ヤマハが送り出した2025年モデルのテネレ700は、デビュー以来初の大幅改良を受けた一台。電子制御スロットルの採用や外装の刷新など、多くの変更点を持ちながらもテネレの魂は失われていない。オフロードとオンロードの境界を軽やかに超える、その実力を初中級者の視点から余すところなく紹介する

PHOTO/Shota Kawakami

画像1: 新型テネレ700 オフに乗りに行きたくなる極上パッケージ

ヤマハ
テネレ700 2025年モデル
メーカー希望小売価格
1,452,000円 [消費税10%含む]

異次元のオフロード親和性

ヤマハが本家ダカールラリーから、アフリカエコレースへと活躍の場を変えてテネレ700を常勝マシンに仕立てたこと。ネットミームを生み出すべく、エルズベルグロデオにテネレ700とポル・タレスのタッグで出場し完走を目指すというむちゃくちゃなチャレンジをしていること。テネレ700が、アドベンチャーバイクの中でもとりわけ異質でオフロードネイティブなバイクだということが、世界的にPRされている。あんな泥まみれのテネレを見せつけられたら、憧れざるを得ない。僕自身、まんまとヤマハのプロモーションの術中にハマってしまった。

とはいえ、自分もテネレに乗ればタレスのようになれる……はずはない。それでも、他のアドベンチャーバイクに比べれば、リアを滑らせたりして楽しみやすいマシンであるだろうことは想像に難くない。やっぱりこういうのがオフロードバイクのド直球な売り方だと思う。というわけで、機会を得たのでさっそく新型のテネレ700にたっぷり乗ってきた。今回の試乗で何よりも印象深かったのは、700ccというエンジンサイズを持つマシンをオフロードで走らせる快感だ。トルクの塊のようなエンジンがバイクを突き進ませる感覚は格別で、多くのビッグオフラバー達のこれで林道を走りたいという気持ちが痛いほど理解できる。初中級者である自分のような腕前では、シングルトレイルのような難しいオフロードに挑戦したいとは思えないが、試しにモトクロスコースを走ってみるだけでも楽しい。北海道の広大な大地で走ったら、さぞ気持ちいいだろうと想像できる。

画像: 異次元のオフロード親和性

一言で表現するなら「すごく速い、でかいトレールバイク」という感覚だ。エンデューロバイクのような作りではなく、「でっかいセロー」だが極めて高速という印象だ。ひとひねりするとどこかに吹っ飛んでいきそうなほどのパワーで、80〜100km/hにあっという間に到達する。250ccクラスのトレイルバイクでは味わえない楽しみ方ができる。

興味深いのは、旧型テネレ700と比べて、オフロード性能が抑えられたわけではないのに、ロードでの快適性が向上している点だ。足回りもとても安定していて、旧型のテネレ700はオフロード志向が強すぎて、ロードバイクとして設計されたアドベンチャーバイクと比べると少しふらつく部分があったが、新型はそういった神経質な部分がまったくない。素直にどこでも行ける、テネレの完成形とも言える印象を受けた。

電子制御がもたらす新次元

大きな変更点の一つが電子制御スロットルの採用である。これにより、走行モードが選べるようになり、トラクションコントロールも使えるようになった。「テネレにそんなものはいらない」という意見もあるかもしれないが、実際に乗ってみるとその利便性は明らかだ。

特に街中での乗りやすさは格段に向上している。スポーツとエクスプローラーという2つのモードが選べるのだが、後者を選ぶと神経質な部分が消えて穏やかな乗り味になる。オフでもフラット路面ではエクスプローラーを使い、林道でしっかり走りたい時やスポーツライディングを楽しみたい時はスポーツモードにするという使い分けができ、メリハリが効いている。

画像1: 電子制御がもたらす新次元

この電子制御スロットルが最も気に入ったポイントなのだが、驚くべきことに「電スロらしくない」感覚だ。本来、フライ・バイ・ワイヤ(ワイヤなしで制御する仕組み)のバイクはスロットルが繋がっていない感じがするものが多いのだが、テネレ700にはそれがまったくない。ワイヤでバタフライバルブを引っ張っているかのような感覚で、しかもモードを変えるとその違いもアクセルの開閉具合でしっかり感じられる。スポーツモードでゼロ位置から開けると若干ツキの強さを感じ、ヤマハYZ250FXシリーズにも通じる低速の元気のよさがあるのだが、これはもしかすると人によって扱いづらいと受け取るかも知れない。僕もシチュエーションによっては神経質になったけれど、エクスプローラーモードにすることであっさり解決した。

一般的なアドベンチャーバイクと比べて、機能面でも余計な複雑さがなく、テネレらしい。トラクションコントロールはオン/オフだけ、ABSもオン/オフのみという選択肢の少なさが、かえって使いやすさを生んでいる。車重があるので、バイクを傾ける気にはなかなかならないけど、少しラフにスロットルを開けることで路面を蹴飛ばしながら土の上を猛進する快感は、おそらくほとんどのライダーが味わえるほど懐の深いものだ。こういうのがとても大事だと思う。どんなにパワーがあっても結局それをオフで味わうにはスキルが必要、となるとしんどい。テネレなら、万年ビギナー稲垣でもちゃんとルーストを上げられる。

画像2: 電子制御がもたらす新次元

メーターも6.3インチに拡大され、高精細になった。スマートフォンと接続してナビやミュージック、ウェザー情報なども表示できる。最近のアドベンチャーバイクのトレンドに合わせた機能だが、過剰ではなく必要最低限に抑えられている。USB-Cのアウトレットも備えられ、実用性は十分だ。

魔法の絨毯のような乗り心地

最も印象的だったのが、サスペンションの性能だ。エンデューロバイクから乗り換えた瞬間に感じる「魔法の絨毯」のような乗り心地は特筆すべきものだ。ダートを魔法の絨毯のようにスムーズに移動でき、スライドも思い通りにコントロールできる。

サスペンションはフロントにφ43mm倒立フォークを搭載し、新たにイニシャル調整機能も追加された。リヤはプログレッシブ性を持たせたリンケージを維持しながらも、セッティングとリンク機構が変更され、ピギーバック式のショックアブソーバーになった。モトクロッサーやエンデューロバイクはオフロードを走ると細かい衝撃を吸収しきれずに振られることも多いが、テネレ700のサスペンションはトレールバイク的な仕上がりになっている。初中級者が林道やガレ場、ギャップのあるコースを走っても快適に感じられる特性を持っている。

画像1: 魔法の絨毯のような乗り心地

足付きは180cmの身長でもつま先立ちという程ではないが、かかとは付かないレベル。車体重量もあるため、慣れるまではそれなりに緊張感がある。シートの横幅が広めなので、足が素直に下に降りない感じがあるが、気になるならシート形状をわずかに変更するだけで改善する余地があるだろう。なお、後日東京モーターサイクルショーでシートとリンクで3cm下げたローダウンパッケージもまたがってみたが、3cmも下がるとさすがに改善が見られた。

スタンディングポジションの取りやすさも進化している。ニーグリップする部分のタンク形状がよく、前後移動がスムーズになった。ハンドルも絞りがなく真っ直ぐな形状で、モトクロッサーのようなダイレクトな感覚で操作できる。またシートも以前はオプションでしか選べなかった一体型タイプが標準装備となった。

画像2: 魔法の絨毯のような乗り心地

外装デザインはYZのようなスポーティな印象に変わり、ゼッケンを貼るような場所まで用意されている。これはテネレが目指すスポーツ向けの方向性を如実に表している(とはいってもレースに出ろってことでは…ないよね?)が、同時に700ccのバイクとしての高級感も失われていない。プラスチックパーツも非常に綺麗に仕上がっており、塗装にはメタリックも入っている。

峠道から高速道路まで - 驚きの汎用性

先ほども少し述べたが、テネレ700の真の魅力はオフロード性能の高さだけでなく、ロードでの走行性能にもある。特に驚いたのは高速道路での安定感と快適性だ。「テネレこんなに良かったっけ」と思わずにいられない乗り心地だ。

旧型はオフロード性能を追求するあまり、セロー250のようにロードバイクとしての快適さが若干犠牲になっていた部分を感じていたが新型は違う。ロードバイクとしてのツーリング性能を大きく向上させながらも、オフロードバイクとしての魅力や機能性を失っていない。

6速で80km/hのクルージングは、「楽チン」という言葉では足りないほど快適だ。トップの6速なのに十分なトルクがあり、高速域になると街中やダートで感じていた270度クランクの心地のいいパルス感が消えて、モーターのようにシュルシュルと回る感覚がある。21インチのフロントホイールでも不安定さはまったくなく、高速走行時の小刻みな振動も感じられない。

雨の中の峠道や山道でも扱いやすさを実感した。超スローになるタイトコーナーでも4速キープで走れるねばりのあるエンジン特性は素晴らしく、ギヤを極端に落とさずとも気持ちよく立ち上がっていける。これはツーリングライダーにとって大きな武器となるはず。大型バイクの中には低速でギクシャクしがちなエンジンを持つモデルも多いが、低速で粘るエンジン特性により、3速や4速といった高めのギアを使ったスムーズなクルージングができる。

この低速トルクの伸びは、吸気ダクトのショート化などによってさらに強化されており、旧型と比べても一段と太くなった印象だ。「本当にエンストすることを知らないんじゃないか」と思えるほどの粘りがある。これはギアボックスの内部改良も寄与しており、1~3速のドッグ穴とツメを5枚から6枚に増やしてショックを軽減し、4~6速のドッグ角度変更によってスロットル開閉時の挙動をスムーズにしている効果もあるだろう。

画像: 峠道から高速道路まで - 驚きの汎用性

細部にまでこだわりが見られるのもこのバイクの魅力だ。クラッチレリーズが35度後ろに移動し、周囲のプロテクターも変更されてライディングブーツが引っかからないよう配慮されている。サイドスタンドスイッチも岩場に乗り上げた際に当たりにくくなるよう再設計されている。これらの細かい改良からは、実際のオフロード走行経験に基づいた開発者の情熱を感じさせる。

真のオールラウンダーへの進化

テネレ700の2025年モデルは、初中級者にとって非常に魅力的なパッケージに仕上がっている。オフロードの自由と楽しさを追求しながらも、日常的な使いやすさや長距離走行の快適性を損なわない絶妙なバランスを達成した。

開発者の想いが、隅々まで伝わってくるような仕上がりのテネレ700に乗ると「もっと走りたい」「林道に行きたい」という欲求が自然と湧いてくる。シンプルな操作系、直感的な乗り味、そして多様な路面に対応できる懐の深さは、まさに「オフに乗りに行きたくなる極上パッケージ」と呼ぶにふさわしい。

旧型の良さを継承しつつ、弱点を補強した今回のモデルチェンジは、テネレ700がただのアドベンチャーバイクではなく、真のオフロードマシンとしての魂を持ち続けていることを示している。「オフロードバイク」と「アドベンチャーバイク」の境界を曖昧にするような、そんな特別な一台として、これからも多くのライダーを魅了し続けるだろう。

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