スプリントは超新星が大魚を逃した!
2024「MOTUL」MotoGP日本グランプリが行なわれているモビリティリゾートもてぎは、土曜までのスケジュールを消化しました。猛暑もおさまり、気持ちのいい秋晴れの季節だなぁ、なんて淡い期待を抱いていたんですが、もてぎは金曜土曜とも曇り時々ぱらぱら小雨、って天気で、路面もフルドライじゃないし、さりとてフルウェットでもない、中途半端なコンディション。幸い、昨年の決勝日のような大雨は降っていませんが、なんともハッキリしない天気です。
きょう土曜日のスケジュールは、各クラスの公式予選と、MotoGPクラスのスプリントレース、それにIDEMITUアジアタレントカップのレース1。それにしても、このお天気、しかも土曜だというのに、たくさんのお客さんがいらっしゃってました。これは「日曜だけじゃなく、土曜にもレースがある」という2023年から始まったスプリント構想のおかげなんでしょうね。スプリントはフルレースの半分の周回数(日本GPではフルレース24周/スプリント12周)だとはいえ、チームやライダーは大変そうだけど、お客さんはうれしいでしょう^^
雨が降りそうで降らない午後に行なわれたスプリントは、その前に行なわれた公式予選で、自身MotoGPクラス初のポールポジションを獲得した「超新星」ペドロ・アコスタ(GASGAS=KTM)が好スタート。しかし、インサイドを予選2番手のフランチェスコ・バニャイア(ドゥカティ)が差してホールショットを奪うと、予選4番手のエネア・バスティアニーニ(ドゥカティ)、マーベリック・ビニャーレス(アプリリア)が続く展開。
バニャイア→アコスタ→バスティアニーニ→ブラッド・ビンダー(KTM)の順で2周目に入ると、3周目にはアコスタがバニャイアをパスしてトップに浮上。アコスタはその後、ぐいぐいとバニャイアを引き離し、とうとう超新星がMotoGP初優勝を達成するのか――という空気がもてぎのスタンドに漂い始めました。
しかし、レースもそろそろ終盤に差し掛かろうという9周目、アコスタはV字コーナーで単独転倒! 初ポールto初ウィンは幻と消えてしまったのです!
レースは、2番手を走っていたバニャイアが入れ替わりでトップに浮上し、2番手はバスティアニーニと、予選9番手からするすると順位を上げたマルク・マルケス(ドゥカティ)。マルケス、こういう不安定な路面コンディションにめっぽう強いですからね。
マルケスは2番手を走るバスティアニーニをジリジリと追い詰め、ラストラップにはついにパッシングしますが、バスティアニーニも抜き返してそのままフィニッシュ! バニャイア→バスティアニーニ→マルケスの順で表彰台に登壇、ドゥカティワークスチームの1-2フィニッシュとなりました。
ここのところ、スプリントもフルレースも、バニャイアと勝ち星を交互に取り合っているホルヘ・マルティン(ドゥカティ)は、予選終盤に転倒して11番手スタートとなったことが影響したか、4位まで追い上げるのが精いっぱい。それにしても記録を見返すと、マルティンってオープニングラップだけで6台をブチ抜いてセカンドグループまで上がってきているんですね!
これが現役レギュラーライダーとして最後の日本グランプリになる中上貴晶(ホンダ)は、スタートに失敗して一時は最後尾まで順位を落とすものの、そこからじりじり順位を上げて17番手を走行中、あろうことかチームメイトのヨハン・ザルコ(ホンダ)に接触されて転倒リタイヤ! ザルコ、なにすんだ!
「せっかくの母国グランプリを、ああいう形で終わらせられてしまって悔しいです。しかも、そんな終盤でもない周回数で、しかもチームメイトにですよ! ちょっと考えられない! 今はレースが終わってしばらく経ったから少し落ち着きましたけど、ちょっと…あれは…ないです」(中上)
きのうは久しぶりにいいフィーリングで走れた、と笑顔を見せていた中上のホームグランプリを邪魔されちゃいましたが、いよいよ日本最後のレースとなる明日のフルレースで、タカが納得できるレースを見せてもらいましょう!
IDEMITSUアジア・タレント・カップは日本勢躍進!
日本から三谷然、高平理智、荻原羚大、竹本倫太郎、池上聖竜の5人が参加している、アジア&オセアニア地区の若手ライダー育成プログラムであるIDEMITSUアジア・タレント・カップ(=IATC)。
ここまで3戦6レースを終えて、三谷が6戦4勝2位2回でランキングトップ、高平がランキング2位、荻原が4位、池上が5位につけての日本ラウンド。今大会は、さらに全日本ロードレースJ-GP3とMFJカップJP250にKIJIMA-KISSレーシングからダブルエントリーしている飯高新悟もワイルドカードで参加しています。
アジア・タレント・カップはこれまで、現WSSP600ライダーの鳥羽海渡、現Moto2ライダーの佐々木歩夢、小椋藍、現Moto3ライダーの古里太陽も通ってきたグランプリライダーへの登竜門。今や全日本選手権すらパスしてIATCからレッドブルルーキーズ、CEV=レプソル・ジュニア・ワールドカップを通過してのグランプリデビューが、世界進出へのスタンダードとさえ言われていますからね。
そのIATCは、決勝前に行なわれた公式予選で三谷がポールポジションを獲得。2番手のファフィヴ・ファリッシュ(マレーシア)をはさんで、ワイルドカードの飯高が予選3番手。荻原が4番手、池上が7番手、高平と竹本は最後列からのスタートです。
決勝レースは、ポールポジションの三谷が好スタートでホールショットを決めると、13周のレース序盤のうちに、三谷→池上→荻原の3人が抜け出します。4番手にキアンドラ・ラマディパ(インドネシア)をはさんで、高平が最後列からジャンプアップして4番手争いへ。6番手争いは、5~6台の集団が出来上がります。
トップ3台は4番手以下よりも明らかにペースが速く、三谷、池上、荻原が順位を変えながら周回。中でも池上のペースがよく、レース中盤はこの3台を引っ張ることになるのです。
しかしIATCは、Moto3のように、ただ速いだけではなく、周回ごとのポジション取りが重要。
「あんまり早いうちに前に出るのは危険なんです。レース中はトップグループにいて、終盤に逆転できる力を残して、最終ラップの90度コーナーくらいまでは2番手とかにいたい」とは三谷。トップを走る3人はそれぞれの思惑と戦略を描きながらレース終盤に突入していきます。
レースは終盤、トップにいるのは三谷。三谷は「(池上)聖竜とかに抜いてもらって後ろにつきたかった」と言いますが、うまく背後に回られて最終ラップへ。池上、荻原が思惑通りの位置取りに成功する中、三谷がキーだと語っていた90度コーナーへ。ここのブレーキング勝負で、池上も荻原も前に出さなかった三谷が、ふたりを抑えきって優勝! 荻原、池上が続きました。
「ものすごく考えることが多いレースでした。最初は自分のペースで逃げようとしたんですが、聖竜が速くて、前に出そうとしたんだけど、聖竜もそれを避けたかったみたいで、こうなったら最後のブレーキング勝負だって思って、それがうまくいってよかった」と三谷。これで三谷は7レース5勝! 明日のレ―ス2の結果次第では、アジアチャンピオンの座が見えてきますね。
「今回はあまりブレーキングで強みが出せなくて苦しいレースでした。地元のレースで2位は悔しいけど、悪くはないと思います。明日はもう少しセッティングを詰めて挽回したい」(荻原)
「スタートがうまく決まって、序盤からいいペースで走れたので、前に出てレースを引っ張るつもりでプッシュしまくりました。トップグループを3人に絞れたのはよかったけど、最終ラップでいい位置にいながら、最後に抜けなかったのは悔しいですね。明日も同じような展開になると思うけど、もっとプッシュして勝ちたいです」(池上)
IATCはこの日本グランプリを終えると、タイ→マレシアの2戦を残すのみ。まずは明日のレース2も日本人ライダー表彰台独占!といってほしいですね。
写真・文責/中村浩史