電動トライアルマシン、ついに実戦投入
すでに電動のモトクロッサー「CRエレクトリック」を全日本モトクロスにスポット参戦させているホンダが、ついにトライアルマシンも電動化。「RTLエレクトリック」を、10/13(日曜)に開催される全日本トライアル選手権 第6戦 和歌山県・湯浅大会に参戦させる、と発表がありました。
RTLエレクトリックは、ホンダ初の電動トライアルマシン。すでにデビュー、実戦にフル参戦できるよう開発を進めているという電動モトクロッサー・CRエレクトリックとの技術交流も進めながら、この全日本トライアル和歌山大会で初公開、初参戦するものです。
そのCRエレクトリックは、全日本モトクロスにスポット参戦後、今シーズンからスタートしたEエクスプローラーワールドカップにもCRエレクトリックプロトとして参戦。ホンダの電動コンペティションマシンは、このRTLエレクトリックが3代目ということになります。
このRTLエレクトリックのテストライダーは、2004年の世界選手権トライアルチャンピオン、フジガスこと藤波貴久。現在は世界選手権トライアルチームのチャンピオンチーム、レプソルホンダのチーム監督を務めています。
「初めてRTLエレクトリックに乗ったのは5月。この時はHRCの敷地で乗ったから、ジャンプや急加速といったトライアル的な動きは出来なかったんですが、ほぼ出来たてのプロトタイプの時からパワーはあるな、伸びしろがスゴいあるんだろうな、って思いました」と藤波。
RTLエレクトリックの開発スタートは、この2年以内。自らもトライアルスーパーA級で全日本トライアルに参戦していたRTLエレクトリックの開発責任者、斎藤晶夫さんが、ライダーの立場として、またエンジニアの立場として開発が進めてきた。
「初乗りでも、トライアル的な動きは出来ませんでしたが、エンジン重量や重心といった基本的なところは斎藤さんがきちんと考えてくれているから問題はありませんでした。次のテストは6月末かな、ここからはトライアルパークで乗り始めました。第一印象は、やっぱりパワーがあるな、と。もちろん、パワーがあればいいというものじゃなくて、次はそのパワーの『出し方』ですよね。つまりモーターの出力をどう出すか、という制御の問題です。これが長い間かけて開発してきた従来のエンジン車に、いかに近づけるか」(藤波)
もちろん、従来のエンジン車――ホンダはモンテッサ・コタ4RTとはまるで違う乗り物。動力がガソリン+エンジンから、バッテリー+モーターに変化したことで、デメリットもメリットもある。
「RTLエレクトリックと従来のエンジン車は、まだ一長一短。大きな違いは、やはりバッテリー+モーターの出力特性を、いかにライダーの感覚に近づけていくかですが、こと出力特性に関しては、従来のエンジン車がエキゾーストやカムといったメニューで特性を変更していったものが、RTLエレクトリックではモーターの出力制御、つまりマッピングで大部分が済んでしまう。これが大きなメリットだと思います」(斎藤さん)
そして、このRTLエレクトリックのデビュー戦のライダーに選ばれたのが、テストライダーの藤波! つい先週まで、インドアトライアルやスペイン選手権トライアルにレプソルホンダの監督として参加していたけれど、5月の初テスト以来、この10月の実戦デビューに向けて、練習やトレーニングをスタートしていたのだという。
そういえば、5月にモビリティリゾートもてぎで行なわれた世界トライアル選手権・日本グランプリに来日していたときの藤波は、もっとマッチョだったというか、トニー・ボウ化していたけれど(笑)、この日はスッキリ。痩せた??って聞くと
「わかります?(笑) 5月から10kgくらい落としましたよ。バイクも僕も重かったから、まず僕がやる気を見せようと思って(笑)」
そう、RTLエレクトリックは、まだ重いのだ。具体的な車重はまだ明らかにされなかったけれど、エンジン車であるRTL301RRは、乾燥重量73kg。これよりもまだ重いのだという。ちなみにRTL301RRは、ガソリンタンク容量が1.9L、RTLエレクトリックの重量は、やはりバッテリーが占める割合も大きい。
「乗っていて、やっぱりエンジン車との大きな違いは、バッテリー残量を気にすることですね。バッテリーが減ってきて、電池が切れていく時の電球みたいに、出力が落ちてしまうケースだってあるかもしれない。RTLエレクトリックは『エコモード』的なものもあって、出力が要らない時にはそっちでバッテリーをセーブするとか、実戦でいろいろ考えていきます」(藤波)
現在、エンジン車に比べての戦闘力は「70%かな、80%かな」という藤波。自身のライディングスキルも、この半年の練習とトレーニングで「2年くらい前には戻っている」という。ちなみに、長く世界を舞台に戦ってきた藤波が全日本トライアルに参戦するのは21年ぶりなのだそうだ。
「エンジン車に比べて、すでに勝っているところも、まだまだ及ばないところもあります。一番の強みは、ゼロ発進からトップスピードに到達するスピードが早いことですね。発進で、エンジン車よりも『ドン』と出ます。それがいい方向に作用することも、悪い方向に作用することもあります」(藤波)
ホンダのトライアルバイクは、1973年発売の市販車・TL125からスタート。この4ストロークエンジン車が、2ストロークエンジンのTLM50へと変化。コンペティション車としては、78年に登場した4ストローク車TLR200から、88年には2ストロークTLM250Rとなり、2005年には再び環境問題の観点から、モンテッサ・コタ4RTでエンジンを4ストローク化。そしてついに、このRTLエレクトリックから電動トライアルバイクにチャレンジするのだ。
「もちろん、エンジン車がすぐに電動に切り替わるわけではありませんが、まず今シーズンの全日本トライアルの残り3戦がスタートです。全日本トライアルの最終戦は、それまでにランキング10位に入っていないと出場資格がありませんから、まずは和歌山と、次のSUGO大会でランキング10位入りを狙います。今シーズンは藤波だけがRTLエレクトリックに乗り、他のホンダライダーがシーズン途中で乗り換えることはありません。いずれは、全日本のエース、小川友幸選手とか、世界チャンピオンのトニーに『乗りたい』と言わせるマシンを作らないとですね」(斎藤さん)
どれくらいの戦闘力があるのか、まったく未知数、白紙だというRTLエレクトリック。ここで成績を出して、可能性を感じて、世界中に広がって行くことも、ホンダがめざすカーボンニュートラルの一環。
現在、全日本トライアルのIAスーパークラスのランキングトップはヤマハの氏川政哉。ヤマハの電動トライアルマシン・TY-Eをライディング氏川は、実は藤波の甥にあたるのだ。
ヤマハの電動トライアルマシンに乗るランキングトップの甥に挑む、ホンダの電動トライアルマシンをデビューさせる、日本トライアル界のレジェンド。
和歌山大会が、がぜん注目を浴びているのです!
全日本トライアル 第6戦 和歌山県・湯浅大会
開催:10/13(日曜日)
場所:湯浅トライアルパーク 和歌山県有田郡 湯浅町山田 1683