
レポート担当/ノア・セレン
雑誌やwebサイトではテストライダーとして、そしてwebオートバイのライブ配信ではMCやレポーターとして熱いメッセージを発信中。実際に走ってみて、使ってみて、率直に語られるレビューはファン多し。
「公道こそ」の裏には確かなウェット性能と耐久性アリ

発表時のサーキット試乗では前作S22以上のスポーツ性が確かに感じられ、非常に好印象となったS23。しかしブリヂストンスタッフの「本当は公道で試乗してほしいのに……」感はとても強く、公道性能に対する自信が垣間見えた。
それもそのはず、まずは耐久性がS22比で8%向上、加えてツーリングタイヤであるT32で採用された、グルーブ内に中洲を設けて排水性を高める「パルスグルーブ」を採用することでウェット性能も向上。さらにはパターンの変更により、より均一なトレッド剛性を確保し素直は操舵性も手に入れているのだ。これら項目は確かにサーキットよりも公道で活きる性能。それを実感してほしいのに……とジレンマをもってサーキット試乗会を開催していたのもわかる。

リアタイヤには排水性を高め、ウエット路面での安全性を向上させる「パルスグルーブ」を採用する。
今回は自分のバイクに装着したことで遠慮なく距離が走れたので、まずは耐久性について。既に1500kmほどを走り、しかも高速道路走行も多いため、イメージとしてはそろそろリアのセンター部にちょっとした段差ができ始め、フロントにはわずかな偏摩耗が生まれてきそうな頃合い。ハイグリップタイヤ系なら明らかにそんな症状があらわれてくるだろう。
しかしS23はハンドリングにおいては新品装着時と全く変わっておらず、タイヤ表面を目視で確認してもそういった段差や偏摩耗はまだ見られない。後述するが、かなり元気なスポーツ性を持っているタイヤにもかかわらずこの耐久性はありがたいところ。S22も減りが早いというイメージはなかったものの、S23はそれに加えて確かに8%向上してそうだな、と実感できた。
さらにウェット性能。これはなかなか評価しにくい部分。というのも、僕のように実用ユースを中心にバイクを使う人は雨の中出かけることはあっても、雨の中わざわざワインディングを楽しみに行く、なんていうことはないからだ。
しかし最近の不安定な天気の中、ある日とても冷たい雨が降っているなか遠方に出かける用事があった。高速道路をひた走り、そして目的のICを降りる時の大きなカーブで、冷え切ってグリップが落ちているだろうと覚悟していたフロントタイヤからのインフォメーションがとても豊富だったのだ。特に冬はこういった場面がおっかなかったりするものだが、安心感がとても高く驚かされた。思わず停車しタイヤを触ってみたら、高速道路を走っていただけにもかかわらずタイヤが暖かかったのだ。ウェット性能はパルスグルーブによるものだけでなく、タイヤの構造やコンパウンドによる保温性による部分もあるんじゃないか、と思わされた体験だった。
進化したスポーツ性ばかりが注目を集めがちではあるが、あの発表会の時にブリヂストンスタッフが言っていた「公道でこそ!」のアツい思いをしっかりと受け取っている1500kmである。

一般的に走っていたり、ワインディングを走ることにおいて「まだ温まってないから」といった神経質さは全く感じなかった。加えて嬉しかったのは、冷たい雨の中の高速道路を走っていても、フロントタイヤがほんのり温かかったこと。気温やシチュエーションに左右されない、確かな接地感を提供してくれている。
13年前のミドルクラスがキビキビと走る
まずは実用性や付き合いやすさ、安心感についてお伝えできてうれしい。しかし前作S22もスポーティな走りを楽しめるのが魅力だったわけで、ではS23もワインディングを走らねばなるまい。
スポーティなタイヤは剛性も高い、というイメージがあるかもしれないが、僕がホイールに手組みで装着した際にはかなりしなやかな印象でツルリとハマってくれた。しかもリアはバランスウェイトが必要なかったのだから精度が高いタイヤなのだろう。フロントも5gしか着けずに済んだ。
走り出してもしなやかな印象は同じ。車両の指定空気圧で走ったが、硬質な感じや剛性が高いようなイメージは皆無。直線を走っているぶんにはツーリングタイヤのように路面の表面をコロコロ転がっていく軽やかさがあるのに、バンクするとハイグリップタイヤのようにコンパウンドが路面のデコボコにヒタヒタッと密着してしっかりとグリップしていく感覚。バンク角が増えるほどに路面に密着しているような感覚は強くなり、こんなベーシックなニンジャ650ですらスポーツバイクに感じられるほど。チョイ旧バイクでもモダンなタイヤを履くだけでグッとアップデートできてしまうな!と実感するワインディング走行だった。

今回はスイングアームのステッカーに示されている指定空気圧で走行。ニンジャ650Rはフロント2.25、リア2.5だ。
また、直立状態から深めのバンク角に移行するのが、S22比でより鮮やかになった印象もあった。ギューッとブレーキングして、そこからスコッと寝かせるのがかなり気持ちよい。早めにバンクさせてもタイヤがグッと踏ん張ってくれるため、すっかりとイイ気になってしまって、イメージとしてはホンダ時代のマルケスのよう。一気にフルバンクに持って行ってグイグイ旋回する! ……って、公道ワインディングでそんな激しいことをしているわけではないのだが、イメージとしてスパッと寝かせて、その寝ている状態がとても安定している、というものだったのだ。この特性はS22以上に「スポーツを楽しみたい」という気持ちにさせてくれるはずだ。

タイヤの万能化を歓迎したい
耐摩耗性も高く、ウェット性能も高く、それでいてしなやかでスポーツも楽しい。最近のタイヤの進化は「グリップ」や「ライフ」といった一点集中型の性能向上ではなく、あらゆる使用状況を想定した総合力を高めていくのがトレンド。そんな中で既に高いレベルにあったS22を確かに進化させたのがS23だ。耐摩耗性や付き合いやすさとハイグリップのバランスは「自走でサーキット走行会に行くような遊び方をする人にピッタリではないか」と書いたこともあったが、そのスポーツ性はサーキットに行かなくても公道ワインディングで十分以上に楽しめるものだったし、実用性能も高いためツーリングも気兼ねなく楽しめるだろう。
またS23はこういったミドルクラス向けサイズも用意しているのがありがたい。プレミアムなタイヤではあるものの、とはいえ一部のプレミアム大排気量車向けだと思わず、ミドルクラスユーザーにもぜひ使ってほしいと思った。

サーキット試乗の時も、バンク角に関わらずフロントタイヤが路面を手繰り寄せているような、まるでヤモリのような安心感があると思ったが公道でも同様。路面の細かな凸凹にしっかりとコンパウンドが密着しているイメージ。これはトレッド面の剛性均一化によってもたらされたという。ポーズはヤモリと言うよりスパイダーマン??
タイヤサイズ表

正立フォークというベーシックな構成のニンジャ650RだがS23を装着して途端にスポーティになった感覚がある。直進時はコロコロと抵抗なく進むのに対し、バンクしてくるとビタッとした安定感を発揮。その感覚はワンランク上のスポーツ性を手に入れたようだ。

この160幅サイズの標準リム幅は4.5インチ(許容リム幅4.5~5.0)。ニンジャはピッタリの4.5インチリムなのだが、装着した時の形状はS22よりもいくらか尖がっているようでスポーティなイメージだ。バンクしてからの豊富な接地感はフロント同様。
BATTLAX HYPERSPORT S23【フロントタイヤ サイズ表】
タイヤサイズ | 税込価格 | 標準リム幅 | 適用リム幅 | 外径 | トレッド幅 |
---|---|---|---|---|---|
120/70ZR17 M/C (58W) TL | ¥27,830 | 3.50 | 3.50~3.50 | 601 | 120 |
BATTLAX HYPERSPORT S23【リアタイヤ サイズ表】
タイヤサイズ | 税込価格 | 標準リム幅 | 適用リム幅 | 外径 | トレッド幅 |
---|---|---|---|---|---|
160/60ZR17 M/C (69W) TL | ¥37,400 | 4.50 | 4.50~5.00 | 630 | 163 |
180/55ZR17 M/C (73W) TL | ¥41,140 | 5.50 | 5.50~6.00 | 632 | 180 |
190/50ZR17 M/C (73W) TL | ¥42,130 | 6.00 | 5.50~6.00 | 628 | 190 |
190/55ZR17 M/C (75W) TL | ¥43,010 | 6.00 | 5.50~6.00 | 648 | 193 |
200/55ZR17 M/C (78W) TL | ¥45,650 | 6.25 | 6.00~6.50 | 657 | 198 |
テスト車両:Kawasaki Ninja650R(2011年)
S23はヤマハの新型MT-09やXSR900GPにも純正採用されているし、もっとモダンなバイクでテストする案もあったものの、本当のテストは自分の車両で遠慮なく距離を乗ってこそ。自分で所有するこのニンジャ650に装着してから今まで1500キロほど走行している。

写真/南孝幸