平野ルナが伝統のドニントン・パーク・サーキットに挑む!
開幕戦でマリア・エレーラ(KLINT FORWARD FACTORY TEAM)やアナ・カラスコ(EVAN BROS RACING YAMAHA TEAM)、サラ・サンチェス(511 TERRA&VITA RACING TEAM)らが熾烈な優勝争いを繰り広げ、盛り上がりをみせた開幕戦のエミリア-ロマーニャラウンド。
優勝争いもエキサイティングだったが、私たち日本人は平野ルナ(TEAM LUNA)の走りに心を踊らされた人も多いだろう。
タイトルコンテンダーと目されている選手を中心に、ワークス体制のような恵まれた環境を整えているライバル勢。ヨーロッパ勢に関しては何度も走ったことのあるサーキットでの開催とあって経験値やセッティング面においても優位である。
一方、平野は国内を中心に幅広い排気量のバイクを走らせてきてはいるが、海外のサーキットでの経験はマレーシアのセパン・サーキットのみ。WCRへのフル参戦は、マシンにタイヤ、そしてサーキットと何もかも未経験というスタートだった。
しかし、平野とイタリア人メカニックのマヌ氏は試行錯誤しながら開幕戦で奮闘。レース1では23番グリッドから次々とポジションを上げていき、14位でフィニッシュ。いきなりポイントを獲得し、レース2でも後方からのスタートながら16位でゴールしている。
開幕戦ということもあり、荒れたレースとなった開幕戦だったが、平野はミスなく最後まで走り切りマイレージを稼いでみせた。経験値を積むことが何より重要だったわけだが、転倒による走行不足もなく、ポイントまで獲得してみせたのだから幸先の良いスタートと言っていいはずだ。
第2戦の舞台はイギリス・イングランドにあるドニントン・パーク・サーキット。前半セクターは中高速コーナーが連続し、なおかつアップダウンが激しい。後半セクターは低速コーナーが続き、コース幅も広くなる。最終盤には最大のオーバーテイクポイントである「メルボルン・ヘアピン」があり、ライダーにとっては後半セクターが勝敗を分けるポイントとなるだろう。
上記の通り、このサーキットは全体を通して特徴が統一されておらず、前半と後半で特徴の違うサーキット。故に足まわりなどのセッティングにはどこにストロングポイントを持っていくのか、またはバランスの良いセッティングにするのかなど未経験のライダーにとっては難しいサーキットと言える。気まぐれなブリティッシュウェザーという要素もあるためなおさらだ。
そんな中、平野は金曜日に行われたフリー走行1で雨まじりの難しいコンディションの中、7番手タイムをマーク。好調をキープしたままスーパーポール(予選)での上位進出も期待されたが、ドライコンディションの中で行われたスーパーポールでは振るわず16番手に終わった。
開幕戦ではストレートスピードがライバルに比べ劣っていた平野だったが、今大会ではトップ7に入るスピードを記録。前回の課題を今大会に改善してきたが、予選においての上位進出には繋がらなかった。
他のチームとは違い、平野はマシンセッティングの変更をするかどうかの判断も自分でしなければならない。走行経験がなく、さらにセッティングに頭を痛めるようなサーキットなだけに、セットアップを外してしまうのは致し方ないことなのかもしれない。
開幕戦でダブルウィンを達成したエレーラは、スーパーポールで2番グリッドを獲得。しかし、ポールポジションを獲得したカラスコにコンマ5秒という大差をつけられている。エレーラもドニントン・パークでの走行は今回が初めて。開幕戦で速さ・強さを見せつけたエレーラでもこのタイム差ということは、ここでは経験値の有無が他のサーキットに比べ大きく成績に影響を与えているのだろう。
アナ・カラスコが今季初優勝! 平野は混戦を生き残り14位入賞
土曜日のレース1は気温17度、路面温度23度で、曇りながらドライコンディションの中行われた。
スーパーポールではフリー走行から圧倒的な速さをみせたカラスコがポールポジションを獲得。2番グリッドには開幕戦のウィナーであるエレーナ、3番グリッドにはサンチェスと開幕戦で表彰台に登った3名がフロントローに並んだ。
12周の決勝レース1は2番グリッドスタートのエレーラが抜群のクラッチミートでホールショットを奪取。
オープニングラップからエレーラとカラスコのトップ争いは加熱し、周回ごとにポジションが入れ替わる展開となった。
エレーラとカラスコの後にはサンチェスとスタートでポジションをあげたベアトリス・ネイラ(AMPITO / PATA PROMETEON YAMAHA)が続き、先頭集団は4台で形成される。そこに序盤からファステストラップを記録しながらロベルタ・ポンツィアーニ(YAMAHA MOTOXRACING WCR TEAM)が接近していった。
5周目のターン12でエミリー・ボンジー(YART ZELOS BLACK KNIGHTS TEAM)、7周目にはアリシア・ウィッモア(EKHMET MOTORCYCLE RACING TEAM)が転倒を喫するも、レースは止まること無く進んでいく。
8周目にトップ争いに動きがあった。ここまでエレーラとカラスコが抜きつ抜かれつのバトルを繰り広げていたが、3位のネイラがカラスコに仕掛けていき、サンチェスも隙を突こうと喰らいついていく。
2台から4台になった優勝争いはカラスコ、ネイラ、エレーラ、サンチェスの順でファイナルラップに突入。コース前半が終わり勝負所のバックストレートに差し掛かると、4位のサンチェスが立ち上がりからスムーズな加速を見せ、なんとターン9でネイラとエレーラを2台抜き。土壇場で2位に上がったサンチェスだったが、メルボルン・ヘアピンでネイラがサンチェスをさし返し2位を死守してみせた。
2位争いに動きがあったため、カラスコがトップのままフィニッシュ。WCR初優勝を挙げた。2位には激しいバトルを制したネイラ、3位にはサンチェスが入り、エレーラはまさかの4位で表彰台を逃してしまった。
16番グリッドからスタートした平野は、スタートを決め14位にポジションアップ。5周目には15位まで後退するも、目の前を走るボンジーが転倒。目の前のアクシデントを上手いライン取りで切り抜け13位に浮上してみせた。
しかし、レース後半にはペースに苦しみ16位に後退。それでも粘りの走りをみせた平野の前方でまたもアクシデントが発生した。
ファイナルラップの最終コーナーでルーシー・ミシェル(TSL-RACING)がマロリー・ダブス(SEKHMET MOTORCYCLE RACING TEAM)のインに飛び込み接触。ダブスは転倒、そしてこの接触の原因となったミシェルには3秒加算のペナルティが科されたことにより、平野は14位でのフィニッシュとなった。
思わぬ形でポイントを獲得となった平野。しかし、平野はフリー走行からスーパーポール、朝のウォームアップ、そしてレース1と着実にベストラップを更新してきた。予選後にセッティングを大幅に変更し、1分44秒986だったベストラップを決勝では1分42秒952と2秒も更新。
ライバルの転倒があったことは確かだが、このポイントは平野のミスをしない走りに加え、彼女自身の的確な判断とそれに応えるエンジニアのマヌ氏の総合力があったからこそ。実力でもぎ取った2ポイントだった。
WCR第2戦 レース1結果
エレーラがカラスコとのバトルを制し今季3勝目! 平野は自己ベスト9位でフィニッシュ
日曜日の決勝もイギリスらしい曇り空となったが、前日同様雨は降らず、気温17度、路面温度20度のドライコンディションで行われた。
ポールポジションはネイラ、2番グリッドにエレーラ、3番グリッドにはサンチェスがつき、レース1の優勝者であるカラスコは4番グリッドからのスタートとなった。
12周のレース2は前日と同じく好スタートを切ったエレーラがホールショット。レース1では4台でのトップ争いとなったが、レース2ではエレーラがスタートから逃げ切りを図り、3周目には2位に上がったカラスコに対して早くも1秒もの差をつけた。
ネイラをかわし、2位に上がったカラスコはペースを上げ、3位以下の集団から抜け出しエレーラを追う。そして5周目にエレーラに追いついたカラスコはここから7周にかけてエレーラとの優勝争いを展開する。
3位に大差をつけ、文字通り一騎打ちとなったエレーラとカラスコの戦いは、順位を入れ替えながら周回。そして、互いにファステストラップを叩き出しながらファイナルラップに突入した。
2位のカラスコはオーバーテイクポイントが集中している後半セクターに照準を合わせ、メルボルン・ヘアピンでインに飛び込んだ。しかし、エレーラが冷静にクロスラインを取りトップを譲らない。
続く最終コーナーでもトップの座を死守したエレーラがトップチェッカー。ライバルであるカラスコとのバトルを制し、早くも今季3勝目を挙げた。
カラスコは惜しくも連勝とはならず2位、3位には最終周まで続いたネイラとのバトルを制したサンチェスが入り、3戦連続で表彰台を獲得している。
16番グリッドスタートの平野は珍しくスタートでポジションを落とし17位でオープニングラップを終えるも、2周目には15位までポジションを上げる。
3周目にはチョン・メイ・ルー(WT RACING TEAM TAIWAN)、5周目にはダブスの転倒もあったが、平野は自身でもオーバーテイクを繰り返していき5周目には11位にまでポジションを上げていった。
7周目にはさらにポジションを上げた平野は、前を走るオーネラ・ウンギャホ(YAMAHA MOTOXRACING WCR TEAM)とポンツィアーニが転倒したことにより8位に浮上。その後ミシェルに先行を許すも、離れることなくバトルを展開していった。
ミシェルとの接近戦を繰り広げた平野は2台揃って7位を走るパキタ・ルイ(PS RACING TEAM 46+1)に追いつき、ファイナルラップは3台によるバトルとなった。
最終的にはミシェル、ルイ、平野の順でゴール。僅差だっただけに悔しい結果となった平野だが、それでも自己ベストの9位でチェッカーを受けた。
初めてドニントン・パークを走った際、タイム的にも後半セクションが課題だと語っていた平野。走行を重ねるにつれマシンを仕上げていったが、やはりセクター4では苦労していたようだ。
オーバーテイクポイントが集まっているセクターだけに、勝負を仕掛ける場所でバトルに持ち込めなかったのは苦しかったはずだ。しかし、平野のベストラップはファイナルラップに記録されており、この周回に関して言えばトップ5の速さである。
僅差だっただけに悔しさも残るレースではあるが、それでも7ポイントを獲得した。繰り返しになるが、今置かれている現状を考えると上々の成績と言っていいはずだ。
今まで経験したことのない高低差の中、転倒することなくタイムを削っていけたのは平野にとって大きな収穫となった。次戦もアップダウンの激しいポルトガルのアルガルヴェが戦いの舞台となるが、ドニントン・パークでの経験値は平野の助けになってくれることだろう。
とはいえ、アルガルヴェはドニントン・パーク以上にコース全長が長く、高低差が激しいサーキット。ホームストレート、ターン4からターン5にかけては高低差によりブラインドになっており、ブレーキングが難しい。右に旋回していきながら急激に降っていく最終コーナーもアルガルヴェならではの難しさと言っていいだろう。
フィジカル的にも厳しいアルガルヴェなだけにポルトガルGPはサバイバルレースになるかもしれない。平野にとっても厳しい戦いは続くが、それでも開幕戦と今大会の戦いぶりを見るに、この難コースであるアルガルヴェでも期待せずにはいられない。
第3戦ポルトガルラウンドは8月9日から11日にかけてアルガルヴェ・サーキットで行われる。
WCR第2戦 レース2結果
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レポート:河村大志