難しい路面で転倒者続出のスプリントはJ.マルティンが優勝!
4月27日、スプリントの前に行われた予選では、地元の声援を受けたマルク・マルケス(Gresini Racing MotoGP)がドゥカティに移籍後初となるポールポジションを獲得。開幕3戦では様子見といったマルケスだったが、ヨーロッパラウンドに入ってからは持ち味の限界を引き出す走りをみせ、大観衆の前で復活をアピールした。2番手に今季ここまで苦戦が続いていたマルコ・べッツェッキ(Pertamina Enduro VR46 Racing Team)が入り、3番手にはランキング首位のホルヘ・マルティン(Prima Pramac Racing)がつけた。
4番手はKTM最上位となるブラッドビンダー(Red Bull KTM Factory Racing)、5位にファビオ・ディ・ジャナントニオ(Pertamina Enduro VR46 Racing Team)が続き、VR46勢が好調。実はオーナーであるヴァレンティーノ・ロッシも応援に駆けつけており、ライダーやスタッフ一人ひとりに声をかけている姿が確認されていた。これぞロッシ効果なのか、「生きる伝説」のエナジーにより上位に戻ってきたVR46勢にも注目が集まった。
そして昨年同様、ひときわ大きな声援で迎えられたのがKTMのテストライダーであるダニ・ペドロサ(Red Bull KTM Factory Racing)だ。昨年は、ここヘレスとミサノでワイルドカード参戦を果たし、現役選手を相手に素晴らしい走りを見せたペドロサ。今年もテストライダーとして実践でのデータ収集のため、ワイルドカード参戦となった。第4戦終了後にはヘレスでオフィシャルテストが実施されることもあり、ホンダからステファン・ブラドル(HRC Test Team)、アプリリアからはロレンソ・サヴァドーリ(Aprilia Racing)とペドロサ以外にもテストライダーがワイルドカード参戦を果たしている。
12周のスプリントレースは気温19度、路面温度30度のドライコンディションとなったが、午前中は雨が降っていたこともあり、コース上にはところどころウェットパッチが残る難しい路面状況の中行われた。
スタートでは4番グリッドスタートのビンダーが好スタートを決めホールショットを奪う。マルティンが2位、マルク・マルケスは3位に後退し、アレックス・マルケス(Gresini Racing MotoGP)が4番手となる。
トップに立ったビンダーだったが、オープニングラップでマルティンがトップに浮上。この動きをみたマルク・マルケスもすぐさま反応しビンダーに襲いかかる。ビンダーや弟アレックスとのバトルを制したマルク・マルケスだったが、その隙にマルティンは1秒のギャップを築いていた。
3周目、フランチェスコ・バニャイア(Ducati Lenovo Team)はターン1の侵入でベッツェッキとビンダーに挟まれ転倒。開幕戦を制したものの、第2戦以降苦戦が続くバニャイアはここでも不運によりノーポイントとなってしまった。
トップ争いはマルティンが逃げ切り体制に持ち込むかに思われた中、マルク・マルケスが猛追。6周目にはファステストラップを叩き出しマルティンに追いついたマルク・マルケスは、翌7周目にマルティンのミスもあり急接近し、得意のターン9で仕掛けトップに浮上した。
先頭に立ったマルケスがマルティンとの差を広げにかかり、スプリント初優勝に向けて激走。ついに復活かと思われた9周目、なんとマルティンを攻略したターン9でまさかの転倒を喫してしまいリタイア。サーキットに詰めかけたファンからは悲鳴が上がり、やがてため息へと変わる中、マルティンが再びトップに返り咲いた。
マルケスの転倒後、アクシデントは続く。ターン5ではアレックス・マルケス、エネア・バスティアニーニ(Ducati Lenovo Team)、ビンダーの3名が立て続けに転倒。3名が同じタイミングでスリップダウンするという不可解なアクシデントが起こる中、翌周には同じターン5でマーベリック・ビニャーレス(Aprilia Racing)も転倒しリタイア。立て続けに転倒が起こるがオイル旗も振られることはなかった。どうやらウェットパッチが原因らしいのだが、中継映像でも識別しにくいものであり、この見えないトラップにライダーたちは足元をすくわれてしまったようだ。
レース終盤に転倒者が続出するという荒れたレースとなったスプリントだったが、トップのマルティンは首位の座を守り切りトップチェッカー。地元でスプリントレースを制した。2位には転倒者が相次ぐ中生き残ったルーキーのペドロ・アコスタ(Red Bull GASGAS Tech3)が入り、スペイン勢がワンツー。3位には予選23番グリッドから驚異のジャンプアップを果たし、ファイナルラップにはペドロサとの一騎打ちを制したファビオ・クアルタラロ(Monster Energy Yamaha MotoGP)が入った。
テストライダーながらまたしても4位入賞という快挙を達成したペドロサ。しかし、レース後にサプライズが待っていた。3位でチェッカーを受けたクアルタラロにタイヤの最低内圧規定違反が見つかり8秒のタイム加算ペナルティが科されたのだ。これによりペドロサは3位で表彰台を獲得することとなった。
昨年から試験的に導入されていたタイヤの最低内圧規定。当初は発覚次第失格という内容だったが、ライダーたちからの猛反発により、8秒加算に落ち着いていたこの裁定。苦戦が続きながらも、ヤマハへの残留を決めたクアルタラロにとって素晴らしい結果となった今回の3位。しかし、このペナルティにより5位に降格となってしまった。転倒者が相次いだことも大きな要因ではあるが、見事な追い上げを見せたクアルタラロとヤマハ。2021年のチャンピオン復活もそう遠くないことを願うばかり。
これぞ世界最高峰のバトル! バニャイアがマルケスとの一騎打ちを制し今季2勝目
4月28日、晴天となった決勝日は気温20度、路面温度38度のドライコンディション。これ以上ないレース日和の中、決勝レースが行われた。
スプリントではスタートでライバルに先行を許したマルケスだったが、今回はスタートを決めトップのままターン1に入っていく。
その後方では、バニャイアもスタートを決めて4位に浮上。さらに、オープニングラップのバックストレートでアウトから2台まとめてオーバーテイクし、スタートから一気にポジションを5つ上げる。
まだ開幕して4戦目とはいえ、これ以上ランキングで差をつけられるわけにはいかないバニャイアはオープニングラップの最終コーナーであるターン13でマルケスをもパスしトップに浮上。応戦するマルケスだったが、ターン1のブレーキングでミスを犯しマルティンが2位に上がる。
4位のベッツェッキを含めた上位4名が早くも抜け出す展開となる中、バニャイア、マルティン、マルケスがポジションを入れ替えながらレースを引っ張っていく。
4周目、スプリントで表彰台を獲得したペドロサだったが、ターン8で転倒。決勝レースでは好成績に繋げることはできなかった。 一方、上位勢ではベッツェッキがマルケスを攻略し3位に浮上。しかしペースがあがらず先頭集団がふたつに分かれることになる。
トップ集団のマルティンとバニャイアはハイペースで周回を重ねるものの、レース前半に大きな動きはなく膠着状態に。しかし、11周目のターン6、バックストレートからのブレーキングでマルティンがまさかの転倒。タイトルコンテンダー2人によるバトルはあっけない結末を迎えてしまったのだ。
これで労せずしてトップに立ったバニャイア。しかし、その後方ではベッツェッキを攻略したマルケスが一気にペースを上げトップのバニャイアとの差を詰めていく。
互いにファステストラップを更新しあう争いは、ともにレースラップレコードをも更新するハイレベルなものに発展していく。 しかし、マルケスは着実にバニャイアとの差を詰めていき、残り5周で遂に射程距離に収めた。
コースの後半セクションで速さを見せるマルケスはターン6、7、8とスピードに乗りターン9で仕掛けていく。しかし、クロスラインをとったバニャイアがマルケスに接触しながらもトップの座を譲らない。
マルケスは翌周も同じターン9で仕掛けるが、バニャイアは譲らない。この直前、レコードブレイクし、オーバーテイクを2度試みたマルケスに対し、勝負所と見たバニャイアは一気にペースアップ。コンマ1秒差だった両者の差はコンマ5秒に広がり、オーバーテイクを仕掛けるには少し厳しい差をバニャイアは稼ぎ出していく。
とはいえ、その差はわずかコンマ5秒。僅差のままファイナルラップに入っていったマルケスは最後まで優勝を狙うもコンマ3秒足らず。息を呑むバトルを制したバニャイアが今季2勝目を挙げた。
惜しくも優勝に届かなかったマルケスだったが、レース内容、結果とも大満足の2位。完全復活と言っていい走りを見せたマルケスはファンが見守る中、ドゥカティ移籍後初となる表彰台を獲得して見せた。
3位にはベッツェッキが入り今季初表彰台を獲得。この結果、ドゥカティによる表彰台独占となった。
2024 MotoGP 第4戦スペインGP 決勝結果
マルケス復活で実現した極上のバトルは今シーズンを占うものに?
ドゥカティが覇権を握るようになり、バニャイアとマルティンのチャンピオン争いが続く昨今のMotoGP。昨年のチャンピオン争いは、才能豊かなライダー2人で繰り広げられ、最終戦にまでもつれ込んだ。
今年もこの2人によるタイトル争いになると思われていた2024年シーズン。しかし、6度の世界王者の復活により昨年以上の熾烈な戦いが続くことになるだろう。
今回のマルケスの走りは栄華を極めたホンダ時代のもの。マシンの限界を把握し、最大限のパフォーマンスを常に出し続ける圧倒的なライディングでMotoGPを蹂躙した、あの絶対的なマルケスのそれだった。
新しい相棒であるデスモセディチGP23への適応を早くも終えたマルケスは、今季どこかで優勝することは間違いないだろう。しかし、チャンピオン争いという意味ではワークス体制のバニャイアとマルティン相手にしなければならないことや、ドゥカティでの経験値の差などもあり、今大会の走りのみで判断することはできない。
ただ、間違いなく言えることは、マルケスの存在はバニャイアとマルティンにとって優勝することをこれまで以上に難しくさせるということだ。
今回のレースのように、マルケス相手に差をつけて独走体制を築くことは極めて難しい。なおかつ、マルケスは現役の中で接近戦に強いライダーであり、マルケス相手に接近戦を制することは並大抵のことではない。
しかし、この困難を現チャンピオンのバニャイアは見事に打ち勝ってみせた。マルケスの肩にタイヤ痕がつくほどの接近戦を演じたバニャイア。ここまで激しいバトルをするバニャイアも珍しいが、これは相手があのマルク・マルケスだったからだろう。
今回サーキットに足を運んだロッシはバニャイアにとって偉大な師である。マルケスと熾烈なバトルを演じてきたロッシには、少しでも引いてしまえばマルケスはそこ突いてくることも、決して弱みを見せてはいけないこともわかっている。もしかするとレース前にロッシのアドバイスがあったのかもしれないが、バニャイアはマルケス相手に一歩も引かない姿を見せ、マルケスに競り勝ってみせた。
バニャイアの成長をこれ以上ない形で見ることができたスペインGPだが、それでも目を覚ましたマルケスが驚異であることには変わりない。5月10日〜12日にかけて行われる第5戦フランスGPでも勢いに乗る2人は優勝候補筆頭と言えるだろう。そして、今回決勝でリタイアに終わったマルティンがバニャイアとマルケス相手にどのような走りを見せるのかにも注目だ。
レポート:河村大志