どうして目の前にこのマシンが…??
目の前にドゥカティ・パニガーレV4R スーパーバイクがある。ワールドスーパーバイクの2年連続チャンピオンマシンであるこのマシン、2023年にワールドチャンピオンを獲ったアルバロ・バウティスタの、あのマシンだ。
なぜ? 日本でワールドスーパーバイクの大会があるわけでもないし、それどころかマシンのまわりに、厳しいドゥカティワークスチームのセキュリティもない。
「われわれチームカガヤマは、2024年の全日本ロードレースのJSB1000クラス、鈴鹿8時間耐久ロードレースに、水野涼をライダーとして参戦します」とは、Team KAGAYAMAの加賀山就臣監督。
そうなのだ、今シーズンの全日本ロードレースに、ドゥカティ・パニガーレV4Rが、それもホンモノのドゥカティコルセ製ワークスマシンが参戦するのだ!!
この物語のスタートは2023年の夏前。加賀山監督が、ドゥカティコルセのボス、パオロ・チャバッティに宛てたメールがきっかけだった。そう、あのMotoGPでのドゥカティのピット奥に陣取っているボス、チャバッティ。そのボスと加賀山は長年の友人関係にあったのだ。
「いまの日本のレースの現状、Team KAGAYAMAの立場、そして僕がこうしたい、こういうレースをしたい、ドゥカティと一緒に仕事がしたいという思いを伝えたんです」
しばらく、2~3か月は返信もなかったし、加賀山もそこに過度な期待は抱いていなかったのだという。けれど、ここから話は急展開。当然のように門外不出、今までドゥカティがどんな有力チームにも託したことがないチャンピオンマシンが、遠く日本に向けて使用OKの許可が出たのだという!
……と、そのあたりは月刊オートバイ4月号(3/1発売)に記します!
不可能だと思われる壁をぽんと超える男
あえてユッキー、と愛称で呼ばせてもらうけれど、ユッキーはいつも、いくつもの壁をポンと飛び越えてみせる。
日本人で初めてイギリス・スーパーバイクにフル参戦を果たしたと思ったら、再起不能と呼ばれた瀕死の重傷も乗り越えてみせたし、次に初挑戦のワールドスーパーバイクで開幕戦優勝という離れ業をやってのけたと思ったら、日本に帰ってきてスポット参戦したレースで優勝をかっさらい、横浜スタジアムにGSX-R1000で登場、プロ野球公式戦で始球式も努めたし、横浜元町ショッピングストリートのパレードにJSBマシンを持ち込んでパレードもしたし、箱根ターンパイクを封鎖してレーシングマシンを走らせるイベントまで開催した。
いつも驚かされることばっかり、だからレースファンはみんなユッキーから目が離せない。そして今度は、とうとうドゥカティから門外不出のワークスマシンを引っ張り出したし、このチーム体制発表会を開催したのは、東京・港区の在日イタリア大使館! 「!」マークをいくつつけたって足りやしない。
「ずっと優勝できない、チャンピオンにもなれないレースを続けてきて、この先どうしようか、って加賀山さんに相談したんです。そうしたら、実はこんな計画を進めてる、って聞かされて『え?』って。チームのだいたいの内容、体制が決まりそうだ、って言われたら、そんな話、乗りますよね。イギリス・スーパーバイクに出ていた2シーズン、それに2023年に代役参戦で出たワールドスーパーバイクで、パニガーレの、バウティスタのマシンのスゴさは肌身に染みて知っています。そんなマシンに乗れるんだ、って楽しみでしかないんです」とは、ライダーに指名された水野涼。
そう、ユッキーは、ホンダ純正培養だと思われていた、ホンダのライダーである水野の獲得にも成功したのだ。これも、難しそうなハードルをぽんと超えたひとつなのだ。
「いろんな人の助けがあって、勝てるパッケージのマシンを手に入れた。僕が見込んだ、速いライダーも来てくれた。あとは、そのマシンとライダーをきちんと走らせるという、チームの力量が問われることになります。やってやりますよ。いま、日本のレースはハッキリ言って元気がない。盛り上がってるかと言えば決してそうじゃない。僕はそれがいやなんです。だからTeam KAGAYAMAがイタリアのマシンを持ってきて、ポンと勝ちまくってやろうと思う。そうしたら日本のメーカーだって反撃して来てくれるでしょう。僕はそれを待ってる。鎖国している日本に開国を迫る黒船になります」
開幕戦・鈴鹿2&4まで、残りわずか20日! 3月9~10日、鈴鹿サーキットで歴史の証人になろう!
写真・文責/中村浩史