2024年5月10日から12日にかけて行われたMotoGP第5戦フランスGP。舞台は24時間耐久レースでお馴染みのブガッティ・サーキットだ。地元のヒーローであるファビオ・クアルタラロ(Monster Energy Yamaha MotoGP)とヨハン・ザルコ(LCR Honda)の存在はもちろんだが、今年は5月8日の「Victoire du 8 mai 1945」(1945年5月8日戦勝記念日。フランスでは同日が第2次世界大戦終結記念日となっている)や、5月9日の「L’Ascension」(昇天祭。復活祭から40日後にあたる休日で、キリスト教徒によってミサが行われる。フランスの春の大型連休。)が重なったこともあり、サーキットは木曜日から大盛況。なんと週末を通して297,471人ものファンが集結し、前年同サーキットでMotoGP1000回目のメモリアルレースが行われた際に記録した278,805人を上回った。

MotoGPが2027年に導入される新しいテクニカルレギュレーションを発表

フランスGP直前の5月6日、MotoGPは2017年以降に導入される新しいテクニカルレギュレーションを発表した。

すでに同年から100%持続可能な燃料が使われることはアナウンスされているが、今回はさらに2つの大きな改定が明らかになっている。ひとつ目は排気量の1000ccから850ccへのサイズダウンだ。

画像: 大きな変更点はエンジン排気量の1000ccから850ccへのサイズダウンとエアロダイナミクスの規制強化。

大きな変更点はエンジン排気量の1000ccから850ccへのサイズダウンとエアロダイナミクスの規制強化。

MotoGPクラスでは2007年に800cc化されたものの、2012年には1000ccにサイズアップされた過去がある。しかし、当時とは違い、エアロダイナミクスの進化により高速化が進んでいるだけに、安全性の向上のためサイズダウンが決まった。また、年間で使用できるエンジン基数は現在の7基から6基へと削減される。

そしてもう一つが、近年のトレンドであり、成績を大きく左右するエアロダイナミクスの規制だ。

現在、シーズン中のエンジン開発が禁止されているMotoGPにおいて、重要な開発領域であるエアロダイナミクス。アプリリアやドゥカティが好成績を収めているのは、いち早く空力の開発に力を入れていたことに起因する。

しかし、エアロパーツは強烈なスピードを実現させる反面、マシン後方に乱気流が発生するため、オーバーテイクや接近戦が減る原因にもなっている。空力に関しては、4輪の世界最高峰であるF1が最前線を走っているが、上記のようなレースの魅力を損なう影響を及ぼしていることもあり、2022年に大幅なレギュレーション変更を実施。空力コンセプトが大幅に見直された。

今回の改定によって、エアロダイナミクスはフロントフェアリングの上部幅が600mmから550mmと狭くなり、ノーズ位置も50mm後退する。

現在は開発が許されているテール部分だが、27年からは年間のアップデートが1回のみとフロント同様規制の対象に。

また、ライドハイトデバイスとホールショットデバイスも2027年から全面的に禁止することや、セッション後に全ライダーからのGPSデータを全てのチームが利用可能になることも発表されている。

モータースポーツ全体に言えることだが、MotoGPの魅力は息を呑むような接近戦とオーバーテイクにある。今回発表された新しいレギュレーションにより、エキサイティングなレースが増えることを願いたいものだ。

J.マルティンが完勝でスプリント3勝目をマーク!

画像: バニャイアが出遅れる中、A.マルケスがスタートで大幅にポジションをあげた。

バニャイアが出遅れる中、A.マルケスがスタートで大幅にポジションをあげた。

大入りとなったフランスGPの予選はホルヘ・マルティン(Prima Pramac Racing)が他を圧倒するレコードブレイクでポールポジションを獲得。前戦スペインの覇者であるフランチェスコ・バニャイア(Ducati Lenovo Team)が2番グリッド、第3戦アメリカズGPで優勝を果たしたマーベリック・ビニャーレス(Aprilia Racing)が3番グリッドに並ぶ。

13周で行われるスプリントレースはポールシッターであるマルティンの好スタートで幕を開けた。マルティンが順当なスタートを見せる中、2番グリッドスタートのバニャイアがスタートで失敗。大きくポジションを落としてしまった。

そんな中、驚異のスタートダッシュを決めたのが予選13番グリッドスタートのマルク・マルケス(Gresini Racing MotoGP)だ。予選Q2進出を逃してしまったマルケスだったが、なんとオープニングラップ終了時で5位までポジションを上げてみせた。

トップはマルティン、2位にマルコ・ベッツェッキ(Pertamina Enduro VR46 Racing Team)、3位にはこちらもスタートでポジションを上げたアレイシ・エスパルガロ(Aprilia Racing)というオーダー。しかし、エスパルガロにジャンプスタートという裁定が下り、ダブルロングラップペナルティが科されてしまった。

これにより4位ビニャーレスをパスしていたマルケスが3位に浮上。一方、順位を下げていたバニャイアは3周目のターン7でコースオフ。マシントラブルが原因で、ピットに戻りリタイアしてしまった。

レース序盤から中盤にかけて、2位のベッツェッキのペースが良く、トップのマルティンに迫っていく。しかし、マルティンは徐々にベッツェッキとの差を広げていた。

タイヤを使ってしまったベッツェッキは3位マルケスの接近を許してしまう。残り4周、マルケスを引き離そうとしたベッツェッキだったが、ターン9でスリップダウンし転倒。昨年優勝した得意のサーキットだったが、痛恨のリタイアとなってしまった。

画像: 得意のスプリントで圧勝のマルティン。今季スプリントで3勝目を挙げた。

得意のスプリントで圧勝のマルティン。今季スプリントで3勝目を挙げた。

トップのマルティンはスタートからトップの座を奪われることなくチェッカー。スプリントレース3勝目をポールトゥウィンで決めた。

ベッツェッキの転倒もあり、マルケスが2位でフィニッシュ。トップ争いからは遅れたものの、ビニャーレスが3位でチェッカーを受けた。

画像: 前戦に続き、復活をアピールしたA.マルケス。

前戦に続き、復活をアピールしたA.マルケス。

母国凱旋のクアルタラロは粘りの走りで10位、ザルコも13位で完走を果たしている。

画像: バニャイアがまさかのノーポイントに終わり、マルティンはポイント差を拡げることに成功。

バニャイアがまさかのノーポイントに終わり、マルティンはポイント差を拡げることに成功。

マルティンがチャンピオン2人とのバトルを制しフランスGP制覇

決勝日には雲が広がり、ウェットレースになる可能性も考えられたが、天気は崩れることなくドライコンディションで決勝レースが行われた。

気温21度、路面温度31度のドライコンディションの中、27周の決勝がスタート。スプリントでノーポイントに終わったバニャイアが先頭に浮上し、レースをリードしていく。マルティンは2位、3位にはエスパルガロが続いた。

スプリント同様、決勝でもスタートを決めたマルケスは8位までポジションをあげる中、その前ではルーキーのペドロ・アコスタ(Red Bull GASGAS Tech3)も5番手まで順位を上げ、果敢に前を狙っていく。

しかし、アコスタは3周目のターン8で転倒。ここまで前戦でポイントを獲得していたアコスタだったが、フランスGPでは今季初のノーポイントに終わってしまった。

スプリントでは一度も首位の座を許さなかったマルティンだったが、決勝ではバニャイアの背後につき、2位でレースを進めていく。一方、トップ集団に入っていたマルケスが徐々にポジションを上げていき、17周目にはついに3位に浮上。着実に順位を上げていった。

画像: 新型を操る2台に対し、デスモセディチGP23で追い上げるA.マルケス。

新型を操る2台に対し、デスモセディチGP23で追い上げるA.マルケス。

レース中盤まで動きを見せることがなかった2位のマルティンだったが、残り10周となったタイミングでペースをあげ、バニャイアに接近していく。

バニャイアは一旦マルティンを退けるも、残り7周でマルティンの猛攻を防ぎきれず2位に後退。このトップ争いにより、3位のマルケスが一気にギャップを縮め、三つ巴の優勝争いになっていった。

わずかコンマ2〜3秒と接近した状態で3台はファイナルラップに突入。バニャイアがマルティンに仕掛けることができない中、マルケスがターン9の飛び込みでバニャイアを攻略。この土壇場で強烈なブレーキングをみせたマルケスが2位に浮上した。

画像: ファイナルラップのターン9で2位に上がったマルケスが殊勲の2位表彰台を獲得した。

ファイナルラップのターン9で2位に上がったマルケスが殊勲の2位表彰台を獲得した。

マルケスとバニャイアのポジション争いもあり、少し余裕ができたマルティンがトップのままチェッカー。今季初のスプリントと決勝のダブルウィンを達成した。

画像: 2位争いに動きがあったため、余裕を持ってチェッカーを受けたマルティン。

2位争いに動きがあったため、余裕を持ってチェッカーを受けたマルティン。

マルケスは前戦スペインにつづき2位でゴール。バニャイアは3位でフィニッシュした。

地元で6番手と今季最も力強い走りをみせていたクアルタラロは、残り11周で転倒を喫しリタイア。母国で良い結果を出すことはできなかったが、レース後のインタビューでは希望の持てる結果だったと語っている。

同じくフランス人ドライバーのザルコは苦しい状況の中、完走を果たし12位でポイントを獲得。

地元のファンにとってはほろ苦い結果に終わった今年のフランスGP。しかし、サーキットに詰めかけたファンはクアルタラロとザルコに大きな声援を送っていた。

応援してくれた大観衆に応えるように、両者はレース後、グランドスタンドのファンに向けてレーシングギアを投げるなどファンサービスを実施。スタンドからは大歓声が起こっていた。

2024 MotoGP 第5戦フランスGP 決勝結果

画像: 今回の2位獲得で一躍ランキング3位につけたA.マルケス。今季はこの3名によるタイトル争いになるのだろうか?

今回の2位獲得で一躍ランキング3位につけたA.マルケス。今季はこの3名によるタイトル争いになるのだろうか?

画像: resources.motogp.com
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マルティンの活躍とマルケスの復活・・・ドゥカティはどのような決断を下すのか

フランスGPでダブルウィンを達成したマルティンは129ポイントで首位を独走。2位のバニャイアはスプリントのリタイアもあり、91ポイントとマルティンにリードを許してしまった。

そんなバニャイアに急接近したのが連続表彰台を獲得したマルケスだ。今季からドゥカティ陣営に加入したマルケスだが、早々にマシンに適応し完全復活と言っていい活躍を見せている。

優勝こそないものの、1年型落ちのマシンでスペインGPとフランスGPで2位表彰台を獲得したマルケスはポイントを89ポイントまで積み上げ、ランキング3位に浮上した。

今大会でこれ以上ない完璧な週末を過ごしたマルティンと完全復活を果たしたマルケス。来季ドゥカティのファクトリー入りを狙う2名の活躍に良い意味で頭を悩ませているのがゼネラルマネージャーを務めるジジ・ダリーニャだろう。

マルティンは選手権をリードしており、ここまではこれ以上ないシーズンを送っている。自身もファクトリー入りを希望し、さらに来季ファクトリーに入ることができなければドゥカティから出ていくともコメントしていることからも、マルティンの今年にかける意気込みと来季のシートへの思いは強いことがわかる。

しかし、そのマルティンの昇格に待ったをかける存在が6度の世界王者であり、今季からドゥカティ陣営に加わったマルケスだ。

全盛期にはライバルにつけ入る隙さえ与えなかったマルケス。そんなマルケスも怪我に加え、ホンダの不振によりかつての輝きを失っていた。

だが、今季グレシーニ・レーシングに移籍すると、ドゥカティのサテライトチームながらチャンピオン争いに食い込む活躍を見せている。

両者どちらを獲るのかは現時点で判断のしようがないのだが、フランスGPのメディアブリーフィングでバニャイアがマルケスのファクトリー入りを拒否しているという報道を否定している。

公の場でマルケスがチームメイトになったとしても歓迎するとコメントしたバニャイア。ドゥカティワークスのエースライダーであるバニャイアのコメントはチームの意思を表しているとも捉えられるため、マルケスがドゥカティワークスに収まるシナリオも十分に考えられるのだ。

しかし、マルティンもこれ以上ない活躍を見せているため、ダリーニャをはじめ、ドゥカティの上層部には難しい判断となることだろう。

ダリーニャ曰く、来季のラインナップは第7戦ムジェロで決まるとのこと。次戦カタルーニャGPが最終判断の場になるだろう。来季にも影響を及ぼす可能性のある第5戦は5月24日から26日にかけて開催される。

レポート:河村大志

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