至るまでにプロダクトマネージャーなど開発部門をはじめ、マーケティング、セールスなど、たくさんの部門の人間の意見を揉んで、さまざまな方面にインタビューしてと、半年ぐらい時間をかけます。実際に開発に入ると、製品化までにだいたい9ヵ月から12ヵ月くらいかかりますが、関わった総人数となると多すぎて、正直わからないですね。
クルマのドライブレコーダーに比べて、バイク専用となると特に難しい点が3つあるんです。
1つは防水性。クルマの場合、防水は考えなくてもいいのですが、バイク用になったら途端に厳しい防水性能が必要となります。
2つ目はサイズの問題。バイクには限られたスペースしかないので、いかに搭載しやすくするか、サイズを小さくするのも含めて、配線の太さや長さなども含めて検討するのが大変なんです。
3つ目がバイク特有の問題なんですが、バイクの場合、エンジンをスタートした時の瞬間的に電圧が跳ね上がるサージが大きいですよね。なのでプラグ近くにかなりノイズが出る。フロントカメラはそういう箇所を通すことになるので、ノイズ対策にはかなり苦労したようです」
世界基準で見ても、日本のドライブレコーダー市場は大きい!?
ーーM820WDは、世界中のどこよりも早く日本で発売されたと聞きます。世界レベルで考えた時に、日本のドラレコ市場がそこまで大きいと思えないのですが、最初に日本に投入した狙いを教えてください。
「実は日本のドライブレコーダー市場って、みなさんが想像しているより大きいんですよ。なぜかというと、アメリカやヨーロッパでのドラレコ装着率はかなり低くて、日本より全然低いんです。四輪用でもそうですから、バイク用に至ってはさらに低くなります。ドライブレコーダーの必要性に対する意識は、クルマにしろ、バイクにしろアジアの方がヨーロッパに先んじている。日本では、四輪だと新車のドラレコ装着率はすでに70〜75%くらいになってるのではないでしょうか。
それに、台湾はスクーターに乗る人の数はめちゃくちゃ多いですが、大型バイクユーザーの数で比べると、日本の方が圧倒的に多い。ドラレコ装着率の高さと、大型バイクユーザーの数で考えると、我が社にとって日本は非常に重要なマーケットですし、だからこそM820WDを日本で最初にリリースすることにしたのです」
ーー本国台湾のバイクユーザーの数、そしてドラレコ装着率はどのくらいなのでしょうか。
「台湾の人口が約2300万人なのに対して、国内の保有スクーター数は約3000万台。スクーターの年間販売台数は約80万台にもなります。つまりバイクユーザーの数でいうと、おそらく一家に一台は必ずあるし、ほぼ全員がバイクに乗った経験があると言える(笑)。ですが、二輪ユーザーの中でスクーターの割合が圧倒的に多く、スクーターのドラレコ普及率はかなり苦戦しているのが正直なところです。スクーターは日々の通勤や通学で使う人が多いので、重要度はわかっていても、車両価格とドラレコ価格を比べるとどうしても購入のハードルが高く感じるようです。
ただ、排気量の大きいいわゆる“バイク”ユーザーで言うと、正確な数字こそ掴めていませんが、かなり装着率が増えている実感があります。もちろん、実際にドラレコの開発に携わってる人間はライダーが多いですし、みんな装着していますよ」
ーー日本人の場合、ドラレコを事故対策に装着する人も多いのですが、それ以外にも、思い出として乗ってる時の映像を撮りたい、というニーズがあるように思います。そういうユーザーに向けて、記録としての映像ではなく、思い出として残す映像のために、臨場感や色の鮮やかさといった美しさのクオリティはどこまで意識されているのでしょうか。
「そこはまさに仰るとおりで、我々としても、もっと乗る楽しみを高める方向でのドラレコ性能について考えています。ニューモデルのM820WDにタイムラプス機能を加えたのもそうですし、さらに次のモデルでは、より楽しみを追求するような仕掛けも考えていますよ。ただしドライブレコーダーとして、事故の証拠となる映像を記録するという、最も重要なポイントは絶対に外さない方向性でですが」
ーーwebオートバイやオートバイ誌では、これまで国内で販売しているメジャーなドライブレコーダーはほぼ全部テストしていているのですが、現在のドライブレコーダーは前後にカメラがあって、レコーダーがあって、GPSアンテナ兼スイッチがある、というシステムが採用されてますよね。それは今後変わる可能性はあるのでしょうか。前後カメラをワイヤレスにして、直接レコーダーに繋げるようになると配線の手間が減るとか、ユーザーの立場としては考えたりするんですね。レコーダーをスマホで代用できないかなとか、より簡単に取り付けられて、コストも下げられるようなアイデアがあればお聞きしたいのですが。
「今のお話でいうと、レコーダー本体の代わりをスマホがというのは全く考えていなかったのですが、前後カメラのワイヤレス化は当然考えています。これはバイク用に限った話ではなくて、たとえばアメリカのトレーラーとか、ものすごく車体が長いですよね。 ワイヤーが何mあれば足りるのかという話になりますし、逆に本体以外を外した時に、カメラやワイヤーをどこに回収するんだって問題も出てくる。なので常にワイヤレス化について頭にはあるんです。ただ、やはり電源の問題や転送速度、転送の信頼性といった問題がついて回るので、今のところはまだ実現できていないんです。もちろん今後もっと簡単にインストールできるように、常に新しい技術については考えています」
ーーでは最後に、Mioの新しいドライブレコーダーM820WDについて、社長から日本のライダーに向けてのPRをお願いします。
「ドライブレコーダー選びに悩んでいる方は、迷わずにMioを買っておけば大丈夫!」とお伝えしたいですね(笑)。
新製品のM820WDには駐車監視機能やタイムラプス機能といった、魅力的な新機能が加わっていますし、Wi-Fiの転送速度が約2倍近くになっていますので、映像を見返したい時などに、その速さを体感できるはずです。3年保証を付けたのも、品質と信頼性について絶対的な自信があるからです。Mioの商品はどんどん進化していますので、どのドラレコを買おうかとお悩みでしたら、ぜひMioを試してみてください」
撮影/南孝幸 インタビューまとめ/福田 稔(webオートバイ総合プロデューサー)