文:大屋雄一/写真:柴田直行
ホンダ「XL750 トランザルプ」インプレ(大屋雄一)
疲労度の少ないエンジン特性、操縦次第でハンドリング自在
「速いっ! 速いぞコイツ!」
高速道路を120km/hで快走し、なお余裕を見せるXL750トランザルプ。エンジンについては、排気量的にも、また並列2気筒で270度位相クランクを採用している点でも、同じホンダのNC750Xに限りなく近い。とはいえ、754ccで最高出力91PSは伊達ではない。かつてNC750Sに乗っていた私にとって、この圧倒的な差はインパクト大だ。
トランザルプに搭載されている水冷パラツインは新開発で、ライディングモードは4つのプリセットモードと、各項目を任意に設定可能なユーザーモードの5種類から選べる仕組みとなっている。
スポーツモードではエンジン出力レベルが最も高くなり、エンブレ値は最弱に。また、トラクションコントロールの介入レベルは一番低く、ABSはオンロード走行に適したものに設定される。スロットルの動きに対する反応は上々で、開け続ければレッドゾーンまで力強く吹け上がる。
ただし、パワーフィールはやや一本調子な上に、ほぼ全域でザラついたような微振動が伝わるため、スムーズに回るとか、快活に伸び上がるといった、味わいに関する要素は希薄だ。一方、こうした事務的な特性に疲れにくさを感じたのも事実。トップ6速のまま100km/hから120km/hへの増速も余裕だが、それでいてエンジンの方から「もっと加速しちゃおうぜ!」といった誘惑をしてくることはない。ゆえに、長い距離を坦々と移動できるのだ。
フロント21インチ、リア18インチホイールによる操安性は、軽快感と安定性が高次元でバランスしている。ホイールベースが1560mmとCRF1100L並みに長いため、クイックに向きを変えるタイプではない。だが、乗り手の操縦次第で旋回半径や走行ラインを自由にコントロールでき、それが速度の高低によって大きく変化しないところに、トランザルプの扱いやすさが集約されている。
そして、何より光るのはダートでの安心感だ。段差を乗り越えやすい大きなホイール径、安定性に寄与する長いホイールベース、動きのいい前後サス、そして粘り強いエンジン特性によって、未舗装路に不慣れなライダーでも焦らずにスルスルと進めるのだ。深砂利や泥ねい地などはその限りではないが、引き締まったダートでなら問題なし。そして、こういうシーンで活躍するのが、トラコン値が最大となるグラベルモードだ。
サスペンションは、フロントがカートリッジタイプ、リアが分離加圧式で作動性がよく、スロットルのオンオフだけでスムーズに車体がピッチングする。加えて剛性の高すぎないワイヤースポークホイールによって、ギャップの吸収性は抜群にいい。乗り心地のよさもトランザルプの美点だ。
ブレーキは、ワイヤースポークホイールという仕様上、前後ともピンスライドキャリパーを採用。入力初期からリニアに制動力を発揮して、ウェット路面やダートでも安心してコントロールできた。特にフロントは、握り込むほどに高い制動力を発揮し、倒立式フォークを含むフロント周りの剛性が優れることもあり、オンロードモデル並みに短い距離で減速できる。
キャンプ道具を満載したり、タンデムツーリングといった、トランザルプ本来の使われ方を考えると、これほど高い制動力が必要なのもうなづける。そして、これは扱いやすいエンジン特性やハンドリングにもあてはまるだろう。
トランザルプの適度なサイズ感は、750cc時代のアフリカツインを彷彿させ、しかも当時よりはるかにパワフルで軽量なのだ。現行のCRF1100Lは大きくて重すぎるという人にとって、非常に魅力的な選択肢と言えよう。