ギャンブル大当たり! 伏兵ニコラス・スピネッリがデビュー戦で優勝
週末を通してウェットとドライが混在する難しいコンディションとなった今大会。そんな中、ヤマハに移籍するも、ここまで苦戦が続いていたジョナサン・レイ(PATA PROMETEON YAMAHA)がついに目覚めた。スーパーポールで素晴らしい走りを披露したレイが今季初、そしてヤマハ移籍後初のポールポジションを獲得してみせたのだ。
2番グリッドにはランキング首位に立っているルーキーのニッコロ・ブレガ(ARUBA.IT RACING - DUCATI)、3番手は勢いに乗るラズガットリオグルがつけている。一方、苦戦が予想されながらもマシンに適応してみせたアルバロ・バウティスタ(ARUBA.IT RACING - DUCATI)だったが、今回は7番グリッドからのスタートとなる。
また、ダニロ・ペトルッチはモトクロスでのトレーニング中に転倒を喫し、右鎖骨と顎を手術。ペトルッチの代役としてニコラス・スピネッリ(BARNI SPARK RACING TEAM)が今大会に参戦した。スピネッリはCIV(イタリア国内選手権)で2022年のスーパースポーツとMoto3クラスでチャンピオンに輝いており、直近ではMotoEのポルトガルGPレース1を制している注目株。
しかし、スピネッリにとってSBKマシンに乗るのは初めての経験であり、予選ではレイから1.3秒遅れの11番手に終わっている。しかし、このスポット参戦を果たしたスピネッリがレース1で驚きのパフォーマンスをみせたのだ。
レース1は気温9度、路面温度18度で晴れ。しかし、路面は完全なウェットコンディションである。ウェット路面ではあるものの晴れていることから、各チームはドライコンディションに変化していくと予想し、スリックタイヤを選択。そんな中、SBKデビューレースであるスピネッリだけがインターミディエイトタイヤを選択する賭けに出たのだ。ちなみに、ヤマハのアンドレア・ロカテッリ(PATA PROMETEON YAMAHA)はフロントのみインターミディエイトを選択している。
各チームの思惑が交差する中、レース1がスタート。ポールシッターのレイがトップをキープしたままターン1を通過するも、ウェット路面をドライタイヤで走るのはリスキーな状態だ。ほとんどのライダーが慎重なスタートを切る中、インターを履くスピネッリがオープニングラップでいきなり3番手にジャンプアップ。そしてターン8から圧倒的な立ち上がりスピードをみせるスピネッリは一気に先頭に躍り出た。
ドライ勢がコースに止めるのが精一杯。5周目のターン2ではアンドレア・イアンノーネ(TEAM GOELEVEN)が転倒を喫するなど、スリックタイヤを選択したライダーにとっては我慢のレースが続く。
一方、路面とタイヤがバッチリ合ったスピネッリは後続に最大30秒もの大差を築きトップを快走。しかし、レースが中盤に差し掛かると路面が乾き始め、徐々に2位以下とのギャップが縮まってきた。
複数台によるバトルが繰り広げられてきた2位争いだったが、バウティスタとラズガットリオグルが抜け出し、スピネッリとの差を一気に詰めていく。猛烈な追い上げをみせる2位のバウティスタだが、残り8周というところでラズガットリオグルに最終コーナーで抜かれ3位に後退。しかし、あと数周でトップに追いつくところまできており、ラズガットリオグルとの一騎打ちに向けて背後でチャンスを待つ。
ラズガットリオグルとバウティスタがスピネッリを捕えようとした矢先、残り7周でなんと赤旗が掲示された。後方でロカテッリのマシンから白煙があがりオイルが撒かれてしまったのだ。この時点でレースの3分の2が消化されていたため、この赤旗によりレースは終了となった。
さまざまな要素が絡み合い、スピネッリのデビュー戦優勝という思わぬ結果となったレース1。もちろん、赤旗がなければ優勝はなかったわけだが、タイヤ選択のみならず、初めてのマシンで難しいコンディションを走り切ったからこその結果である。天候のイタズラとも言えるが、レースの神様が若者にご褒美を与えたような気もしなくはない。この優勝をきっかけにスピネッリがどのようなライダーに成長するのかにも注目したい。
2024 スーパーバイク世界選手権 第3戦 レース1 結果
日曜日はバウティスタとラズガットリオグルが優勝を分け合う
ウェット路面での戦いとなったレース1から一転し、日曜日はドライコンディションで行われた。午前中に行われるスーパーポールレースでは、ブレガがレースをリード。一方、チームメイトのバウティスタは何回もオーバーランするなど精彩を欠く印象だったが、強烈な追い上げをみせる。
ラズガットリオグルやアレックス・ロウズ(KAWASAKI RACING TEAM WORLDSBK)などライバルを続々とパスしていき順位を上げていくバスティスタ。周回数が少ないこともあり、スタートから飛び出したブレガがそのまま逃げ切るかに思えたが、勢いに乗るバウティスタがブレガを攻略しトップに浮上。
なんと最終的には2位ブレガに2.6秒差をつけたバウティスタがスーパーポールレースを制した。ブレガはカタロニアと同じ展開で2位と悔しい結果に終わり、3位には最終コーナーでレミー・ガードナー(GYTR GRT YAMAHA WORLDSBK TEAM)を抜いたアレックス・ロウズが3位表彰台を獲得している。
そして日曜日のメインであるレース2。このレースでSBKは記念すべき950戦目を迎えた。この節目のレースはチャンピオン同士の優勝争いが展開されることになる。
スーパーポールレースの結果が反映されるレース2のスタート順。ポールポジションはバウティスタ、2番グリッドにブレガ、3番グリッドにアレックス・ロウズが続き、スーパーポールレースでは失速してしまったラズガットリオグルは9番グリッドからのスタートとなった。
気温9度、路面温度17度のドライコンディションの中レースはスタートした。バウティスタがトップをキープする中、ロカテッリが2番手に浮上。3番手にはブレガ、レイが4番手につける。
その後方ではガードナーとラズガットリオグルのペースがよく、2台揃って順位を上げていく。早くも2位まで浮上したガードナーだったが、ラズガットリオグルに抜かれ3位に後退。それでも表彰台圏内でレースを進めていく。
2位に上がったラズガットリオグルはバウティスタとの差を詰めていき、7周目にトップ浮上。しかし、9周目に雨が降り始めるとトップ争いが熾烈に。バウティスタが再びトップに立つと、2台の後には3位に上がったロカテッリをはじめ、ガードナー、イアンノーネ、そして母国GPとなるマイケル・ファン・デル・マーク(ROKIT BMW MOTORRAD WORLDSBK TEAM)もトップ集団に加わっていく。
雨が降るも空は晴れているという難しいレースとなったレース2だったが、少しずつコンディションが回復に向かうとペースが上がっていき集団は縦長に。トップに立ったラズガットリオグルと2位バウティスタ、そして3番手のガードナーが抜け出すも、各車等間隔での終盤戦となった。
ラズガットリオグルはトップの座を守り切り優勝。記念すべきSBK950戦目という節目のレースを制した。2位にはバウティスタ、3位にはガードナーが入り、SBKで初の表彰台を獲得。また、意外なことに、ラズガットリオグルにとってアッセンでの優勝は初であり、BMWにとっても初のアッセン制覇となった。
第3戦終了時のポイントランキングはバウティスタが123ポイントでリーダーに。ラズガットリオグルが2位で117ポイント、3位には第2戦終了時にリーダーだったブレガが109ポイントで3位となっている。
最低重量のレギュレーションもあり、厳しいシーズンになると思われたバウティスタだったが、ディフェンディングチャンピオンらしい力強い戦いを見せてくれている。
オフシーズンのトレーニングで体重を増やしたバウティスタの努力に加え、チームのウェイトを積むポイントを踏まえたマシンの合わせ込みはさすがというべきだろう。そんなチャンピオンに挑むラズガットリオグルもまた、シーズン序盤にしてわずか6ポイント差の2位につけているのもさすがである。
長らく勝てていなかったBMWへの移籍については、失敗ではないかといった意見が飛び交うほど、チャレンジングなものだった。しかし、短時間でここまでの戦闘力を発揮しているあたり、今シーズンの目標はあくまでチャンピオンであると示している。
BMWに関してはラズガットリオグルのみならず、チームメイトのファン・デル・マークも良い走りを見せており、ギャレット・ガーロフも時折印象的な走りをみせている。スコット・レディングは苦戦しているが、エースのラズガットリオグルだけではなく、BMW全体としての底上げもできている印象だ。
そして、開幕戦での活躍に加え、ここまで力強い走りを見せているカワサキ勢に、復活の兆しを見せたレイ要する高いヤマハ勢もいい戦いを見せており、バウティスタが逃げ切る予想はしにくい状況である。ファンが待ち望んだ毎戦勝者を予想することが難しい展開が続いている今季のSBK。6月14日から16日に行われる第4戦エミリア・ロマーニャラウンドも見逃せない戦いが続くだろう。
2024 スーパーバイク世界選手権 第3戦 スーパーポールレース 結果
2024 スーパーバイク世界選手権 第3戦 レース2 結果
レポート:河村大志