文・写真:西野鉄兵
ホンダ「NX400」でゆく2泊3日のキャンプツーリング|3日目
ナビ任せの功罪
大音量のチャイムで飛び起きた。なになに? ここどこ? 家じゃないじゃん! あ、キャンプしてたんだった。長野県阿智村に来てたんだった。
時刻は朝6時、昨日はまったく気づかなかったが、ここいらでは6時の鐘がなるらしい。テントのなかでも寒い……室温は18.4℃だ。
ビジネスホテルで冷房をちょいと強めに効かせて、羽根布団で寝るあの心地よさ。それを思い出していると、シュラフの中から出るのが億劫になった。
とはいえダラダラしているわけにはいかない。着替えと朝食を済ませて撤収、撤収。夜露でびしゃびしゃのテントは乾かしきれていないが、仕方なし。
けっこう急いで片づけたつもりが起床からパッキング完了まで2時間経っていた。キャンプツーリングというのはそういうもんですな。
まずは飯田市の旧木沢小学校を目指す。ルートはナビ任せ。昨晩、Googleマップで確認したら70kmほどだったと思う。1時間半もあれば着くでしょ。
セットしたナビは、最近お気に入りのパイオニアのカーナビアプリ「COCCHi」。有料版もあるが無料でも利用できる。魅力は案内が非常にていねいで、音声だけでも分岐が正確に分かること。都心部の複雑な交差点や信号が短距離で連続するような場所ではとくにありがたみを感じる。
ちなみにバイク版の「MOTTO GO」というアプリもある。こちらは有料だけど、昭文社『ツーリングマップル』の情報も組み込んでいて、よりライダー向けだ。じつは、こちらを使おうと思ったのだが、無料キャンペーン期間が切れていて、すぐに使えなかったので、あわててインストール済の「COCCHi」を選んだ。
旧木沢小学校には毎年のように訪れている。周辺の道はわりと知っているつもりだ。ただ出発地がはじめて訪れた阿智村のキャンプ場だったため、見知らぬ道が続く。
適度な起伏と適度のカーブが連続し、楽しくて仕方がない。舗装の綺麗な2車線の県道は最高のツーリングロードだ。まだ朝早いため、交通量も少ない。道路に設置されている温度計は、22℃や23℃。最高に心地いい。もう365日・24時間この気温でいいぜ! それじゃ、つまらないか。
それにしてもNX400はいいバイクだ。175cm・73kgの私がキャンプ道具を積んで日本を旅するという点において、最良の一台だと思える。
荷物は積みやすいし、積載した状態でもパワー不足を感じない。荷物がライダーに干渉することもなくて、とにかく楽。ハンドルはよく切れて、取り回しやすく、細い峠道も大得意。キャンプ場の敷地などちょっとしたダートは座ったままでスイスイ走れる。
足つきはちょうどぎりぎり両足かかとが接地する。片足さえしっかりつければ、バイクは乗ることは充分できる。だけど停車時にできることは少なくなる。NX400は、信号待ちなどで跨ったまま、ハンドルから手を離して目薬をさしたり、スマホの通知を確認したり、ヘルメットのシールドを拭いたり、それらのことが“安心して”できる車格だ。
これよりも大きいアドベンチャーモデルでは、それらに不安を感じてしまう。足つきのいい低重心のクルーザー系ではできることが、アドベンチャーやスポーツツアラーではできなくなるのだ。
前身にあたる400Xは2013年にデビューした。登場当初から400cc以下で最強クラスのロングツーリング性能を誇っていた。それから10年間、モデルチェンジを重ね、完成度を高めていった。
とくに400X時代の最後のモデルチェンジで、ショーワ製SFF-BPサスペンションを装備し、同時にフロントブレーキがダブルディスクとなったことが大きい。乗り心地と安心感を大幅に高めた。NX400もこれらの装備は当然ながら踏襲している。NX400は2024年のニューモデルだが、10年以上の実績を積んだロングセラーモデルでもあるのだ。
名車CB400SFに変わって教習車の役割も担うことになった。最初に聞いたときは驚いたが、いまなら大いに納得できる。リラックスして乗れるライディングポジション、扱いやすく特性が分かりやすい2気筒エンジン、よく切れるハンドル。むしろ初心者にはこちらの方が慣れやすそうで、1時限ごとのハンコをもらえる確率も高まる気がする。
……それにしても、見覚えのある道が現れない。目的地の設定を間違えたかと冷や汗が伝った。停車してスマホの画面を確認する。
とりあえず目的地の設定は合っていた。ただ、見るからに遠回りなルートを選んでいる! 山を北からすっと回り込むはずが、南からぐるっと大回りをして、ゴキゲンな爽快ルートをチョイスしてくれている!
念のためお伝えするがナビが悪いんじゃない。使い手がアホなだけだ。しかし、純粋にバイクで走ることが楽しいと思える、むちゃくちゃ楽しいルートだった。また走りたいと思うが、ナビだよりだったゆえに、県道番号や分岐地点を記憶できていない。やっぱり道具は使う者しだいだ。