文:西野鉄兵/写真:井上 演、BMC
10周年を迎えたBMC(ブルー・モンスター・クロージング)
“王道にケンカを売ろう!”から始まったBMCの戦略
どんな世界でも名の知れた老舗は強い。一般アパレルはもちろん、それ以上にスポーツ用品、アウトドア用品など専門性が高まるほどに、その傾向は色濃く感じる。当然、バイク用品もだ。
ローリー青野氏は2015年にBMCを立ち上げた。前職のエドウインで培ってきた知識と経験を活かしつつ、新たなファッションブランドとして、一般アパレルの大海原へと船出を果たす。ところが、順風満帆とはいかなかったようだ。
「独立した直後、服を作るのはこんなにも大変なものなのかと思いました」青野氏は当時を振り返りながら語る。「エドウインの看板がなくなった自分には、誰も興味を持ってくれない、ジーンズひとつ作れないんじゃないか、と焦りました」前職時代に取引していた工場やサプライヤーなどと、これまで通りのものづくりができなくなってしまった。大手企業と一個人、どちらと関係を持てば得か……それは青野氏も当然予想していたことだったため、誰も責めることはできなかったという。
「スムーズに、とはいきませんでしたが、それでも協力してくださる方はいて、ジーンズを作ることができました。独立当時にお世話になった方々への御恩は忘れません。いまでもBMC製ジーンズのリベットやブランドロゴ、ロゴを使ったパッチはその方々に作っていただいたものを使用しています」
2016年7月、最初のデニム製品「BMCジーンズ」が発売される。キャッチコピーは“王道にケンカを売ろう!”。国産生地を使いクオリティにこだわりながら、価格を抑えた一本だった。
同じ年、一般アパレル製品を手掛けつつ、ワークウエアの世界へと飛び込んだ。
「作業服店を展開するオーナーさんとの伝手ができて、デニム地のワークウエアの開発しました。これが最初のヒットアイテムです」
いまでこそデニムの作業服は珍しくないが、2016年~2017年はそれが大きな流行となる初期段階だった。ジーンズ自体、もともと19世紀にアメリカで生まれたワークパンツだ。あらためてデニムと作業現場の相性のよさが再認識され、トレンドとなった。
BMCは、消耗品と捉えられがちな作業着にデザイン性をプラス。こだわりのデニム生地を用いて、耐久性もウリにした。その結果、BMCは作業服界のブームに乗ったブランドとして、認知されていった。
「ワークはかなり好調だったんですけど、その後コロナがやってきました。建設現場などは可動がストップして、全然売れなくなったんです」一難去ってまた一難。コロナ禍は打開策がどうにも見つからなかったという。
「借金はものすごいことになりました。だけど何を作っても売れないし、作ること自体も難しい。とにかく暇で、時間だけはある状態でした。で、バイクの免許を取りに行ったんです(笑)」
2020年に二輪免許を取得し、最初のバイク・ホンダ「FTR223」を購入した。この段階では、あくまで遊びの範疇で、バイク用アイテムを作るという発想はなかったそうだ。
「バイク用品店に服を見に行ったことがきっかけでした。着たい、と思えるものが全然なかったんです」
青野氏の祖父は婦人服の縫製工場を営んでいたという。物心ついたときからファッションの世界に触れる生活を送ってきた。ギアとして特化した仕様やデザインの二輪用ウエアに違和感を持ったのも自然なことなのかもしれない。
「自分が“着たい”“使いたい”と思えるものを自分で作るしかない、と思いました。それがBMCがバイク用品業界に踏み込んだ理由です」
BMCはフットワークが軽い。それは青野氏の行動力に直結している。2020年二輪免許を取得し、バイクを購入、同年にバイク向け製品第一弾の「ライダー専用ジーンズ」と「ライダー専用デニムジャケット」を世に出した。
クラウドファンディングサービスのCAMPFIREを用いた先行販売を実施し、予想を上まわる人気を博した。ここから猛烈な勢いでバイク用アイテムを生み出していく。
BMCのバイク用製品の特徴
BMC製品の大きな特徴は、性能・性質が分かりやすいことだ。製品ごとにキャッチーな名づけをして、ひと目でどんなものなのか分かる。ヒット製品の夏場向け「空冷式ジーンズ」や「空冷式シャツ」、冬場向けの「防風ジーンズ」「防風シャツ」は最たるものだろう。
青野氏は自社製品についてこう話す。「BMCは“一点集中”の機能や特性に重きをおいています。涼しさ最優先、暖かさ最優先、汚れにくさ最優先、シルエットの美しさ最優先、バイクの乗りやすさ最優先などといった具合です」
あれもこれもと機能を搭載すれば、製品の性質がボヤけてしまううえ、価格も高くなる。それは結果として、消費者のニーズとのズレにも繋がりかねない。
BMCの“一点集中”型製品は、見せ方の上手さもあって、CAMPFIREのウェブページでも2りんかんの店頭でも、よく目立った。
2りんかんでのジーンズ販売本数・年間1位を達成
2020年に2りんかんでの店頭販売を開始し、2024年にはジーンズの販売本数ナンバーワンブランドに輝いた。2020年と比較し2024年は、7500%の売上率を記録。2りんかんはバイク用品店で全国最多の店舗数を誇る。「2024年日本一売れたバイク用ジーンズ」をうたってもいい、と2りんかんからお墨付きが出るほど、圧倒的に売れたという。
そんなBMCのシーズン製品は、いまや欲しい時期に手に入らないアイテムとなり、通年製品で定番の「ライダーデニム」も販売開始後、数カ月で完売してしまう。
バイク用品業界に参戦してからわずか4年、なぜここまで躍進を遂げることができたのだろうか。
「不思議ですよね。2りんかんさんにナンバーワンの話を聞いたとき、僕自身驚きました(笑)。考えられるのは“一点集中”を求めている人が意外に多かったということでしょうか。BMCの製品は、既存のアイテムにはないものを心がけて作っています。バイクに乗り始めたばかりの僕が感じたこと、それをそのままカタチにしていっているイメージです。結果として、選んでくれた人が多かった、というのはとても嬉しいことですね」
BMCのバイク向け製品は、CAMPFIREでの先行受注、公式オンラインストア、全国の2りんかんでの販売、この3つしか入手方法がない。これも青野氏の考えあってのことだ。
「独立後に製品を作るのが大変だったと話しましたが、作った後に売ってもらうのも大変だったんです。2020年にバイク向け製品を作った直後は、販売店さん各社へ営業に行きました。新参者だから、相手にしてもらえないこともザラでまさしく門前払い。そんななか、2りんかんさんだけが興味を持ってくれたんです」2りんかんの協力なくして、いまのBMCはなく、感謝してもしきれないという。
ヒット製品が生まれ知名度が上がってからは、逆に販売させてほしいという連絡が続々と来ているそうだ。しかし、現在まで販路は拡大していない。「いつでもどこでも買えるアイテムにはしたくないんです。同時に商売における義理を重んじるタイプでありたいとは昔から思っています」
BMCのバイク製品はCAMPFIRE、公式EC、2りんかんのみでの販売
BMC製品は店頭販売される前にクラウドファンディングサービスのCAMPFIREで先行予約販売が実施されることが多い。これにはどういう意図があるのだろうか。
「はじめは売れる実数がつかめず、リスクを避けるため、という要素が強かったんですが、現在はプロモーションの一環という意味合いがあります。あと、いつも支えてくれているファンの方々への感謝の気持ちもあって、店頭販売や公式ECよりも安い価格で先行予約を受け付けています。そのためBMCのクラファンは1週間や10日間など短めの設定にしているんです」
青野氏はSNSをはじめ、自身のYouTubeチャンネルも持ち、積極的に発信を続けている。YouTube「ローリー青野のバイクライフch.」は、青野氏の思いや考え方、人柄をもっともダイレクトに感じられる場だ。動画のコメント欄には視聴者からの温かいメッセージが並んでいる。BMCは熱量の高いコアなファンが多いブランドでもあることがよく分かる。
「僕自身ファッション業界には長く籍を置いていますが、バイクはまだまだ詳しくありません。ファンのみなさんの意見は本当にありがたく、考え方の合った人たちと一緒に理想の製品を作っている感覚で、とてもやりがいを感じています」
4年の間にブランドの認知度は急激に高まっている。アンチコメントなどはないのだろうか。
「そりゃ当然ありますよ。YouTube配信でもよく話していますが、BMCの製品は特性を理解した人だけに買ってもらいたい。もっといえば僕の考えに共感してくれる人だけ買ってくれればいい、と強く思っています。逆に何も考えずなんとなく買われると、その人にとって、まったく役に立たないアイテムだったということもあり得ます。“一点集中”が裏目に出てしまうんです」
いまではデニムに限らず、多種多様な製品を手掛けているが、販売にいたったオリジナルアイテムには、どれも青野氏のこだわりが詰まっている。ひとつひとつ、すべてに濃い開発エピソードがある。それらは青野氏のYouTube動画とともに、CAMPFIREのプロジェクトページでも確認できる。
▶▶▶YouTube|ローリー青野のバイクライフch.
▶▶▶CAMPFIRE|BMCの過去のプロジェクト一覧
10周年を迎えて。BMCの今後のプロジェクト
2015年に創立したBMCにとって2025年は10周年の節目となる。今後の計画についてうかがった。
「2025年も、バイク用品を中心に新製品を次々と展開していく予定です。2りんかんでのジーンズ販売本数年間ナンバーワンという実績は継続できるよう頑張りたいですね。せっかく獲得できたので、この機に“Thanks No.1”をキャッチコピーにして、より多くの人にBMCを知っていただく一年にしたいです」
トピックスのひとつとして、定番の「ライダーデニム」がモデルチェンジをするという。こちらはCAMPFIREでの先行予約は行なわず、2月下旬に2りんかんで販売開始される予定。また早期の完売が予想される。
このほか「空冷式ジーンズ」「空冷式シャツ」のニューモデルに加え、新アイテム「空冷式グローブ」も夏前に登場予定。秋に発売予定の新「防風ジーンズ」も開発中とのこと。さらに防水性能を極限まで追求したレインスーツや、新たなシートバッグ、シューズのプロジェクトも進行しており、毎月のように新製品が発売される見込みだ。
2024年11月には大手アウトドアブランド「コールマン」とコラボレーションした防寒ライディングジャケットを発売した。同年10月にはアウトドアブランド「ジェリー」とのダブルネームで、登山もできるライディングシューズを発売。こういったコラボ製品もより積極的に手掛けていくという。
「あと、これは少し先にことになりそうですが、製品とは別に、ライダーが集まれる場を作りたいという思いもあります」と青野氏は話す。「ハンバーガーショップやおむすびスタンドのようなことがBMCの名を冠してできたら面白そうだな、という構想はあって、いい物件を常に探している状況です」
ブランド設立からこれまで決して平坦な道を歩んできたわけではない。むしろ苦難の連続だったといっていいかもしれない。10年目を迎えたBMCは、さらなる飛躍を目指し、攻めの姿勢を貫くようだ。青野氏の目を見ていると「やりたいことが山ほどある」、そんな思いが伝わってきた。
老舗に真っ向勝負を挑み、王道にケンカを売る──。ファッション業界からやってきた新星の輝きは、きっとまだまだこんなものではない。
2025年1月|いま買えるBMCのおすすめ製品
BMC 空冷式ジーンズ 2025年モデル
看板製品のひとつ「空冷式ジーンズ」の2025年モデルが登場した。夏場の暑さに対抗する涼しさを重視したライディングジーンズ。最新モデルは、エンジンから受ける熱の対策が施され、サイズ感も少しゆったりめに調整された。カラーはブルーリンスと淡色USEDの2色。店頭販売は5月下旬以降の予定。1月中の予約なら15%オフ!
BMC ライダー専用防風シャツ
バイクの走行風に対抗するために作られたシャツデザインの防寒ジャケット。プロテクターを肩・肘・背中・胸部に標準装備。真冬はインナーとして、春先にはアウターとしても使える便利な一着。カラーはブラック、ブルーグレー、ホワイトの3色。
BMC×GERRY アウトドアができるバイク用シューズ
トレッキングができるライディングシューズをコンセプトに開発された意欲作。米国のアウトドアブランド「ジェリー」とのコラボレーション製品。歩きやすさとともに、脱ぎ履きのしやすさも魅力。ブラック、ベージュ、オリーブ、ブルーグレーの4色をラインナップ。
BMC×月刊オートバイ ライダー専用ブラックジーンズ
月刊『オートバイ』編集部が監修し、クオリティの高さにこだわった完全日本製のブラックジーンズ。BMC製ジーンズは基本的に股下の長さが共通だが、この製品は76cm・81cm・86cmの3サイズから選べる。ウエストはS(71cm)~4L(101cm)までの計6サイズ。
BMC ライ暖ジャケット
防風性能と保温性能に優れたライディングフリースジャケット。ポケットが豊富で収納力も魅力。脱着可能なインナーベストも付属。カラーはグレーとオリーブの2色。普段着感覚で着られて、キャンプや釣りなどアウトドアシーンでも活躍する。
BMC ライダー専用ベストリュック
容量25Lのリュックと、胸部プロテクター付きのベストを一体化したアイデア製品。撥水素材を使い、部分的に止水ファスナーも採用。リュックはメイン気室のほかポケットも豊富で細かなアイテムも収納しやすい。ベスト部分にもポケットを多数配備。収納力と防護性能をあわせ持つ。