絶対王者、もうひとつ引き出しをオープン!

極寒の鈴鹿2&4から1カ月。JSB1000クラス以外のST1000/ST600/J-GP3/JP250クラスにとっては開幕戦となるモビリティリゾートもてぎでの第2戦。4月初旬とはいえ、初夏を思わせる天候に恵まれ、土曜~日曜は20度を超える気温。2日間合計1万3000人のお客さんにおいでいただきました。朝のゲートオープン時間に会場待ちのお客さんがズラリと列をなす風景は、MotoGP日本グランプリを思わせるほどでしたね。

さて今シーズンのレースは、開幕戦で大センセーションを巻き起こした「黒船襲来」DUCATI TEAM KAGAYAMAの水野涼+パニガーレV4Rの日本初優勝が最大の注目の的! 本選に先立って行われた事前テストでは総合トップタイムをマークし、さらにストレートスピードがモノを言うもてぎとあって、木曜のフリー走行から、チームも関係者も、そしてファンも「ひょっとしたら」の期待に満ちていた――そんなもてぎ大会だったのです。

画像: 土曜、レース1のスタート。好スタートのゼッケン1/2/3の後方で、長島がフロントップしてしまっています。

土曜、レース1のスタート。好スタートのゼッケン1/2/3の後方で、長島がフロントップしてしまっています。

土曜の公式予選では、やはり水野と「絶対王者」こと中須賀克行(ヤマハファクトリーレーシング)がタイム更新ラッシュ! 中須賀がコースレコードを更新すると水野も続く。結局、ポールポジションは中須賀、水野は2番手タイムとなりましたが、このもてぎ大会はJSB1000クラスが2レース制のため、レース2のグリッドを決める「セカンドベスト」(各ライダー2番目のタイム)では水野が中須賀を上回り、レース2のポールポジションを獲得! 日本のロードレース最高峰クラスで、外国車がポールポジションを獲るのはおそらく初めて。このままもうひとつの「史上初」、つまり外国車でのレース優勝を期待するムードがもてぎを包んでいたようなかんじでしたね。
しかし、中須賀がポールタイム1分46秒447を決めた時に、ハッキリと場内がザワザワしましたね。予選でこんなにお客さんがざわつくの、なかなか全日本ロードでは見られない光景です!

画像: 公式予選でポールポジションを奪取。しかし水野と分け合いました。

公式予選でポールポジションを奪取。しかし水野と分け合いました。

画像: レース1開始直前に精神集中する水野。勝ちたい気持ちが強かった!

レース1開始直前に精神集中する水野。勝ちたい気持ちが強かった!

「事前テストからいい走行ができて、きょうの予選を使いながらアベレージを上げられました。ベストタイムこそ負けちゃいましたが、レース2でポールが獲れてうれしいです。これが僕の(JSBクラス)初ポールポジションなんです。バイクもうまく仕上げられたので、決勝が楽しみです。予選からお客さんが盛り上がってくれていたがうれしいですね」(水野)
「もともとのコースレコードも僕が持っていて、いつも更新したいなとは思ってたんですが、まさかあそこまでイケるとは。バイクも、デビューから9年経つんだけど、少しずつ少しずつまだ進化しているし、チームがそういう風に仕上げてくれる。レースは厳しくなるとは思うけど、自分の力をしっかり出し切れるようにがんばります」(中須賀)

画像: 逃げる水野、追う中須賀と岡本 このあとレース終盤で中須賀が王者っぷりを発揮します

逃げる水野、追う中須賀と岡本 このあとレース終盤で中須賀が王者っぷりを発揮します

そして土曜に行なわれたレース1では、中須賀のチームメイトである岡本裕生が好スタートを見せるなか、真っ先に1コーナーに飛び込んだのは水野! しかしやや止まり切れなかったか、少しラインを外す間に野左根航汰(AstemoホンダドリームSIR)がインからトップに浮上! すぐに3コーナーでも水野がトップをうかがうものの、またもラインを外しながら野左根が先行。野左根はインをついてきた中須賀のフロントに接触しそうな進入を見せて、中須賀がやや失速するシーンもありました。このタイミングのトップ争いがそのままレース展開に影響してきますから、終盤のバトルと同じく、アツいです!

オープニングラップは野左根→水野→岡本→長島哲太(DUNLOPレーシングwith YAHAGI)→中須賀→津田拓也(オートレース宇部レーシング)→名越哲平(SDGホンダレーシング)というオーダー。しかし、メインストレートを終わっての1コーナーで水野が野左根をパス! このへんは、短いストレートでも、やっぱりパニガーレ速い!

画像: 最終的にはこの形。水野、まだわずかに届かない!

最終的にはこの形。水野、まだわずかに届かない!

水野が2番手以下を引き離そうとする中、ここで離されたらヤバい、と中須賀もポジションアップ。長島、岡本をかわして3周目には水野の後方につけます。もう、アッという間に真後ろにつけましたね。ここで逃がすか!という中須賀に気迫の走りでした。
このふたりについていくのは岡本のみで、野左根はスタート直前にマシントラブルが発生して、急きょスペアバイクでの出走のせいもあってか、徐々にポジションダウン。上位陣では他ライダーと一人だけ違うダンロップタイヤを装着する長島も、この路面温度ではちょっと苦しいか。長島はこのウィーク、腕上がりの症状にも苦しんでいたようです。暴れるマシンをネジふせたからかな、ってくらい長島はマシンと格闘しています。

3周目のダウンヒルストレートでは岡本も野左根をかわして3番手にアップ。周回が進むにつれ、この3人がレースを作っていくことになります。水野の後方でちょいちょい鼻を出し、並びかける中須賀。「オレここにいるぞ!」ってアピールで、これが前走者へのプレッシャーになるんです。いつでも抜けるのか、あとちょっとだけ届かないのか。引き離したい水野と、真後ろでプレッシャーをかけたい中須賀、そしてそのふたりの真後ろに岡本――というレース展開となります。トップふたりがバトルすると3番手が接近する、というレースの法則ですね。

そして中須賀がトップに立ったのは12周目。実はこれ、15周のレースの「レース成立」周回です。つまり、何かアクシデントがあって赤旗提示→レース成立となったときにトップに立っていないと――という目安。中須賀は、ここまで計算づくのレースを組み立てていたんだと思います。こういうところが絶対王者と呼ばれるゆえんなんですね。
中須賀は水野をかわした周にベストラップをマークして引き離しにかかると、水野も負けじとレースベストを更新。そこに続けなかった岡本はジリジリと遅れ始めてしまいます。レース終盤のスパートどころで2番手以下を引き離した中須賀と、スパートするも中須賀にわずかに及ばなかった水野――これで勝負は決まりました。

優勝は開幕2連勝で中須賀、2位も2戦連続の水野、3位も2戦連続の岡本。水野がレース大半をリードしながらも、終盤に絶対王者の底力を見せた中須賀。パニガーレ初優勝は、おあずけとなってしまいました。4位にマシントラブルがありながらも得意のもてぎを攻め切った野左根、5位に唯一のスズキGSX-Rで孤軍奮闘する津田、6位に長島が入りました。

画像: 速いなぁ、涼! いーや、ありがとうございました!って声が聞こえてきそうな両選手の握手

速いなぁ、涼! いーや、ありがとうございました!って声が聞こえてきそうな両選手の握手

「スタートしてすぐにちょっとポジション争いでガチャガチャして、なかなか今までにない展開で焦ったんですが、落ち着いて落ち着いて、って自分に言い聞かせてレースに入って行った感じでした。水野君が速くて、真後ろにいないと離されちゃう、って焦ってたんですね。序盤にペースが上がらないうちに追いつけて良かったですよ。敵のレベルがグンと上がって、そのおかげで僕もペースが上がって、今までのもてぎ大会にないレースペースだったよね。疲れました!」と中須賀。敵がレベルアップしたおかげで自分も速く走れたなんて、いったいどこまで速くなるんだ絶対王者、というレースを見せつけられましたね。

画像1: 絶対王者、もうひとつ引き出しをオープン!
画像: レース2のオープニングラップでこれ。ここから中須賀が逃げ、岡本だけが食らいつきます

レース2のオープニングラップでこれ。ここから中須賀が逃げ、岡本だけが食らいつきます

日曜に行なわれたレース2では、また違った絶対王者の一面を見せて、オープニングラップから先頭に立って、ぐいぐい後続を引き離すレースを見せた中須賀。この走りについていけたのは岡本だけで、水野に関してはスタートで出遅れて、集団をパスした時にはもう中須賀ははるか前、という展開になってしまいました。水野のドゥカティワークスマシンやダンロップタイヤを武器にトップグループに加わってきた長島ばかりに脚光が当たりますが、そろそろチームメイトの偉大な先輩をやっつけたい岡本も、今シーズンの注目ポイントですね。

画像: 背後まで迫るもなかなか偉大なセンパイを抜けない岡本 次戦、得意のSUGOでリベンジ!

背後まで迫るもなかなか偉大なセンパイを抜けない岡本 次戦、得意のSUGOでリベンジ!

「最後までずっと(岡本)ユウキがついてきてましたからね。ワンミスでやられちゃうのはレース1と一緒、レース2はとにかく自分のペースを出し切ろう、と走ったレースでした」と中須賀が言うと、3位以下を大きく引き離して、だたひとりだけ中須賀についていけた岡本は
「なんとか中須賀さんについていけましたけど、昨日と同じような展開。仕掛けられるポイントを作れなかったし、勝負に出られる自分の強みを出せませんでした。完全に負けてしまって最終的には引き離されたという、反省点だらけのレースでした。このウィーク、事前走行からトラブルがあったりでしたけど、チームが上手くマシンをまとめてくれて、2レースとも表彰台に上がれました。次のSUGOは勝てるように頑張ります」と残念そう。
ただ、スポーツランドSUGOといえば、昨年のレースで中須賀の連勝をストップした、得意のサーキットですからね、絶対王者食いもあるかもしれません!

画像2: 絶対王者、もうひとつ引き出しをオープン!

ST1000クラスは波乱の幕開け

画像: 國井+2023CBR1000RR-R 下の2024年型とはウィングレットの有無で判別できますね

國井+2023CBR1000RR-R 下の2024年型とはウィングレットの有無で判別できますね

画像: 荒川+2024年CBR1000RR-R 「24年モデルにちょっとてこずってます」(荒川)

荒川+2024年CBR1000RR-R 「24年モデルにちょっとてこずってます」(荒川)

4月あたまの公開事前テストで、ST1000クラスV3チャンピオンの渡辺一馬(AstemoホンダドリームSIR)が転倒、負傷欠場を決めたことで、ゼッケン1不在の開幕戦となったST1000クラス。23年にチャンピオン争いを繰り広げたライダーのうち、高橋巧(日本郵便ホンダドリームTP)はJSB1000クラスへスイッチ、榎戸育寛と高橋裕紀は現役生活を引退したことで、役者が一枚足りないかな、と思われたクラスでしたが、公開事前テストからニューヒーローが登場。21歳になった國井勇輝(SDGチームハルクプロ)です。
國井は15歳にはレッドブルルーキーズカップに参戦、17歳で世界選手権Moto3に参戦しましたが、結果を残せずに帰国。22年はハルクプロからST600クラスに、23年はST1000クラスに参戦。同時にアジア選手権も走ったライダーです。

2024年モデルのCBR1000RR-Rが大挙エントリーする中、國井のマシンは23年モデル。
「アジア選手権ではまだマシンのデリバリーが十分でなくて、アジアも出る國井は23年モデルで走ります。このもてぎ大会の前後にアジア選手権もあるので、マシンをレースごとに変えるより、そのままで行こう、と。マシンのデビューで回りがバタバタしている今は、23年モデルのほうがチャンス。シーズン後半に苦しくなるかもしれませんけどね」と言うのはSDGチームハルクプロの本田光太郎監督。

画像: 大柄な体格の國井、Moto3とかST600では窮屈そうでしたからね 1000ccマシンをぶんぶん振り回して走る姿が、やっとマシンと体が合ってきた感じです

大柄な体格の國井、Moto3とかST600では窮屈そうでしたからね 1000ccマシンをぶんぶん振り回して走る姿が、やっとマシンと体が合ってきた感じです

その國井、公開事前テストからトップタイムを連発し、走行1回目こそ渡辺、荒川晃大(モトバムホンダ)、豊島怜(ドッグファイトレーシングJDS)、南本宗一郎(ヤマハテストライダー)に先行を許したものの、その後はすべてトップタイムで、もてぎ大会のレースウィークに入ってからも、木曜から金曜の4セッション、さらに公式予選も決勝日朝のウォームアップ走行もすべてトップタイム! まちがいなく今シーズンのST1000は、國井を中心に回っていきそうです。

予選2番手は國峰啄磨(TOHOレーシング)、3番手に岩戸亮介(カワサキプラザレーシング)、4番手に作本輝介(AstemoホンダドリームSIR)、5番手に荒川、6番手に豊島、7番手に伊藤元治(モトバムホンダ)、8番手に和田留佳(チームTATARAアプリリア)、9番手に村瀬健琉(チームタイタンTKRスズキ)、10番手に井手翔太(アケノスピードRC甲子園)といった面々。ホンダCBRが上位を占めるなか、カワサキZX-10Rの岩戸、ヤマハYZF-R1の豊島、アプリリアRSV4の和田、スズキGSX-Rの村瀬が食い込んでいる、といった勢力図です。

日曜のラストレースとなった決勝レースでは、作本、豊島、荒川が並びかけるように1コーナーに進入すると、國峰、岩戸が続き、國井は7番手あたりからレーススタート。しかし國井はコーナーごと、直線でポジションを上げて、1周で4台抜きして3番手につけると、2周目に2番手國峰、トップの作本をかわしてトップに浮上! 國井、スタートでフロントをポンと浮かせて失速してしまったんですが、それで沈まずにぐんぐん追い上げ。トップに立ってからは2番手以下をジリジリ引き離し、國井には誰も近づけません!

画像: 終盤で國峰をかわした岩戸。20年オートポリス大会以来の3位表彰台です

終盤で國峰をかわした岩戸。20年オートポリス大会以来の3位表彰台です

そして國井を追い上げるべきひとりである荒川はジャンプスタートの裁定を受けて、そのサインボードに気づかず、黒旗を提示されての失格! チャンピオン候補のひとり、もったいない幕開けです。
独走態勢を築き始める國井に、なんとか作本だけが食らいついていくんですが、3番手争いの國峰と岩戸よりも明らかにTOP2が速い。結局、このまま國井が作本を7秒近く引き離してフィニッシュ。3位には國峰にジリジリと迫って、終盤についにかわした岩戸が3位表彰台を獲得しました。國井、みごとにウィーク中の全セッションでトップタイム、そのまま優勝という「スイープ」をみせました。
「日本に帰ってきて、ST600クラスから3年目、やっと優勝できました。去年はポールを取れても優勝できなかったり、ケガしたり、やっとポールtoウィンできました。次の菅生大会からマシンが新型になるので、また勝ちにこだわっていきたい」と國井。そうか、國井も2024年モデルになるってことは、ほかのホンダライダーと条件が揃う、ってことですね。今回のようなブッチギリは見られないかもしれません。

画像: ST1000クラスは波乱の幕開け

残るはST600とJ-GP3。あまり長くなると読む皆さんがタイヘンなので、残りは明日にでもアップします!

写真・文責/中村浩史

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