文・写真:西野鉄兵
ホンダ「NX400」でゆく2泊3日のキャンプツーリング|1日目
高速道路でズバッと南信州入り
やっぱり最高だ。車格・車重・パワー、すべてが絶妙にちょうどいい。もともと400Xのときから、最高のツーリングバイクだと思っていたが、NX400になってもそれは変わらない。
朝7時半に新宿の自宅を出て、110kmを走り9時半に山梨県笛吹市の中央道・釈迦堂PAで水分補給。再び走り出す。一昨日見た天気予報では、今回の2泊3日はずっと雨になりそうな気配もあったが、昨日の予報で逆転した。結果、朝から日が差し、爽快な青空の下を走れている。
その空は夏空とも秋空とも言い切れない。甲府盆地は蒸し暑さが残っていたものの、小淵沢を過ぎると清涼な風がジャケットのベンチレーションを吹き抜ける。
Tシャツの上に秋物のライディングジャケット一枚だけ。下半身は下着とライディングジーンズ。手には薄めの革のグローブ。もっともバイクに乗るのが気持ちいい季節がやってきた、と全身で感じる。
ここ数年はメッシュジャケットとダウンジャケットの着用頻度が高まっているとつくづく思う。感覚的には絶好のツーリングシーズンは春と秋に1カ月ずつあるかないか。時速80kmで中央道を走っているいま、今年一年でもっとも気持ちよかった瞬間になるかもしれない。
諏訪湖を走りながら右手に眺めて、岡谷ジャンクションから南下を開始。頭の中で地図を思い浮かべて、南信州の旅が始まったことを意識する。岡谷ジャンクションは北へ向かう長野道へ入っても、今回のようにそのまま中央道で南に向かっても、どちらもテンションが上がる。
220kmほど走り長野県辰野町の辰野PAに入った。NX400はまだまだ燃料はたっぷり残っている様子で、頼もしい。PAから望む何気ない景色もいい感じ。
飯田山本インターで中央道を降りる。出発から5時間ほど経ち300km近く走っているのに、疲れはまったくない。絶好の環境下で、NX400だからこそだろう。
パワフルな水冷DOHC並列2気筒エンジンは、中央道では物足りないとさえ感じた。時速80kmは6速だと4000回転ちょい。最高出力は9000回転・最大トルクは7500回転で発生するため、「タラタラしてんじゃねーよ」とか言うかのごとく、余裕のよっちゃんイカなのだ。
南信州は絶景展望スポットだらけ
さて、お昼前だし、キャンプ場へ直行するには早すぎる。目星をつけていた展望スポットを目指そう。
信州の絶景ロードといえば、ビーナスラインや志賀草津道路があまりにもメジャーで、ライダーにも昔から抜群の人気を誇る。それらは岡谷ジャンクションよりも北側に位置するため、ツーリング雑誌の撮影などでも北を目指しがちだ。
南信州はどちらかといえばツウ好みな印象を受ける。ただ、交通量の少ない快走路が幾筋もあり、型にはまらないオリジナルの旅を楽しみやすいエリアだと思う。
何度か訪れた後、南信州の旅の醍醐味は展望台めぐりだと気づいた。Googleマップでもツーリングマップルでも南信州のエリアを見れば、展望台だらけだ。
その中から観光バスでは通りにくそうな道をゆく場所を選ぶ。峠自体も有名じゃない方がいい。頂上にどんな景色が待っているのか、それが当たりかハズレか……聞いたことのない展望スポットを目指す工程は、宝探しの感覚に近く、これがソロツーリングでは最高に楽しい。
これから目指すのは平谷村の「高嶺展望台」。看板によると「長者峰展望台」ともいうらしい。
国道153号から舗装林道を入っていく。さっそくクネクネと急勾配で標高を標高を稼ぎ出した。砂が浮いている箇所もあるが、舗装は綺麗だ。ブラインドコーナーをリーンアウトでゆっくりとパスしていく。
青々した栗がところどころに落ちていた。さらに進むと猿、発見。目が合うとすぐに逃げてくれた。「何か動いた」と思えばリスだった。ぐんぐん上っていく。
対向車はやってこないが気は抜けない。落石の心配もある。6kmと看板には記されていたが妙に長く感じる。道に転がる栗は、茶色いものに変わってきた。色づいた落ち葉の量も増えてくる。一向に展望は開けない。
到着! 当たりも当たり、大当たりな展望スポットだ。
標高は1573m。展望が開けるのと同時に、心地よい冷たい風が身体を冷やしてくれる。
対向車とは一度もすれ違わなかった。ここから先は林道になっているようだが、現在は通行止め。ピストンの峠道になっていた。
そこには一本の立派な松。雲が近い。
ロマンあふれる石碑もあった、「高嶺自然プラネタリウム」。野営は禁止だそうだが、一度ここでも星空を眺めてみたい。
小一時間撮影をしながら休憩したが、頂上には、バードウォッチャーがひとりと、ライダーがひとり上がってきただけだった。風の音だけが聞こえている。
穴場中の穴場、といえるかもしれないが、南信州の展望スポットめぐりでは、だいたいいつもこんな感じで、絶景をほとんど独り占めできる。それほど展望スポットが周辺には点在しているのだ。
買い出しと燃料補給
山を降りて、阿智村でスーパーを探す。ついでに朝起きてから何も食べていなかったので、ハンバーグカレーを食べた。昼時を過ぎていたため、開いている店がなくたまたま入った喫茶店だったが、めちゃくちゃ美味しくて驚いた。
普段自炊をほとんどしないため、スーパーは惣菜・お弁当コーナーしか利用しない。ただ旅先では、どこへ向かえばいいのかは知っている。ずばり“精肉コーナーの端っこ”だ!
目的は、焼くだけで完成する味付け肉。とくに信州ではジンギスカン系が多く並んでいる。南信州の場合は、遠山郷にある鈴木屋の製品がだいたいどこでも手に入る。本日のメインディッシュは“遠山ぶたじん(280g)”に決定だ。
あとはカット野菜とウインナー、ベーコン、鍋キューブを買ってキムチ鍋を作る。それと明日の朝食兼非常食として、菓子パンを買った。