昨年とは顔ぶれが大きく違うポジション争い
ドゥカティワークスマシンの日本上陸、鈴鹿8耐2連覇ライダーの新規参入、さらに有力ライダーの移籍や新チーム結成など、例年以上に話題豊富な2024年の全日本ロードレース。この週末は、開幕戦「NGKスパークプラグ」鈴鹿2&4レースが行なわれました。
近年にはない3月上旬の開幕ということで、心配された天候の問題も、決勝レースが行われた10日(日曜)は晴天に恵まれたものの、それでも気温は低く、冷たい風も吹くコンディションでのレース、いやぁウィークを通して寒かった!
「天候及び路面の状況を鑑み」(公式通知より)キャンセルされた予選の結果、8日(金曜)に行なわれたフリー走行の結果によって決められたスターティンググリッドでは、今シーズンからJSB1000クラスにフル参戦を開始した長島哲太(DUNLOPレーシングチームwith YAHAGI)がポールションを獲得。予選2番手に、ドゥカティ・パニガーレV4Rを初めて全日本ロードレースに持ち込んだ水野涼(DUCATI TEAM KAGAYAMA)、3~4番手に「最強チーム」ヤマハファクトリーレーシングデュオの岡本裕生と中須賀克行が入りました。この顔ぶれだけでも、昨年とは大きく展開が違うのがわかりますね。
日曜日、12時半すぎにスタートした決勝レースは、水野がロケットスタートを決め、記念すべき開幕戦のホールショットを獲得! 2番手に中須賀、3番手に長島がつけるものの、長島はS字入り口で中須賀をかわして2番手に上がると、逆バンクで水野をもパスしてトップに浮上。ウォームアップ性能に優れる、つまり温まりがよくレース序盤にペースを上げられるのが大きな武器といわれるダンロップタイヤを履く長島にとっては、ここから大逃げを打ちたい展開でしょう。
しかし、それを許さないのが水野と中須賀。この3人が4番手以下を引き離しながらオープニングラップの西コースに入ると、2周目のメインストレートで、水野がパニガーレV4Rのストレートスピードを生かしてトップに浮上。鈴鹿サーキットの最終コーナーを立ち上がって、1コーナーまでの短い直線区間で一気に長島CBRをパスした水野パニガーレのスピード、恐るべし!
2周目は水野→長島→中須賀の3台が等間隔でトップ争い。しかし、バックストレッチでは、やはりパニガーレのスピードを武器に、水野が長島と中須賀を引き離します。ここで、長島の「ダンロップタイヤの特性を生かした戦術」は不発ですね。あとは、グリップの持ちがいいブリヂストンタイヤ勢にどう立ち向かうか、を考えていたはずです。
この3台の後ろでは、ヨシムラSERT MOTULからスポット参戦の渥美心、その後方に岡本と、今シーズンからホンダCBR1000RR-Rをライディングする野佐根航汰(AstemoホンダドリームSIR)、その後方に津田拓也(オートレース宇部レーシングチーム)がつける展開となります。
このトップ7で、昨年と同じ体制で走っているのは、ヤマハファクトリーの2人と、GSX-R1000Rを走らせる津田の3人だけです。
トップ集団が3周目に差し掛かるころ、最終コーナーで渡辺一樹(TOHOレーシング)が転倒して赤旗が提示され、そのままレースは一時中断。スタートダッシュを決めた水野、長島、中須賀にとっては残念な赤旗になりました。
ここで場内アナウンスの濱原颯道が「転倒者の救護はもちろんですが、転倒でイエローフラッグからセーフティカー介入で低速走行を強いられてタイヤが冷えてしまうより、赤旗中断してしまった方が選手たちには安心だと思います」とライダーらしい解説。さすが颯道、それだけ厳しい気候、低い路面温度の中でのレースだったのです。
レースは周回数の減算なしで、14周のやりなおし。うー、珍しいですね。レースタイムも伸び、1本のタイヤでの総周回数も増えてしまうのに、ゼロからのリスタートです。この進行では、ウォームアップ性に優れ、ライフが短いといわれるダンロップ勢よりも、ウォームアップ性はダンロップ勢に劣るけれど、ロングライフなブリヂストン勢が有利になりますね。
仕切り直しのスタートでは、今度は岡本が好ダッシュを見せるものの、長島がホールショット! 中須賀が横に並びかけ、3番手に岡本。水野はその後方4番手、以下は渥美、岩田悟(チームATJ)、野佐根といったオーダーでオープニングラップがスタートします。
しかし、ここでもまた水野パニガーレが圧巻のスピードを披露。4番手で入ったバックストレッチで、なんと岡本、長島、中須賀を3台抜きしてトップに浮上! この時のトップスピードは、オープニングラップだっていうのに309km/h! いやいや、スゴいぞこれ!
水野がトップで2周目へ。以下、中須賀、長島、岡本、渥美、やや間をあけて野佐根、岩田、津田。赤旗中断前のように、トップ3台が後方を引き離して……にはなりませんでしたが、水野と中須賀の2台がやや抜け出しつつあるかんじ。3番手ポジションを、長島、岡本、渥美が争う展開から、4周目の最終コーナーで、岡本が長島を逆転、その後は渥美も長島をパスします。その後方、6番手ポジションを津田、野佐根、岩田、そして今シーズンからJSB1000クラスにカムバックしてきた高橋巧(日本郵便ホンダドリームTP)が争っていきます。
今度は水野に引き離されない中須賀。ストレートではスリップストリームになかなか入れないものの、コーナー区間ではベタベタに後方につけ、レースが折り返しを迎えるあたりで、スプーンでついに中須賀が先行! しかし、ここで水野はすぐに抜きに行かず、中須賀の背後へ。レース終盤に向けて、タイヤ温存に入ったのかもしれません。
レースは後半へ。中須賀→水野、少し間をあけて3番手に渥美が浮上! 渥美はヨシムラGSX-Rをライディングする初戦でこの位置です。渥美の後方に岡本、その後方にペースが落ち始めた長島です。
レースは残り5周。中須賀の背後に水野がピタリ、というトップ争いの最中に、このレースで多くの転倒者が出たS字で、なんと3番手を走っていた渥美が転倒。ここでセーフティカーが介入し、3番手に浮上した岡本、4番手の長島ほか、各マシンの間隔が一気に縮まります。
セーフティカー後方で大きくローリングしてタイヤを温めていたのは長島。やはりこういった動きも、ブリヂストン勢とダンロップ勢では意識が違いますね。
そして、レースが残り3周となったところで、セーフティカー介入中に転倒者がでて赤旗が提示され、このままレースは成立。水野を抑え込んだ中須賀が開幕戦優勝、2位に水野、3位に岡本となったレースでした。
レース後に本人が言ったように、中須賀がトップに出たタイミングはいつもより早めでした。水野にトップを走らせておいて、その後ろで走りを見ながらタイヤ温存、レース終盤にパスして逃げ切る、が中須賀の必勝パターンですから、たとえば「ようしラスト3周に前に出よう」と決めていたら、そのまま赤旗で水野に勝ちを持っていかれるところでしたからね。
この開幕戦では、このWebオートバイをはじめ、関係者もファンも、やはり水野や長島といった新勢力に注目が集まる中、正直いって、いつものようなイヤーチェンジを果たした(はずの)中須賀&岡本への注目は低かったように思います。
それでも、やはり中須賀が底力を見せての優勝。12回のチャンピオンを獲る間、伊藤真一、秋吉耕佑、高橋巧、野佐根航汰、清成龍一と難敵が登場するたびに戦いへのモチベーションを高め、楽しそうにレースを戦う中須賀ですが、そうはいかないぞ、という思いを優勝という形に結び付けたレースになりました。
「新しい敵がたくさんあらわれて、それを迎え撃つように自分もきちんと準備しなきゃいけないな、と緊張していたんですが、チームスタッフやファンのみなさんが支えてくれて、今日こうしていいレースができて、自分の走りを信じて勝つことができました」と中須賀。
赤旗中断前の長島とのバトル、再開後の水野とのトップ争いについては「ダンロップを履く長島選手は、アウトラップから速いのはわかっていました。最初はついてくのに必死だったけど、思ったより冷静に走れました。ドゥカティの水野選手とは、テストとかで一緒に走る機会もなかったので、どんな走りをするのかわかんなかったなかで、自分たちの強みを出せました。今回はいつもより早いタイミングで前に出たのがよかった。パニガーレは、ほんの1週間前にシェイクダウンしたはずなのに、もうこんなに速い! チーム加賀山のチーム力恐るべしだし、涼みたいに速いライダーがアッという間に乗りこなしてるのがスゴいと思いました」
ここで、戦いを終わったライダーにちょっと失礼かな、と思ったけど、聞いてみました。
--楽しかった?
「もう……チョー楽しかった!」
ほーらね。中須賀はきっと、勝って兜の緒を締めよ、の心境だろうなぁ。
新しい敵が現れたら、その難敵のいいところを引き出しつつネジ伏せるのが中須賀スタイル。けれど、開発が一気に進んだと思われるダンロップタイヤを手にした長島、驚速パニガーレで向かってくる水野を相手に、厳しい、そして楽しいシーズンになりそうな予感を感じさせる開幕戦でした。
もう……チョー楽しかった!
撮影/小縣清志 中村浩史 文責/中村浩史