以下、文:太田安治/写真:南 孝幸、webオートバイ編集部
メーカーが3年での交換を呼びかける理由
ライダーなら必ず着用する乗車用ヘルメットですが、使用期限(寿命)を気にしたことはありますか?
日本のヘルメットメーカーのwebサイトを見ると、必ずどこかに「3年を目処に交換してください」という文言が記載されています。
「なんで?」って思いますよね。国産フルフェイスヘルメットなら4万円以上が当たり前。システムヘルメットでは10万円近い製品もあります。大事に使っていて傷一つないヘルメットでも、3年で買い換える必要があるのでしょうか?
実は各メーカーが「3年」と謳っているのは、消費者生活用製品安全法で決められている「賠償措置」が関係しているのです。
ヘルメットの帽体には、『PSC』と『SG』の文字を図案化した小さなステッカーが貼られています。『PSC』は「Product Safety Consumer」の略で、国(経済産業省)が定めた安全基準適合を示し、『SG』は「Safety Goods」の略で、民間組織である製品安全協会認定品を示しています。
公道走行時に着用するヘルメットにはPSCマークが必須で、販売も禁じられています。web販売などで一部の海外製ヘルメットが「装飾用」として売られている理由はここにあります。
一方、SGマークは付いていなくても法的な問題はありません。ただし、SGマークが付いているヘルメットに欠陥があり、この欠陥と事故に因果関係のある人的損害が生じた場合には最大1億円の賠償措置を受けることができます。SGマークの有効期限は購入後3年間(製造後ではない)です。これが3年での買い換えが推奨される大きな根拠です。
ヘルメットの健康寿命と交換すべきタイミング
日本製ヘルメットは世界各国に輸出されていますが、北米市場やヨーロッパ市場向けのwebサイトにはヘルメットの使用期限が「購入後5年、製造後7年」と記載されています。この理由として、アライの北米向けサイトには「発泡ポリスチレン製ライナー(緩衝材)の衝撃吸収能力は時間経過とともに徐々に失われ、製造7年後にはアライの安全基準を下回る」といった内容の説明があります。
つまり「3年」は性能を保証する期間ではなく、日本国内の制度に沿わせたもの。性能的には少なくとも製造後7年間は心配することはないのです。さらに言えば7年経過後から急激に保護性能が失われるわけではないので、「健康寿命は製造後7年間」と捉えておけばいいでしょう。
ただしこれは国内外の一流ブランド品の場合です。ホームセンターやweb通販で売られている激安品はシェル(帽体)、ライナー、内装のどれにも安価な素材を使っているものが多く、紫外線や温度変化、湿度による経年劣化が早く進む傾向が見られます。
かつて激安ヘルメットをヘルメットメーカーの試験機にかけて衝撃吸収テストを行ったことがありますが、結果が段違いで愕然どころか恐怖さえ覚えました。試験担当者も「ここまで性能が低いと試験機が壊れてしまう」と心配するほどの差だったのです。
そして転倒によるダメージがあれば躊躇なく交換してください。転倒した際にはヘルメットのシェルと頭の間にあるライナーが潰れることで衝撃を吸収しますが、潰れたライナーは二度と元には戻りません。ヘルメットをバックミラーに被せてはいけないと言われるのもライナーを潰す可能性があるからです。また、ストーブの側、夏場の自動車内や直射日光下といった高温環境下に置くとライナーが膨れて変形することもあります。心当たりのある人は内装を外し、ライナー表面の黒い塗装に白い亀裂が入っていないか、部分的に膨らんでいないかをチェックしてください。ちなみに表面の小傷は保護性能に関係ありません。
僕自身はプライベート用のオープンフェイスモデルを約8年間使ったことがあります。傷付いたシールドと度重なる洗濯でフィット感が低下した内装は何度か交換していたので見た目は新品のようでした。しかしシールドの開閉システム部が消耗してガタが増え、ベンチレーションシャッター部の節度も低下。カゴ代わりに荷物を入れたことが原因なのか、わずかながらライナーの凹みもありました。
こうしたことから普通に使っていて4~6年、長くても7~8年での交換が現実的、というのが僕の見解です。
一流ブランドヘルメットと激安ヘルメットの価格差は大きくても数万円。5万円のヘルメットを7年使ったとしても年間7千円ちょっとです。「高い保護性能と快適なライディング環境を担保する保険代」だと思えば、安いものではないでしょうか。
文:太田安治
太田安治(おおた やすはる)
1957年、東京都生まれ。元ロードレース国際A級ライダーで、全日本ロードレースチーム監督、自動車専門学校講師、オートバイ用品開発などの活動と並行し、45年に渡って月刊『オートバイ』誌をメインにインプレッションや性能テストなどを担当。試乗したオートバイは5000台を超える。現在の愛車はBMW「S 1000 R」ほか。