2025年2月21日から23日にかけて、スーパーバイク世界選手権2025年シーズンの開幕戦がお馴染みオーストラリア・フィリップアイランド・サーキットで開催される。昨シーズンはタイトル決定が最終戦までもつれ込んだものの、トプラク・ラズガットリオグルとBMWがシーズンを席巻した。そして迎えた今シーズン、いったいどんなドラマが待ち受けているのだろうか。

新チームやルーキーも加わり今シーズンも注目のSBK

2024年シーズンはこれまでのシーズンと異なり、複数のメーカーによって優勝争いが繰り広げられた。そんな中、強さを見せたのは近年SBKやMotoGPで猛威をふるっているドゥカティと2021年のチャンピオンであるラズガットリオグルが移籍したBMWだった。

画像: 最終戦までタイトル争いを演じたラズガットリオグルとブレガ。 www.worldsbk.com

最終戦までタイトル争いを演じたラズガットリオグルとブレガ。

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激しいタイトル争いを演じた両陣営は、体制変更なくコンビを継続。BMWワークスであるROKIT BMW MOTORRAD WORLDSBK TEAMにはラズガットリオグルとマイケル・ファン・デル・マーク、ドゥカティワークスであるAruba.it Racing – Ducatiにはニッコロ・ブレガとアルバロ・バウティスタが継続参戦する。

この2強に割って入りたいのがヤマハ、そして今季から新規参戦を果たすビモータだ。昨年、長きにわたり栄華を極めたカワサキとのコンビを解消し、ヤマハのワークスチームに移籍したジョナサン・レイ。しかし、移籍初年度は勝利なし、ポールポジションと表彰台がそれぞれ1度のみとキャリア最低のシーズンに終わってしまった。

これはレイを取り巻く環境が影響している。これまでレイはカワサキ時代にクルーチーフのペレ・リバとタッグを組んでいた。レイのライダーとしての実力は言うまでもなく世界トップレベルであり、SBK6連覇という前人未到の記録を見れば改めて言わずともそれは明らかである。

しかし、ライダーの力のみで勝てるほどレースの世界は甘くない。戦闘力があり、尚且つ扱いやすいバイクが必要となる。そのバイクを仕上げるためには、ライダーが正しいインフォメーションを的確にチーフクルーに伝えなければならないのだ。

画像: 今年からレイの担当チーフとなったオリオール・パラレス(左) www.worldsbk.com

今年からレイの担当チーフとなったオリオール・パラレス(左)

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レイは歴史に名を刻んだチャンピオンではあるが、インプレッションに一貫性がなく、開発には向いていないと自身でも語っている。理論的というより感覚派というべきか。そんな彼がこれほどまでの成功を収めたのは、求めるものを察し、勝つために必要なことを全て提供してくれたチーフクルーであるリバの存在があってこそだ。

レイの不調の原因は、仕事をしたことがないメーカーにひとりで移籍しなければならなかったからではないだろうか。実際、レイは移籍時にリバを誘っているが、彼はカワサキに残る決断をした。これまでリバが全てを汲み取ってくれた環境から一転、一からスタッフとの関係を築かなければいけなかったのだ。

今シーズン、チーフクルーをアンドリュー・ピットからオリオール・パラレスに変え、ヤマハで2年目のシーズンに挑む。レイの復活があれば今年のSBKはさらに面白くなるだろう。

そしてもう一つの注目メーカーがビモータだ。前年のカワサキファクトリーチームを引き継いでSBKに参戦するBIMOTA BY KAWASAKI RACING TEAM。ビモータ製フレームにZX-10RRのエンジンを搭載したKB998リミニで今シーズンを戦うことになる。ライダーはアレックス・ロウズとアクセル・バッサーニで昨年のKRTと同じ体制で継続参戦する。

画像: ライムグリーンから白と赤が基調のカラーリングとなった。 www.worldsbk.com

ライムグリーンから白と赤が基調のカラーリングとなった。

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シェイクダウンテストから好タイムを出しており、昨年末に行われたウィンターテストではトップタイムを出すなど好調。ドゥカティとBMWは今年も強さを見せることが予想されるが、復調の兆しを見せているホンダを加えた5メーカーが優勝争いをする刺激的なシーズンになることを期待せずにはいられない。

サテライトチームにも動きがあった。昨年、SBK初優勝をハットトリックで決めたダニーロ・ペトルッチが所属するBARNI SPARK RACING TEAMが2台体制となり、昨年スーパースポーツでランキング3位を獲得したヤリ・モンテッラが昇格した。

画像: ヘレステストでは生憎の天気となったが、精力的に走行を重ねるルーキーのモンテッラ。 www.worldsbk.com

ヘレステストでは生憎の天気となったが、精力的に走行を重ねるルーキーのモンテッラ。

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ギャレット・ガーロフがBonovo Action BMWからPuccetti Racingに移籍。プセッティは今季唯一カワサキを使用する実質的なカワサキのファクトリーチームとして、名称もKAWASAKI WORLDSBK TEAMに変更となった。

画像: 唯一のカワサキユーザーとなったガーロフ。今年もライムグリーンのバイクが走ることに。 www.worldsbk.com

唯一のカワサキユーザーとなったガーロフ。今年もライムグリーンのバイクが走ることに。

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ガーロフが抜けたBonovoはマシンをBMWからドゥカティにスイッチし、スコット・レディングのみの1台体制となった。MotoGPで戦い、BSBチャンピオンを獲得しSBKにやってきたレディングは初年度からチャンピオン争いを展開する活躍を見せた。しかし、BMWに移籍後は苦戦し、成績は低迷。さらにBMWがチームとの提携を解消することになり、レディングは契約を残しながらもシートを失うという不運にも見舞われた。しかし、チームがドゥカティにスイッチしたこと、そしてレディングが持参金を持ち込んだことによりSBK参戦を継続することが決まった。

画像: マシン、カラーリングともに一新し今シーズンに挑むレディング。 www.worldsbk.com

マシン、カラーリングともに一新し今シーズンに挑むレディング。

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これまでの実績を考えるとレディングほどのライダーが持参金を持ち込むというのはプライドが許さないはず。2021年、モストの表彰台で婚約者に公開プロポーズしたことも記憶に新しい。家族ができた今、1年間を無給で走るのは苦渋の決断だったことだろう。それでもSBKで自身の存在価値や速さを証明したいというレディングの今シーズンに懸ける想いがそれらを上回ったのだ。

全てをかけた1年になるレディングだが、相性が良く、ともに何度も優勝を果たしたパニガーレを手にした今シーズン。レディングの豪快でアグレッシブな走りが見たいところだ。

マイケル・リーベン・リナルディがスーパースポーツに転向し、MOTOCORSA RACINGには昨年までBSBで戦っていたライアン・ヴィッカーズ(MOTOCORSA RACING)が加入。

ティト・ラバトはPuccetti RacingからYAMAHA MOTOXRACING WORLDSBK TEAMに移籍し、スーパースポーツからステップアップしたバハッティン・ソフォーグルがチームメイトになっている。

上記記載した以外に関しては昨年同様の体制で今シーズンを挑むこととなる。

2025 スーパーバイク世界選手権参戦ライダー

1 トプラク・ラズガットリオグル(ROKIT BMW MOTORRAD WORLDSBK TEAM)
60 マイケル・ファン・デル・マーク(ROKIT BMW MOTORRAD WORLDSBK TEAM)
11 ニッコロ・ブレガ(Aruba.it Racing – Ducati)
19 アルバロ・バウティスタ(Aruba.it Racing – Ducati)
55 アンドレア・ロカテッリ(PATA YAMAHA)
65 ジョナサン・レイ(PATA YAMAHA)
22 アレックス・ロウズ(BIMOTA BY KAWASAKI RACING TEAM)
47 アクセル・バッサーニ(BIMOTA BY KAWASAKI RACING TEAM)
87 レミー・ガードナー(GYTR GRT YAMAHA WORLDSBK TEAM)
77 ドミニク・エガーター(GYTR GRT YAMAHA WORLDSBK TEAM)
29 アンドレア・イアンノーネ(TEAM PATA GO ELEVEN)
9 ダニーロ・ペトルッチ(BARNI SPARK RACING TEAM)
5 ヤリ・モンテッラ(BARNI SPARK RACING TEAM)
7 イケル・レクオーナ(HONDA HRC)
97 シャビ・ビエルヘ(HONDA HRC)
31 ギャレット・ガーロフ(KAWASAKI WORLDSBK TEAM)
45 スコット・レディング(MGM BONOVO RACING)
17 ライアン・ヴィッカーズ(MOTOCORSA RACING)
14 サム・ロウズ(ELF MARC VDS RACING TEAM)
27 アダム・ノルディン(PETRONAS MIE HONDA RACING TEAM)
95 タラン・マッケンジー(PETRONAS MIE HONDA RACING TEAM)
53 ティト・ラバト(YAMAHA MOTOXRACING WORLDSBK TEAM)
99 バハッティン・ソフォーグル(YAMAHA MOTOXRACING WORLDSBK TEAM)

今シーズンも新しいサーキットが追加

今シーズンも12戦36レースが行われるSBK。昨年実施されたカタロニアが外れ、今年から新たにハンガリーがカレンダーに加わった。ハンガリーでトップクラスのモーターサイクルレースが行われたのは実に30年以上前のこと。舞台は2023年にオープンしたばかりのバラトン・パーク・サーキットだ。

画像: 今季からカレンダー入りしたバラトン・パーク・サーキット。 www.motogp.com

今季からカレンダー入りしたバラトン・パーク・サーキット。

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全長4.115km、コーナー数は全部で16のコーナーがあり、右コーナー6、左コーナー10というレイアウト。また、2輪用にシケインなどが追加されるという。

SBKのみならずMotoGPの開催も決まっており、向こう10年間はハンガリーでの開催が確定したようだ。しかし、バラトン・パーク・サーキットではなく、F1でも有名なハンガロリンク・サーキットでの開催に移すオプションもあるとのこと。

今年に関してはバラトン・パーク・サーキットでの開催は間違いないだろう。

ドゥカティ、ビモータが好タイム連発!

今年に入りヘレスとポルティマオで行われたテストで好調だったのがタイトル奪還を目指すドゥカティと今年からの参戦となるビモータだ。

ともに全てのセッションでトップ5に入っている両陣営。特に今季から参戦するビモータの好走には注目が集まっている。

画像: 好調をキープしているビモータ勢。開幕戦ではデビュー戦初優勝もありえる!? www.worldsbk.com

好調をキープしているビモータ勢。開幕戦ではデビュー戦初優勝もありえる!?

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ビモータ製フレームにZX-10RRのエンジンを搭載したKB998リミニは可変式のフロントウイングを装着。MotoGPでは可変式ウイングは禁止されているが、市販されるKB998にはこの可変ウイングがついている。SBKでは市販車に備わっている技術であればレースに使えるのだ。

このデバイスが好調の一因かは定かではないが、実際他メーカーを上回るタイムを出していることも事実。昨年カワサキファクトリーのロウズが開幕戦で優勝したように、今年はビモータがいきなり勝ってしまうなんてことも十分にありえるだろう。

一方、ディフェンディングチャンピオンであるラズガットリオグルとBMWのスタートは苦難の連続となった。ヘレスでの合同テストを前に、ラズガットリオグルがトレーニング中に右手の人差し指を骨折し手術を受けたため、欠場することになってしまったのだ。さらに、BMWは今年、前年まで受けていた優遇措置が消滅することが決定。昨年のスーパーコンセッションによるスペシャルシャシーを使用できなくなった。

チャンピオンを獲得し、優遇措置を受けられなくなるのは当然。しかし、BMWは性能は変わらないとして当該のシャシーで新車を組み立てていた。この正式決定によりBMWは急遽市販車と同じフレームで戦うことになった。

もちろんポテンシャルも低くなり、セッティングもやり直すことになる。さらにエースの怪我が重なるなどBMWにとって厳しいスタートとなったのだ。

ラズガットリオグルはヘレステストは欠席したものの、ポルティマオでのテストに強行出場。完全に治っていないため、人差し指と中指をひとつにまとめた特製のグローブで走行を重ねた。

画像: ポルティマオテストでラズガットリオグルのライディングをサポートした特性グローブ。 www.worldsbk.com

ポルティマオテストでラズガットリオグルのライディングをサポートした特性グローブ。

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これはノーマルのフレームでのセッティングを煮詰める必要があるためだ。ポルティマオのテストが終わればすぐに開幕戦の地であるオーストラリアに向かわなければならないため、ここでのテストは必須。BMWには時間がない。

そんな中でもラズガットリオグルは初日トップ、2日目は2番手タイムを記録。この状況下でこのパフォーマンスは恐れ入る。

ライバルたちの接近は間違いないが、やはりこの男がいる限り、チャレンジャーたちは簡単に勝つことはできないのかもしれない。

画像: 怪我に加えチームのゴタゴタに巻き込まれながらもトップタイムを記録するラズガットリオグル。 www.worldsbk.com

怪我に加えチームのゴタゴタに巻き込まれながらもトップタイムを記録するラズガットリオグル。

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開幕戦はタイヤ交換実施

通常はレース中のタイヤ交換義務はないSBKだが、開幕戦フィリップアイランドではフラッグ・トゥ・フラッグ方式で行われ、全ライダーにタイヤ交換のためのピットストップが義務付けられることが発表された。

これはレースウィークの天候が予測不能であり、広範囲にわたる路面温度に関する懸念によるもの。特殊なレイアウトと路面が特徴のフィリップアイランドでは従来のフォーマットでは安全性を確保することが難しいと判断。

リアタイヤは11周を超えてはならないと決定された。レース1とレース2は20周に設定され、ライダーには週末に追加のタイヤ 2セットが割り当てられることになった。

開幕前から話題に事欠かない今年のSBK。予測不能のシーズンは2月21日からオーストラリアで開幕する。

2025スーパーバイク世界選手権 年間スケジュール

開幕戦 オーストラリアラウンド 2月21日〜23日
第2戦 ポルトガルラウンド 3月28日〜20日
第3戦 オランダラウンド 4月11日〜13日
第4戦 イタリアラウンド 5月2日〜4日
第5戦 チェコラウンド 5月16日〜18日
第6戦 エミリアロマーニャラウンド 6月13日〜15日
第7戦 イギリスラウンド 7月11日〜13日
第8戦 ハンガリーラウンド 7月25日〜27日
第9戦 フランスラウンド 9月5日〜7日
第10戦 アラゴンラウンド 9月26日〜28日
第11戦 エストリルラウンド 10月10日〜12日
第12戦 スペインラウンド 10月17日〜19日

レポート:河村大志

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